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第192話 繋がってるけど、赤い糸ではないです




 4区の路地。

 南の大通りを挟み、向かいには5区の教会関連の建物が並んでいた。

 薄暗い路地から、向かいを窺うのはヤロイバロフ、キスティル、レーヴタイン家に仕える騎士たち。

 そして、ヤロイバロフの宿屋に泊っている、事情はよく分からないけど、なんか面白そうだとついて来た冒険者数名。


「坊主が入って行ったのは、あの建物なんだな?」


 ヤロイバロフが小声で聞くと、レーヴタイン家の騎士が頷く。


 最初にミカを目撃した学院生たちは、すでに寮に帰してある。

 後日、レーヴタイン家から謝礼をすると伝えて。

 そうして、建物を見張る役目をレーヴタイン家が引き継いだ。

 ミカがレーヴタイン家と親しくしているのは、周知の事実。

 学院生たちも「レーヴタイン家が動いたなら、後は邪魔をしてはいけない」と素直に帰って行った。


 キスティルがヤロイバロフの宿屋に飛び込んだ時、ヤロイバロフは丁度カウンターで接客をしているところだった。

 だが、キスティルのただならぬ様子に、すべてを放り出して耳を傾けた。

 宿屋の子供たちもキスティルのことは知っているので、何か大変なことが起きたのだろうと察し、ヤロイバロフの仕事を引き継いだ。

 すべての話を黙って聞いたヤロイバロフは、レーヴタイン家の騎士にミカの入っていった建物まで案内させる。

 キスティルには「後は任せて、レーヴタイン家の屋敷で待っているように」と説得するが拒否された。


 騎士に案内される途中、ヤロイバロフは裏路地に入り、そこに寝転んでいた宿無し(ホームレス)らしき男に何事かを指示する。

 キスティルやレーヴタイン家の騎士は何をしているのか分からなかったが、やや赤みのさしたヤロイバロフに何も言えず、黙って待っていた。

 ”朱染(しゅぜん)”の二つ名を知らない人でも、今のヤロイバロフに声をかけられる人は、そうはいないだろう。


 宿屋の客たちは、「久しぶりにヤロイバロフがヤバい雰囲気」と野次馬根性で勝手について来た。

 ただし、何かあれば手を貸すくらいのつもりで。


「坊主が大人しくついて行ったって話は、確かなのか?」

「目撃した学院生たちの話では、どうやらそうらしい。 周りを修道服の集団に囲まれてはいたが、あの建物に入る時は流石に包囲はできないだろう? 自分の足で、普通に入って行ったようだ。」

「ふーむ……。」


 騎士に確認すると、ヤロイバロフは腕を組んで考え込む。

 自分の足で歩いて入った以上、ミカは何らかの理由があって一緒に行った、と考える方が自然だ。

 それ以前に、修道服の集団が騎士の集団だったとしても、ミカなら逃げることはできる。

 そうしなかった理由があるのか。

 そうできなかった理由があるのか。


 ヤロイバロフが考えていると、キスティルが不安そうな顔でヤロイバロフを見上げていた。

 ヤロイバロフは意識して、表情を少し和らげる。


「そう心配しなくていい。 坊主は必ず助けてやる。 ただ、坊主なりに考えていることがあると、こっちが勝手をすると邪魔しちまうことになるからな。 少し情報を集めよう。 今、情報屋ギルドの持ってる情報を集めさせてる。」

「でも……。」


 ヤロイバロフの言うことはもっともかもしれないが、キスティルの表情は晴れない。

 今、ミカがどんな状況でいるのかも分からない。

 心配するなという方が無理な話だろう。


「もっと坊主を信じてやれ。 坊主なら本当にまずい事態になれば、自力で脱出してくる。 少なくとも、こんなに静かになんかしてられねえよ。 坊主(あいつ)が本気で暴れたらな。」


