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第191話 何もしないことが一番の嫌がらせ?

 ※今回は主人公不在のお話です




 レーヴタイン家、王都にある別邸。

 応接室でクレイリアは、ステッランと向かい合って座っていた。

 クレイリアの後ろには護衛騎士が二人控え、部屋の中には数人の使用人。

 若干の警戒態勢であることが伺えた。

 突然訪問して来たクラスメイトのステッランにやや戸惑いながらも、それでもクレイリアは黙って耳を傾けた。


「…………ということです。 チャール君の友人が行き先を確認して、教えてくれることになっています。」

「そう……。」


 クレイリアはステッランの話を聞き、眉を寄せる。

 そうして何かを思案するクレイリアを見て、ステッランは少し意外に感じた。

 正直、クレイリアはミカが関わると、途端に貴族らしい振る舞いを忘れる。

 まだ状況はよく分からないが、話を聞いたクレイリアが、いきなり飛び出して行くことも考えていたのだ。


「ムスタージフ。」


 クレイリアは後ろに控える護衛騎士に声をかけ、何事かを耳打ちする。

 護衛騎士は黙って頷くと、部屋を出て別の護衛騎士を招き入れ、クレイリアに付けた。

 そうして、ムスタージフと呼ばれた護衛騎士はそのままどこかに行く。


「どうされますか、クレイリア様。」


 ステッランに聞かれ、クレイリアは微笑む。


「まだ、何とも……。 ですが、今日はミカを晩餐(ディナー)に招待しようかしら。」

晩餐(ディナー)、ですか……?」

「ええ。」


 そうして、にっこりと笑顔を作る。


「招待客に迎えを出したところで、普通のことでしょう?」

「なるほど。 おっしゃるとおりです。」


 行き先が分かり次第、レーヴタイン家から馬車で迎えが行く、と言う訳だ。

 何でもないことなら、ミカ本人から了承でも辞退でも返事を聞ければ良し。

 詳しいことは明日聞くにしても、とりあえず本人の口から「何でもない」と聞ければ、今は十分だ。


 そして、もしもあまり宜しくない事態だった場合でも、レーヴタイン家からの迎えを相手が突っぱねるのは難しいだろう。

 いくら教会でも、さすがにレーヴタイン家の迎えを無下には扱えないはずだ。


 クレイリアは優雅な所作でティーカップを手にし、一口飲む。


「そう言えば、セーゲルバーム家は魔法士を多く輩出している家柄だと聞いています。」

「ええ、その通りです。 父と、兄にも一人。 叔父や従兄弟にもおりますね。」

「まあ、そんなに?」


 そうして、少しの間談笑していると、部屋のドアがノックされる。

 入って来た使用人がクレイリアに耳打ちすると、クレイリアが頷いた。


「セーゲルバームの家の者が着いたようです。 やはり、教会の…………ただ、大聖堂ではなく、別の建物に入っていったようです。」

「別の建物ですか。」


 教会は、5区に広大な土地を有している。

 南の大通りに面している建物だけでもいくつもある。


「チャールの友人が見張ってくれているようです。 私の方から迎えを出しましょう。」


 クレイリアの言葉に、ステッランは頷いた。







「来ていないですって?」


 存外に大きくなってしまったクレイリアの声に、ミカの迎えにやった使用人がびくりと肩を竦ませる。


「クレイリア様、これは……。」


 チャールに「任せるように」と言った以上、ステッランも一応は成り行きを見届けようと、レーヴタイン家に残っていた。

 ところが、迎えにやった使用人は追い返されて来たというのだ。


「チャールの友人たちは、その建物に入って行くのを見ているのでしょう?」

「はい、間違いないそうです。」


 これは、思った以上に厄介な事態になってきた。

 そう、溜息をつきそうになるのを、ステッランは我慢する。

 ここはレーヴタイン家。

 細心の注意を払わなければならない。


「ミカが入ったという建物は、何の建物ですか?」

「奇跡典礼省の建物のようです。」


 奇跡典礼省。

 教会だけが伝える【神の奇跡】や、教典にある神々の奇跡の内容、儀式などを研究して後世に正しく伝えることを目的にしている組織。

 そんなところがミカに何の用があるというのか。

 しかも、接触したことを隠すとは。

 急にきな臭さが増してきた。


「…………ミカ君は、どんな【神の奇跡】もすぐに習得できてしまう。 そこに目をつけて、何か狙いがあるのかもしれませんね。」


 それにしても、少しやり方が強引だ。

