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シスター・ラディ ~ビギニング~

今回のお話は「第8話 魔力操作の練習」の頃。

そして、過去の回想となります。




 キフロドは、教会脇の木陰に椅子を置き、教典を読んでいた。

 夏が近くなり、日差しは強くなってきたが、木陰に入れば涼しい。

 そうして教典を読んでいると、一枚の葉っぱが手元に落ちてきた。

 その葉っぱを摘まみ、視線を上げる。


「そろそろ昼になるかの……。」


 キフロドは立ち上がると、ゆっくりと身体を伸ばす。

 腰をトントンと叩き、傍らの椅子を持って教会に戻っていった。







 ダイニングに顔を出すと、ラディが手紙を書いているところだった。

 いや、よく見るとそれは手紙ではない。

 ラディが書いているのは、”秘端覚知(ひたんかくち)()”という儀式の報告書だ。

 ラディの持ったペンは進まず、じっと考え込んでいるようだった。


 この儀式は、教会にとって最重要な儀式の一つだ。

 神々に選ばれ、特別な資質がなければ、【神の奇跡】を扱うことはできない。

 それは、とても特別な力だった。

 その才能を持った子供を選別するために、すべての教会で七歳の子供に儀式を行うことが、教会内の取り決めで義務付けられていた。


「随分と苦労しておるようじゃの、ラディ。」

「あ、キフロド様。気づきませんで。」


 ラディが立ち上がろうとするのを、キフロドは軽く手で制止する。


「初めてのことで、どう書けば良いか分からんか?」

「いえ、そうではないのですが……。」


 書き方が分からないのかと尋ねると、ラディはそれを否定した。

 いつもは『候補はいません』と書けば済むことなのだが、今年は『候補がいました』と書くことになる。

 しかし、ラディにとっては初めてではあるが、そこまで悩むようなものではない。


「その……ただ『いました』だけで済ませて良いものかと思いまして。」


 ラディが悩んでいるのは、『いた』という結果ではなく、どうやらその内容のようだった。

 キフロドは、首を捻る。


「儂には、そういった才能がさっぱりないので分からんのじゃが……。そんなにすごいのか、ミカのやつは。」


 今年の儀式で、一人だけ才能のありそうな子供がいた。

 ミカ・ノイスハイム。

 何てことのない、ごく普通の男の子だ。

 ところが、ミカの持つ才能はちょっとあり得ないほどだと、先日ラディが興奮気味に報告してきた。

 ミカは国の基準では漏れたが、教会の定める基準では、かなりの資質を示したという。


 キフロドは何度か顎を撫で、ラディにアドバイスした。


「では、報告書には『いました』と、形式通りに上げればよかろ。」

「ですが、それだけではミカ君の類稀な才能が――――。」


 反論しかけたラディを、再びキフロドは手で制す。


「報告書とは別で、司教宛に手紙を出せばええじゃろ。どこがどう特殊なのか、その詳細を書けばええ。」

「よろしいのですか?」

「別に禁止されてはおらんな。通り一遍の、形式的な報告では表せないのなら、きちんと伝えておきなさい。その情報の要不要は向こうが判断すればいいことじゃ。」

「分かりました。」


 キフロドのアドバイスに、ラディは丁寧に頭を下げる。


「ところでのぉ、ラディや……。」

「はい、何でしょう、キフロド様。」


 話の切り替わりを感じ、ラディが姿勢を正す。


「そろそろ、昼になると思うんじゃが…………昼食はいつ頃になるかの?」

「あっ! す、すぐに支度します!」

「あー……そう急がんでええから。できたら呼んでくれ。」

「はい。申し訳ありません。」

「いや、すまんな。簡単なものでええからの。」