 そう言って、ヤロイバロフは少しだけ凶暴さが覗く笑みを浮かべる。

 その場にいた者たちは、例外なくその狂暴な気配に身体を震わせた。


 教会内が静かなのは、ミカがまだ脱出する気がないからだと言うヤロイバロフ。

 こういうのも、信頼と言うのだろうか?とキスティルは思った。

 その時――――。


「……フィーちゃん?」


 急に呟くキスティルに、ヤロイバロフや騎士たちが怪訝そうな顔になる。


「……分かる、の……? え……これがそうなの?」


 俯き、独り言をぶつぶつ言い始めたキスティルに、ヤロイバロフは若干心配になる。


「あー……、キスティル? 大丈夫か?」


 だが、キスティルはそれには答えず、俯いていた顔を上げると路地を飛び出した。


「お、おい!」


 ヤロイバロフは、キスティルを引き留めようかどうしようかと、悩んだ。

 正直、止めることは簡単だ。

 だが、下手に騒がれるのもまずい。

 目立つ行動も、できれば避けたい。

 そんな思いで、とりあえずキスティルの様子を見ることにした。


 キスティルは、大通りを第二街壁方面に向かって小走りで進む。

 とりあえず、いきなり教会に突撃するような真似はしないらしいと、胸を撫で下ろす。

 ヤロイバロフ他数名で後をつけていると、キスティルは急に立ち止まった。

 そうして、真っ直ぐに指さす。


「ミカくんは、あそこです。」


 そうして指さす先は、尖塔。

 いくつかある尖塔のうちの一つを指さした。

 唐突と言えば、唐突な話。

 何でそんなことが分かるんだ?と誰もが思うだろう。

 正直、ヤロイバロフもそう思った。

 だが……。


「あそこに、坊主がいるのか?」


 ヤロイバロフが聞くと、キスティルはしっかりと頷く。


「分かった。」


 ヤロイバロフは後ろを振り向き、ついて来た冒険者に声をかける。


「誰か、あれを登れるような奴に心当たりはねえか?」

「……本気で言ってます? ヤロイバロフさん?」


 聞かれた冒険者の一人が思わず聞き返す。

 こんな、訳の分からない女の子の言葉を信用するのか、と。

 だが、聞き返したことをすぐに後悔した。

 ヤロイバロフの本気(マジ)の目を向けられた。

 それだけで、肝が冷えた。


「……聞いてみないと、ちょっと断言できないんですけど。」


 そう、斥候(スカウト)風の冒険者が言う。


「一人、知ってます。」

「そいつを呼んでくれ。」

「いや、でも……。」


 そこで、斥候(スカウト)の男が言い淀む。


「あいつ、あんまり人前に姿を出すの嫌がるんですよ。 その……。」

「盗賊ギルドか?」


 ヤロイバロフが聞くと、斥候(スカウト)の男は躊躇いながらも頷く。


 盗賊ギルド。

 盗品など、表では中々売り捌くのに難儀する品を、捌くルートから発展したギルド。

 所属するメリットは、当然そうした品を持ち込んだ時に、スムーズに現金化してくれることだ。

 そうしたルートを持たない者は、普通は相当に買い叩かれることになる。

 他にもどこにどんな高価な物があるといった情報や、大きな仕事(やま)でギルドがメンバーを募ることがあった。

 当然、所属する者は皆、脛に傷を持つ者ばかり。

 来てくれと言われて、ほいほい出てくる間抜けはいない。

 脛に傷を持つ自覚がある者なら、当たり前の話だ。


「”朱染(しゅぜん)”が呼んでると伝えろ。 来るのが面倒なら、()()()()()()迎えに行ってやってもいい、とな。」


 笑顔のヤロイバロフに迫られ、斥候(スカウト)の男は顔を引き攣らせて何度も頷いた。







■■■■■■







 ミカは四角い窓を見上げていた。

 窓と言っても鉄の棒が埋め込まれた、狭い物だが。

 高い位置にある窓から見える空は、すでに真っ暗になっていて、夕刻から二時間くらい経った頃だと思われる。


 ミカは司祭に連れられ、教会の敷地にある、大通り沿いの建物に入った。

 最初に司祭は「大聖堂に行く」と言っていた。

 なので、「大聖堂に行くのではないのですか?」と聞いてみた。

 そうしたら「こちらの方が近道なのです」との返事。


 司祭の言う通り、その建物はただ通り過ぎるだけだった。

 ただし、連れて行かれたのは大聖堂とは別の場所。

 教会の敷地内ではあるが、いくつかある尖塔の一つだ。


 修道服の集団に囲まれたまま、司祭がミカに笑顔を向ける。


「そちらの魔法具の袋をお預かりします。」

魔法具の袋(これ)ですか?」

「ええ、とても神聖な場所ですので。」


 そうにっこりと話す司祭。


(おい!? 何千万ラーツ入ってると思ってんだ!?)


 正直、理由が理由になっていない。

 内心ブチ切れそうだったが、ミカはにこやかに応じる。


「分かりました。」


 素直に魔法具の袋を渡した。


(地獄の底まで取り返しに行くからな。 …………絶対に。)


 そう、心に誓って。







 尖塔は中に入ると、正面にドアがあった。

 倉庫なのか、教会騎士(テンプルナイト)の詰所なのかは分からない。

 ミカは横にある階段から、上に連れて行かれた。


 案内されたのは、尖塔の最上階にある部屋。

 粗末、よりはちょっとだけマシな部屋だった。

 石造りで、殺風景。

 ベッドとテーブルがあり、トイレは扉で仕切られている。


(高貴な人の幽閉用にしては釣り合わない。 かといって、罪人用にしてはまとも過ぎる。 どういう扱いなんだ?)