 何より、隠す必要がない。


 クレイリアは真剣な顔になり、何かを考え込む。


「……まずは、何が起きているのかを確かめなければなりませんね。」


 そう呟くと、クレイリアはステッランを見る。


「後のことは、こちらに任せてください。 ミカのこと、教えてくださりありがとうございました。」


 クレイリアは立ち上がると、微笑みを作る。

 内心の焦りが、ステッランにはありありと分かった。


「クレイリア様。 ミカ君は僕にとっても友人です。 何か、お力になれることはありませんか?」


 ステッランの申し出に、クレイリアはやや驚いたように目を見開く。

 だが、すぐにまた微笑みを作った。


「まずは情報を集めましょう。 もしよろしければ、セーゲルバームの家でも情報を集めていただけると助かります。」

「それくらいは、勿論。 他にも――――。」


 言葉を続けようとするステッランに、クレイリアは首を横にする。


「まだ、何が起きているのか分かりません。 その先のことは、分かってから考えます。 まずは、情報。 正しく状況を把握しなくてはなりません。」


 クレイリアの言葉に、ステッランは頷く。


 そうして、ステッランをエントランスまで見送り、クレイリアは客間の一つに向かう。

 その客間は、八名もの護衛騎士で部屋の前が警護されていた。


「ムスタージフ。 大袈裟すぎです。」

「とりあえず、手の空いている者を置いただけですので。」


 部屋の前にいたムスタージフが頬を掻く。


「それで、クレイリア様。 今後の方針は如何なさいますか?」

「しばらく、継続することになるかもしれません。」

「では、そのようにシフトを組みましょう。」


 恭しく頭を下げるムスタージフに、クレイリアが手招きをする。

 そうして耳を寄せたムスタージフに、クレイリアは何事かを伝えた。

 黙って聞いていたムスタージフだが、目を瞠り、眉を寄せ、それから難しい顔で考え込む。


「…………ということです。 私の名前を出しても構いません。 急いで情報収集を。」

「はっ。」


 クレイリアに命じられたムスタージフは、足早にどこかに向かう。

 それを見届けてから、クレイリアは客間のドアに手をかけた。







 ガチャ。


 クレイリアが客間に入ると、二人の少女が不安げな表情でソファーに座っていた。

 少女たちはクレイリアに気がつくと立ち上がり、頭を下げる。


「そう、畏まらないで。 キスティルさん、ネリスフィーネさん。」


 クレイリアは微笑み、向かいのソファーに座った。

 クレイリアに勧められ、二人もソファーに座る。


「念のため、と思い二人に来ていただいたのですが……。」


 そこでクレイリアは、二人にどう説明しようかと考える。


 クレイリアはステッランから話を聞き、すぐにムスタージフに命じてキスティルとネリスフィーネを屋敷に避難させた。

 何もなければ、それで良し。

 早とちりだった、と笑って晩餐(ディナー)をともにすれば良い。

 だが、深刻な状況になることもあり得る。

 そうした事態に備えて、まずは二人の保護に動いたのだ。

 ミカとの約束を果たすために。


「あの……クレイリア様。 ミカくんに、何かあったのですか……?」


 キスティルが不安そうな顔でクレイリアに尋ねた。

 クレイリアはそんなキスティルを見て、それからネリスフィーネを見る。


「教会がミカに接触してきました。」

「教、会……?」


 クレイリアの言葉を聞き、ネリスフィーネの顔から血の気が引いた。

 教会が動き、ミカに接触するとしたら、真っ先に思い浮かぶのはネリスフィーネの件。

 ルーンサームの司教たちの不正に関わる件であり、聖女の謀殺という凶行にも繋がる。


「ミ、ミカ様は!? ミカ様は無事なのですか!?」


 ネリスフィーネの悲痛な声に、クレイリアは苦し気に目を伏せる。


「……私にも、まだ何が起きているのか分からないのです。」

「そんな……っ!?」


 クレイリアの力のない言葉に、ネリスフィーネが言葉を失う。


「ミカの連れて行かれた……と言ってしまって良いものかどうか分かりませんが。 ミカが教会関連の建物に入って行くところは目撃されています。 ですので、これは確実なことです。」


 そう言ってクレイリアは一息つく。


「目撃した者は魔法学院の学院生。 ミカと私の同郷の、共通の友人が親しくしている者だそうです。 ミカは学院でも有名ですからね。 複数の者が目撃し、不審に思ったその者たちが友人に伝え、私に連絡を取ってきました。」