 そうして、慌てて昼食の支度を始めるラディに苦笑しながら、キフロドは私室に向かうのだった。







 私室に戻ったキフロドはふと思い立ち、昔の日誌を引っ張り出した。


「あったあった…………これか。」


 軽く埃を払い、ペラペラとページをめくる。


 それは、今から二十六年も前の記録だった。

 キフロドがこのリッシュ村に派遣されて、七年くらいのもの。


「…………あの時は、大変じゃったのぉ。」


 当時のことを思い出し、キフロドは苦笑した。


 リッシュ村から、教会の儀式で「資質あり」とされたのは、ミカが初めてではない。

 この時も国の基準からは漏れたが、教会の定める基準では十分な資質がありそうだとされた。


「フフ……懐かしいのぉ。」


 そう呟き、キフロドは当時のことを思い出すのだった。







■■■■■■







 キフロドが、教会の横に新たに花壇を作ろうと石で囲っていると、馬の蹄の音が聞こえてきた。

 蹄の音は、村の入り口の方から、こちらに向かって来ているようだ。

 村長の家に向かって、そのまま通り過ぎると思っていた蹄の音が、教会の前で止まった。


「キフロド様。」


 聞き覚えのある声に呼びかけられ、キフロドは顔を上げる。

 馬から下りた青年は、小綺麗な司祭服を着ていた。

 二十代半ばのその青年の顔に、キフロドは見覚えがあった。


「ん……お前さん、もしかしてワグナーレか。」

「お久しぶりです、キフロド様。」


 ワグナーレは、手綱を木の枝に結ぶと、キフロドの前で跪いた。


「ご無沙汰しておりました。キフロド様のご指導のおかげで、司祭となることができました。」

「何を言っておる。お前さんが司祭になれたのは、お前さんの努力と、神々のお導きだ。私は何もしておらん。」


 キフロドは用意していた桶で手を洗うと、ワグナーレを教会の中に案内する。

 ダイニングに行くと席を勧め、水をコップに入れて出した。


「それで、どうしたんだ。こんな所にいるなんて。まさか、お前さん……。」


 キフロドは、ざわりと嫌な予感を覚えた。

 七年前、自身に降りかかった災難。

 その時の記憶が蘇り、眉を寄せてしまう。

 だが、ワグナーレは首を振った。


「先月、コトンテッセの大聖堂に赴任しました。もっと早くご挨拶に伺いたかったのですが、なかなか時間が取れず。」

「そうか…………お前さんなら、もっと大きな大聖堂に派遣されてもおかしくはないんだがな。」

「そんなことは大したことではありません。私としては、どこであろうと構いませんから。」

「フフ……そうだな。」


 ワグナーレの言葉に、キフロドは頷く。

 どこでもいい。どこでも構わない。

 どこであろうと、神々の教えは自身の中にあり、神々はともにあるのだから。

 それは、このリッシュ村に来てから、キフロド自身が常々思っていることだった。


「それでお前さん、わざわざ挨拶のために来たのか?」

「ええ、そうですが。……ご迷惑でしたか。」

「そうではないが、いろいろ忙しいのだろう?」

「こうして、挨拶に伺う時間を捻出するのに忙しかっただけです。お気になさらず。」


 赴任したばかりでは、憶えなくてはならないことも多いだろうに。

 ワグナーレの気遣いに、キフロドは心が温かくなるのを感じた。


 そうして、七年ぶりに再会したワグナーレに、教会の現状を聞く。

 聞くだけで、キフロドには何もできない。

 それでも、聞かずにはいられなかった。


 結果として言えば、あまり良くはないようだった。

 キフロドが大聖堂を追放された時より、事態は悪化していた。

 要職が、一つまた一つと、教えをないがしろにする者たちに落とされていく。

 だが、キフロドにはどうすることもできない。