 ミカがここまで、アホの子のように疑いもせずにほいほいついて来たのには、勿論理由がある。

 相手の出方を見て、狙いやどこまで情報を掴んでいるのかを探るためだ。


 何かを聞いてくれば、それが相手の知りたいこと。

 尋問でもしてくれば、逆算して相手の狙いも掴めるかと思ったのだが……。


(…………放置って、ひどくない?)


 すぐに取り調べでもしてくるかと思ったが、部屋に閉じ込められてから、何の接触もない。

 一応、ドアの下から食事を差し入れる仕組みのようで、不味そうな食事が差し込まれた。

 が、当然そんな物に手をつける訳がない。


(毒殺でもされちゃあ、敵わんしな。)


 ということで、現在は”水球(ウォーターボール)”で喉の渇きだけを癒し、どうしたものかと思案中。


 尖塔の最上階。

 普通なら、脱出不可能なロケーションなのだろう。

 だが、このくらいなら今すぐにでも脱出できる

 石造りの壁など、大きめに”鉄弾(アイアンバレット)”を作り、高速で撃ち出してやれば破壊可能だろう。

 一発で壊せなくても、数発撃ち込んでやれば余裕だ。

 後はお空からバイバイすればいい。


 若しくは、堂々と部屋を出ることもできる。

 部屋のドアは、ごついだけの木製のドアだ。

 ”石弾(ストーンバレット)”でも十分破壊可能だろう。

 そうして、邪魔する者どもを蹴散らしながら尖塔を降りればいいだけ。


 部屋の前には見張りはいないようだ。

 おそらく、尖塔の入り口だけ固めればいいと思っているのだろう。


 この部屋の中でも魔法も【神の奇跡】も普通に使えた。

 魔法の使えない仕掛けなんかに捕らわれるのは、割と定番の展開だが、特にそんなことはなかった。

 むしろこれは、脱走してくれと言っているのではないだろうか?

 どうにも相手の狙いが掴めず、方針が立てられないのだ。


(……心配してるだろうなあ。)


 それだけが、少し心苦しい。

 キスティルとネリスフィーネには、ミカがこんな時間になっても家に戻らない理由が分からないだろう。

 心配をかけてるだろうけど、こんな時間にミカを探しに、外に出たりしないでほしい。

 そう、願わずにはいられない。


 一応、こういう事態になった場合のことも伝えてある。

   ・ヤロイバロフに相談する。

   ・第五騎士団に相談する。

   ・クレイリアに相談する。

 と言った感じのことだ。


 冒険者としての活動に関わることなら、ヤロイバロフならある程度の状況を把握できるだろう。

 王都中を捜索するなら第五騎士団。

 そして、万が一に備えて、クレイリアに保護を求めるように、と。


 さすがにミカが頼んだからと言って、第一街壁を素通りできるようなパスを発行しては貰えない。

 そんな物はミカだって持っていない。

 欲しくもないけど。

 ただ、レーヴタイン家の印の付いた手紙を用意してもらっている。

 街壁の門を守っている騎士に見せる用と、レーヴタイン家に届けてもらう用。

 騎士には、迎えが行くまで二人を保護するように指示がされていて、レーヴタイン家に届ける手紙を屋敷まで持って来いという指示までされているらしい。

 その手紙が届いたら、レーヴタイン家から迎えを寄越す、という流れらしい。


 そんな手紙を当主でもないクレイリアが発行していいのか?と思わなくはないが、まあ深くは考えないでおこう。

 国境防衛を任されたレーヴタイン家だ。

 特別な配慮がなされている、と解釈しておく。


 ミカは溜息をつき、身体をぶるっと震わせる。


(さすがに寒いな……。)


 まだまだ朝晩の冷え込みがきつい。


(こんな時期にこんな所に閉じ込めて、凍死させることが目的か?)


 ミカは”突風(ブラスト)”を発現させ、自分の周囲を暖かい空気で満たす。

 流石に眠っている時には”突風(ブラスト)”は止まるだろうから、これからは昼夜逆転させた方が過ごしやすいだろうか?