 辺境村の一司祭に過ぎないキフロドに、教会全体に蔓延し始めた腐敗をどうにかする術など、無くて当たり前だった。


 時間を忘れ、ワグナーレと語り合った。

 七年という歳月は、長いようで短い。

 しかし、思いのほか、話の種は尽きなかった。

 陽が傾き始め、西の空が僅かに赤くなり始める。


「すっかり長居してしまいました。」


 そう恐縮するワグナーレに、キフロドは笑顔で首を振る。


「何も出せないが……まあ、またいつでも来るがいい。」


 ワグナーレとともにダイニングを出て、出口へと向かう。


「はい、また来週に伺いますので。」

「来週? そんなにちょくちょく顔を出して大丈夫なのか?」

「ええ、来週は儀式に来ますから。その連絡も兼ねて、今日は伺いました。」


 ワグナーレの言葉に、キフロドは目を瞬かせる。


「…………儀式?」

「はい。来週の陽の日に”秘端覚知(ひたんかくち)()”を行いますので、対象の子供を集めておいてください。」


 それを聞き、キフロドは苦笑した。


「そういうことは、先に言いなさい。というか、今日来たのはそっちが目的だろう。」

「そうとも言うかもしれませんね。」


 ワグナーレは木に結んだ手綱を解き、馬を撫でた。


「手紙での連絡では味気ないですし。こうして顔を会わせないと、分からないことも多いですから。」


 この七年間がどういったものだったか、顔を見れば分かる。

 辺境で燻っていたのか。

 それとも、懸命に前を向き、歩みを続けているのか。


 そして、それはワグナーレも同じだった。

 キフロドは、言おうかどうか、迷う。

 だが、ワグナーレに指摘してやれる者は、そう多くはないはずだ。


「ワグナーレ。」


 キフロドが呼びかけると、ワグナーレが一瞬で緊張したのが分かった。


「あまり、良くない陰があるな。気をつけよ。」


 そう、キフロドは自分の目を指さし、指摘する。

 所謂、『険がある』というやつか。

 元々ワグナーレは、鋭すぎる目元をしている。

 だが、今言っていることはそうではない。

 ()()()()()()()()を、キフロドは警告したのだ。


 キフロドの警告の意味を正しく解し、ワグナーレが頭を下げた。


「精進いたします。」

「そうするがいい。…………焦らずに、な。」

「はい……。」


 真剣な面持ちで、ワグナーレが頷く。

 そうして、ワグナーレは帰って行った。







■■■■■■







 翌週、陽の日。

 今年”秘端覚知(ひたんかくち)()”の対象となる子供は、三人。


 これまでも毎年行っていたが、そうそう資質のある子供はいない。

 今年もそうなるはずだったのだが……。


「……何か、感じます。温かな流れが、手から沁み込んでくるような。」


 ワグナーレが真剣な表情で、唇を引き結んだ。

 そのワグナーレの向かいに立ち、手を重ねた女の子を、キフロドは驚きを隠せずに凝視した。


「ほ、本当に分かるのか、ラディよ。」

「はい、司祭様。」

「キフロド様、まだ途中ですので……。」

「あ、いや……す、すまん。」


 驚きすぎて思わず声をかけてしまったが、儀式はまだ途中だった。


 それから何度か、違った魔力の流し方を試したらしい。

 少し自信なさげに答えることもあるが、ラディはすべてに正解したという。

 そして……。


「……かみのきせき?」


 礼拝堂にある椅子にラディを座らせ、そもそもの【神の奇跡】について説明する。

 普通、癒し手は大聖堂や大きな街の教会にしかおらず、【神の奇跡】を見たことがある子供などほとんどいない。

 このリッシュ村に限って言えば、皆無と言っていいだろう。

 大人でさえ、その存在は知っていても、見たことのある者は稀だ。


 椅子に座ったラディの視線に合わせるように、ワグナーレはしゃがみ込んだ。