 昼間の暖かいうちに寝て、夜間は”突風(ブラスト)”で暖を取る。

 昼間に寝かせてくれるなら、だけど。


 そうして、どのくらいの時間が経っただろうか。

 ミカがぼんやりと空を眺めていると、窓にひょいっと手が現れた。


「……へ?」


 暗いので見間違いかと思ったら、ぬっと男が顔を現わした。

 ミカがびっくりして目を見開くと、ミカに気づいた男は口に指を当て、声を出さないようにゼスチャーする。

 ミカはドアの方を向き、見張りが部屋の前にいないことを確認する。

 男は窓から手を差し入れ、一枚の紙を部屋の中に落とした。


 ミカはその紙を拾って、”照明球(ライティングボール)”で手元にだけ光を向けると、ざっと目を通す。


(……キスティル。)


 それは、キスティルからの手紙だった。

 ミカが教会に連れて行かれたことは、偶然見ていた学院生によって、すでにクレイリアにまで話が伝わっていた。

 クレイリアはミカとの約束通り、キスティルとネリスフィーネをすぐに保護してくれていたのだ。

 そして、キスティルはヤロイバロフを頼り、現在情報収集に動いてくれているという。


(皆……。 ありがとう。)


 すでに外でも状況を把握し、動いてくれている。

 これでもう、何も恐れることはない。

 一番の懸念だったネリスフィーネもレーヴタイン家に保護されているのなら、後はミカの気が済むまで情報の収集をすればいい。

 教会の狙いが掴めれば、対策は脱出後に考えればいいのだから。


 ミカは【身体強化】を発現し、ぴょんとジャンプして窓を塞ぐ鉄の棒に掴まる。

 窓にいた男が一瞬驚いた顔をするが、すぐに真剣な表情に戻った。

 ミカは”地獄耳(ビッグイヤー)”を発現し、部屋の外の気配に最大限の注意を払いながら、男に小声で話しかける。


「ドアの前に見張りはいません。 少し気をつけていれば、話をしても大丈夫です。」


 男は少しの間ドアに視線を向け、それから小さく頷いた。


「”朱染(しゅぜん)”に頼まれた。 たく、いきなりこんなこと言いやがってよぉ。」


 男がいきなり愚痴を零す。

 ミカは苦笑するしかない。


「すみません。 僕のせいなんです。」

「そうみたいだな。 …………災難だったみたいじゃねえか。」

「ええ……。」


 そうして、ミカと男はお互いに肩を竦める。


「よく、こんな所まで登れましたね。」


 ロクに掴まる所もないだろうに。

 ミカでも"低重力(ロウ・グラビティ)"と【身体強化】を使っても、登れるか分からない。

 まあ、飛んだ方が早いのは確かだが。


「こういうのは得意でな。 ほら、これ。」


 そう言って男が布の袋を、鉄の棒の間から差し入れる。


「パンと燻製肉と果物。 届けて欲しいって頼まれてな。」

「ありがとうございます。 丁度お腹が空いてたんです。」

「さすがに……、連中の用意した食事には手を出さなかったか。」

「さすがにね……。」


 ミカは男から布の袋を受け取った。

 布越しでも、燻製肉のいい匂いが少しだけ感じられる。

 途端に、お腹が鳴りそうになった。


「僕がここに居るって、よく分かりましたね。」


 尖塔は他にもあるし、そもそも別の場所に幽閉されている可能性だってある。

 いくら探したと言っても、そんなに簡単に見つかるものではないだろうに。


「なんか、女の子がこの尖塔に居るって指さして教えてくれたんだよ。 まあ、他にアテがある訳でもないようだし。 とりあえずは登ってみるかって。」

「女の子?」

「ああ、こうふんわりした髪の。」


 キスティルだ。

 でも、キスティルはどうしてここに居ることが分かったんだ?


(赤い糸を辿った?)


 乙女チックな考えが浮かんだ。

 赤い糸って……。

 自分の想像に、ぞわぞわ……と鳥肌が立った。


「済まないが、さすがに昼間は見つかるんでな。 夜にしか届けに来れない。 届けてることがバレると厄介だから、一日分を持ってくる訳にはいかない。」

「ええ、分かっています。 一食だけでも届けてもらえるのは有り難いです。 これで、一カ月でも大丈夫です。」

「…………俺は、一カ月も届けに来るのか?」


 男の心底嫌そうな顔に、思わず笑いそうになる。


「すみません。 ご迷惑をおかけします。」

「まあ、お前のせいじゃねえよ。 余計なちょっかいをかけてきた奴が悪い。」


 そう言って、男は真面目な顔になる。


「負けんじゃねえぞ。 今、情報屋ギルドなんかも動いて、教会が何をやってんのか調べてる。 もう少しの辛抱だぞ、”解呪師(ディスペラー)”。」


 男の言葉にミカはしっかりと頷いた。


「ありがとうございます。」

「いいってことよ。 じゃ、また明日な。」

「はい。 お気をつけて。」


 男はすっと窓から引っ込む。

 壁の厚さが三十センチメートル以上はある。

 ミカには、壁を降りていく男の姿は見えなかった。


(…………皆が動いてくれてる。)