 ラディは魔力の感受性が普通の人よりも高く、教会の基準では資質がありそうだ、ということを説明した。


 通常は、儀式で選別された子供に説明するのは、後からだ。

 まずは親に話し、どうするかを家族で話し合わせる。

 国からは漏れたが、教会ならその資質を伸ばせるかもしれない、と。


 しかし、ラディには少々事情があり、その場で本人に伝えることにした。

 というのも、ラディの両親はすでに亡く、現在は祖父母の下で育てられていたからだ。

 そして、この祖父母とラディは、どうやらあまり上手くいっていないらしかった。

 両親と暮らしていた頃はよく笑う子だったのだが、祖父母の下に預けられてから、あまり笑わなくなってしまった。


 とはいえ、まずは国の最終的な測定を待つ必要がある。

 もし最終的に国の基準から漏れた場合に、教会という選択肢があることをワグナーレが説明した。


 ところが、ここで思わぬ方向に話が転がり始める。


「教会に行きます。」


 ラディが、その場で教会行きを決めてしまったのだ。

 これにはキフロドも大慌てだった。


「まあ待つんだ、ラディよ。そう慌てんでも、まずは国の九歳の測定を確かめてから――――。」

「その前に、教会に行くことはできないのですか?」

「あ、いや……できないことはないんだが……。」


 一応、例外規定が存在したはずだった。

 実際にその例外で教会に入ったという話は、あまり……というか、聞いたことはなかったが。







 ワグナーレとともに何とかラディを説得して、その日は帰らせた。

 ところが、この日からラディは毎日教会に通うようになった。


 朝から教会の掃除の手伝いをし、キフロドに教典の内容を教えて欲しいとせがんだ。

 キフロドが用事のある時は、礼拝堂で神像に祈りを捧げる。

 そんな風に、毎日を過ごすようになった。


「参った…………どうしたものか。」


 そう溜息交じりに零すキフロドに、ワグナーレが苦笑する。

 ワグナーレもラディのことが気になり、よく顔を出すようになっていた。


「私の方でも調べてみました。実例は少ないですが『修道院にいる者は除く』と、例外規定にはありました。」

「そうか……。」


 国の配慮により、たとえ魔力の才能があろうと、修道院に入っている者は除外されていた。

 不確かな記憶だったが、きちんと明文化されていたようだ。


 そこに、ラディがやって来る。


「司祭様。お片付けが終わりました。」

「ああ……、すまんなラディ。いつもありがとう。」


 キフロドが礼を言うと、ラディがはにかむ。


「そろそろ日が暮れる。今日はもう帰りなさい。」

「はい。それでは司祭様、ワグナーレ様。失礼します。」

「ああ、気をつけるんだよ。」


 きちんと挨拶をするラディに、ワグナーレも挨拶を返す。

 そうして、ラディの後ろ姿を見送った。


「あんなにいい子なのに、どうしてそこまで教会に入りたいのか……。」


 ラディを見送っていたワグナーレが、小さく呟く。

 その呟きに、キフロドは微かな痛みを、胸に感じるのだった。







 翌朝、キフロドの度肝を抜かれる事態が発生する。


「お世話になりました、司祭様。それでは、お元気で。」


 荷物を詰め込んだらしい雑嚢を小脇に抱え、ラディが別れの挨拶に来たのだ。


「待て待て、ラディ。一体何事だ? どこに行く気だ?」


 キフロドはラディを引き留め、とりあえず礼拝堂の椅子に座らせる。

 ラディは困ったような顔になりながらも、素直に話してくれた。


「修道院に行こうと思います。」

「修道院だと!?」


 そこで、キフロドはすぐに気づいた。

 どうやら、昨日のワグナーレとの話を聞かれていたらしい。


「ラディや、どうしてそこまでして教会に入りたい?」


 祖父母とあまり上手くいっていないというのは、キフロドも分かっていた。

 そこで、村長などにも聞いたりして、少し探りを入れてみた。

 そうして見えてきたのは、キフロドの考えていたものとは、少し違っていた。


 ラディは祖父母と上手くいっていないと思っていたが、実情は違う。

 祖父母も、ラディを持て余していたのだ。

 両親の死から、ラディはすっかり塞ぎ込むようになっていた。

 以前はよく話もしていたが、今では最低限の会話しかできないらしい。


 明るい子だったラディが、あまり笑わなくなっていたのは、キフロドも分かっていた。

 口数が、めっきり減っていたことも。


 家族との死別は、つらいもの。

 しかし、いずれは時間が癒してくれると思い、見守るに留めていたのだ。


「ラディ、話してくれんか?」


 キフロドが再度尋ねることで、ラディは躊躇いがちだが、ぽつりぽつりと話してくれた。

 これまで、誰にも打ち明けることのなかった、想いを……。


「…………お父さんと、お母さんの所に行きたいの。」


 ラディの小さな口から零れたその一言だけで、キフロドは自らが致命的に間違っていたことを悟った。


「ずっとずっと、お願いしていたの……。お父さんと、お母さんに会いたいって。」


 ラディは、両親の死からずっと、それだけを願ってきたという。

 両親の亡くなった、一年も前から。


「でも、そうしたら『かみのきせき』が使えるって。その資質があるって言われたんです。」


 ラディはこれを、神の導きなのだ、と思った。

 望んでいたものとは少し違うが、きっとこれが「神様に願いが届いた証拠」なのだ、と。


「儀式をしてもらった時、すごく温かいものを感じたんです。すごく、すごく気持ちが良かった。これが、神様の愛なんだって思いました。」


 そう、真っ直ぐな瞳で話すラディに、キフロドは思わず涙を零した。


(私は、一体…………何を見ていたのか……っ!)


 この、小さな少女の苦しみに、少しも気づいてやれなかった。

 これほどまでに、神々の救いを必要としている少女に、なぜ手を差し伸べてやれなかったのか。

 自らの不明が、無力さが、無神経さが、どうしようもなく情けなかった。


「司祭様……? どうして泣いているの?」


 ラディが不思議そうな顔で、キフロドを見る。

 キフロドは涙を拭い、大きく息を吐き出した。


「…………すまなかったな、ラディよ。そこまで思い詰めていることに、ついぞ気づいてやれなんだ。」


 そうして、ラディの頭を撫でた。


「分かった。ラディが修道院に行けるように、私が手配しよう。」

「本当?」

「ああ、本当だ。約束する。だが、道中は危険も多い。一人で行くのはやめておきなさい。」

「…………分かりました。」


 少しだけすねたように、ラディが唇を突き出した。

 この子の、こんな年相応な仕草は、久しぶりに見た気がした。


「その代わり、それまでの間はここで暮らすがいい。修道院での生活の練習だ。」

「練習?」

「ああ、そうだ。いきなり修道院に入って『やっぱり大変だからやめた』なんてわけにはいかんぞ? 修道院での規律とは少し違うが、神々の教えに沿った生活を知っておくのも役に立つだろう。」

「分かりました。」


 ラディがしっかり頷くのを見て、キフロドも頷いた。


(…………これから、少々忙しくなるな。)


 ラディの祖父母、村長に話を通し、修道院に受け入れの準備をしてもらわなくてはならない。

 突然押しかけても受け入れてはくれるが、いろいろ面倒があるのも事実だ。


 何より、ラディにしっかりと神々の教えや、生活の中で気をつけなくてはいけないことを教えてあげなくてはならない。


(それでも、そう大したことではないか。)