 そう思うだけで、何と心強いことか。

 ミカは窓から手を離し、音を立てないように床に着地する。

 それから布袋の中に手を突っ込み、パンを取り出した。

 いい匂いのする、いつも家で食べてる白パン。

 少しだけ、胸の奥が熱くなる。


「いただきます。」


 そう呟き、ふわふわの柔らかいパンにかぶりついた。







■■■■■■







【王都イストア 王城】


 国王、ケルニールスの居室。早朝。

 久しぶりにやって来た初老の女中(メイド)ニースラーザから、ケルニールスは報告を受けていた。


「冒険者?」

「はい。」


 ケルニールスが聞き返すと、ニースラーザが頷く。


「なぜ、教会が冒険者なんぞに?」

「分かりません。 現在、王都の冒険者ギルドに潜伏している者に連絡を取っているところです。 その冒険者の詳細は、また明日にでも。 まずは、お耳にだけ入れておくべきかと。」

「ふむ……。」


 ケルニールスは紅茶を一口飲むと、ほぅ……と息をつく。

 教会が裏で、何か大きく動こうとしてるようだというのは掴んでいた。

 しかし、その詳細がさっぱり掴めない。

 ようやく掴んだ尻尾が――――。


「その、”解呪師(ディスペラー)”とやらが、教会にとってそんなに重要なのか?」


 よく分からん二つ名を持つ冒険者一人のために、中々大きく動いているらしい。

 しかも、これは教皇にまで繋がる情報(ネタ)だと言うのだ。

 使う、使わないはともかく、しっかりと詳細を掴んでおきたい。







 現国王、ケルニールスは熱心な光神教信者。

 …………と言うことにしている。


 国民のほぼすべてが信仰する宗教を否定したところで良いことなどない。

 ならば、それも利用するだけ。


 そもそも百年前に馬鹿げた神託を騙り、戦争を煽った。

 この国を亡ぼせなどと言う神託が本物なら、そんな神は神ではない。

 ただの”魔”に属する何かだろう。

 そして、神託が偽物なら、そんな物を放置している神など、やはり神ではない。

 今のような状況を容認している存在に、用はなかった。


 ケルニールスは、現在の教会が腐っていることを正しく理解していた。

 その上で、放置しているのだ。

 適当に寄付をしてやれば、それなりに協力的な姿勢を見せている。

 ならば、利用できるだけ利用すればいい。

 どうせ、その寄付とて元は教会の金なのだ。


 教会と取引するための商会を作り、たんまりと中抜きをする。

 一部を割戻し(キックバック)に使い、一部を寄付に回す。

 残りはケルニールスの組織の活動資金に充てていた。

 最初はケルニールスの持ち出しで活動させていたが、現在は教会との取引で得た利益で活動資金が賄えている。

 むしろ毎年お釣りが出て、プールしているくらいだった。

 元々は情報収集のために買った商会だったが、思わぬ副次効果が生まれたものである。







「教会を締め上げるネタにでもなれば面白いがの……。 さすがにそれほどのネタにはならんか。」


 ケルニールスの呟きに、ニースラーザは何も答えない。

 じっと、指示を待っていた。


「その冒険者……。 ただで教会(やつら)に食わせるのも惜しいか……?」


 肘掛けに肘をつき、頬杖をして考える。


「贄とするか、毒にするか……。 踏み絵を迫るのも面白いかもしれんな。」


 教会の奥深くに打ち込む、楔に化けるかもしれない。

 ケルニールスは姿勢を正して、ニースラーザを見る。


「その冒険者の詳細な情報もだが……。 情報屋ギルドも利用して構わん。 こちらの持つ情報と合わせ、教会の動きの詳細を何としても掴め。」


 ケルニールスの命に、ニースラーザは静かに頭を下げるのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆がミカを信じて動き出すところは最高だ [気になる点] この間の教会に出入りしてた商人は国王の、ってことか
[一言] いつまで力を隠してるんだこいつ、今回のこともある程度見せてたら相手は警戒して動きづらいはずだったろうに
[気になる点] まだ王様の中では魔法学院の神童と冒険者ミカが繋がってないんですね、きっと
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