 この少女の苦しみに気づいてやれなかった、贖罪。

 自らの目が曇っていたことへの、戒め。

 それを思えば、この程度のことは何でもなかった。


「なかなか大変だぞ? 神々の教えに沿って暮らすのは。ラディにできるかな?」

「それくらいできるわ。」


 そう元気に返事をするラディに、キフロドは真剣に向き合うことを決意するのだった。







 ワグナーレに修道院の手配を頼むと、少々遠方の修道院にラディを頼むことになった。

 どうやら、修道院にも腐敗があり、ワグナーレが信頼できる修道院は少ないらしい。


 そうして一カ月ほどをラディとともに暮らし、修道院に送り出すことになった。

 ラディはキフロドの教えをきちんと守り、たった一カ月だが、修道院でもすぐに困るようなことがない程度には生活のルールを身につけた。


 道中も、教会の馬車で移動する手配をした。

 教会は独自に手紙や荷物を輸送することがあるため、その馬車に乗せてもらうことにしたのだ。


「それではラディ。しっかりな。」

「はい、司祭様。ありがとうございました。」


 ワグナーレの騎乗する馬に乗せてもらったラディが、明るく挨拶する。

 見送りにきた村人たちの中には、ラディの祖父母や村長もいる。


「それではキフロド様。」

「ああ、すまんが頼むぞ、ワグナーレ。」


 修道院まで付き添うわけにはいかないが、道中もワグナーレの信頼できる者が特別に目を配ってくれるらしい。


「自分で決めた道だ。嫌になったなどと言って帰ってきたら、説教だぞ?」


 大丈夫だとは思うが、そう厳しく付け加える。

 ラディも真剣な顔で頷いた。


 そうして、ラディはリッシュ村を旅立ったのだった。







 …………この二十年後。


「もう我慢できませんわ。あんな連中と一緒に暮らすなんて、もう嫌です。今日から私もここで暮らしますので、よろしくお願いしますね、キフロド様。」


 そう言って、ある日突然押しかけて来て、キフロドを唖然とさせたラディだった。







■■■■■■







 コンコン、とドアがノックされた。


「キフロド様、お待たせしました。昼食の準備ができました。」


 ドアが開かれ、ラディが呼びに来た。


「ああ、ありがとう。すぐに行く。」


 キフロドは手にした日誌を机に置き、ラディの方を向いた。

 そうして、ついついラディを眺めてしまう。


「…………どうしました、キフロド様?」


 ラディが訝し気な顔になり、尋ねる。

 それに、キフロドは首を振った。


「いや、何でもない。」


 自らの未熟さを教えてくれた少女が、常に傍らにある。

 あれからそれなりに歳月が流れ、自分も少しは成長できただろうか。

 神々の救いを必要とする者に、気づけるようになっただろうか。


 そんなことを思いながら、キフロドは部屋を出るのだった。





【後書き】


 シスター・ラディ誕生のお話はいかがだったでしょうか。

 ラディが信仰に傾倒する理由や、キフロドとの関係が垣間見えるエピソードでした。


 このお話の叩き台は、本作の構想の段階ですでに書いていました。

 本編のどこかに組み込もうと考えていたからです。

 しかし、残念ながら断片的な内容が出てくるだけで、きちんとは書けませんでした。

 本当に残念。


 そうしてお蔵入りしていたお話を、SSという形でも書くことができて満足です。


 それでは、いつもの宣伝です。

 書籍版「神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す」の第一巻が現在発売中です。

 書き下ろしエピソードあり、追加要素ありの内容となっております。


 こちらは、アース・スターノベル様の特集ページのURLです。

 桜河ゆう先生による、綺麗なイラストもご覧になれます。

 https://www.es-novel.jp/bookdetail/168kaminokiseki.php


 書店様によっては特典SSがありますので、特集ページをご確認の上、ご購入いただけると嬉しいです。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。


 それでは皆様、またお会いしましょう。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
このお話しは 本編では ここまで泣けなかった 本編が終わったSSだからこそ キフロド様とラディの師弟であり親子の様な関係がより理解できます なので本編のキフロドが亡くなった時のラディさんに重さを書いて…
[一言] 閑話ででも本編に入っていたらクレイジーシスター扱いにはならなかったかも知れないな。この頃は爺さんがきちんと聖職者してたんだな。
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