 クレイリアの話を、キスティルとネリスフィーネは悲し気な表情で聞いている。

 二人とも唇を引き結び、膝の上に置かれた手は、真っ白になるほど強く握り締められていた。


「今、なぜ教会がミカに接触をして来たのか調べさせています。 ミカの入って行った建物にも、見張りをつけさせました。 何か動きがあれば、すぐこちらにも報せが来ます。」


 クレイリアはキスティルとネリスフィーネを励ますように、力強く言った。

 上手くできているかしら、などと思っていることは、微塵も感じさせずに。


 クレイリアの話を聞き、キスティルとネリスフィーネは俯く。

 だが、すぐにキスティルが立ち上がった。


「キスティル……?」


 急に立ち上がったキスティルを見上げ、ネリスフィーネが呟く。


「どうされました、キスティルさん?」


 クレイリアの声にも答えず、キスティルはそのままドアに向かう。


 ガチャ。


 そうして、そのままドアを開けて出て行こうとした。

 部屋の前で待機していた騎士たちは、一瞬きょとんとし、それでも自分たちの職務を忘れることなくキスティルの前に立ちはだかる。


「どうかされましたか、お嬢さん?」


 騎士の一人が声をかけるが、キスティルはそれにも答えず部屋を出る。


「キスティルさん、どこに行かれるのですか?」

「お嬢さん、申し訳ありませんが。」

「放して! 放してください!」


 少し慌ててクレイリアが部屋を出てくると、騎士たちが押し留めようとするのを振り払い、キスティルが強引にどこかに行こうとしているところだった。


「キスティルさん! 落ち着いてください!」

「放して! 邪魔しないで!」


 キスティルは髪を振り乱し、それでも強引に騎士たちを押し退け、どこかに行こうとする。

 クレイリアも婚約関連で二回顔を合わせただけだが、とても優しい、柔らかい雰囲気の女の子だと思っていた。

 まさか、こんなにも激しい一面があるとは思いもしなかった。


「キスティルさん! せめて、どちらに行こうとしているのかだけでも教えてください!」


 そうして何度か問いかけるが、キスティルは答えない。

 というよりも、()()()()()()

 どこかに行こうとすることに必死すぎて、きっと聞こえていないのだ。


 クレイリアがどうしたものかと困っていると、ネリスフィーネが部屋から出てくる。

 そうして、キスティルの傍まで行くと、一言だけで問う。


「ミカ様の所に行くのですか?」


 ネリスフィーネの声は届くのか、キスティルはぶんぶんと首を振る。

 どうやら、いきなり教会に乗り込むという訳ではないようだ。

 それを聞いて、クレイリアは少しだけほっとした。


「それでは、どこに行くのですか?」

「ヤロイバロフさんに助けてもらうの! ヤロイバロフさんなら、きっとっ……!」


 キスティルの返事を聞き、「ヤロイバロフ?」と首を傾げるクレイリアだった。







 ガラガラガラ……と、車輪の鳴る音と振動が響く。


 レーヴタイン家の馬車に乗り、キスティルはじっと座っている。

 向かいに座った護衛の騎士二人は、そんなキスティルをハラハラした気持ちで見ていた。


 キスティルはぐちゃぐちゃな感情に頭がどうにかなりそうだった。

 ネリスフィーネに説得され、ヤロイバロフの宿屋までレーヴタイン家の馬車で行くことにした。

 感情任せに走ったところで、馬車には敵わないと言われればその通りである。

 ただ、そうして馬車の中でじっとしていると、いろいろなことが頭に浮かぶ。


 正直に言えば、自分でも「どの面下げて」と思う。

 薬草採集に行けなくなった時、ミカくんに紹介してもらって仕事を得た。

 得意と言えるほどの腕ではないが、それでも料理を作るのは好きだった。

 そんな好きなことを仕事にできる。

 なんて恵まれているのかと、仕事が決まった日の夜は、嬉しさとちょっぴりの不安で中々寝付けなかった。


 ヤロイバロフさんは、見た目はすごくおっかない人。

 最初は、顔を合わせただけで腰が抜けそうなくらいだった。

 でも、すごく料理が上手で、すごく優しかった。

 自分よりも小さい子がヤロイバロフさんに懐き、ヤロイバロフさんもそんな子たちをとても優しい目で見守っていた。


 すごく、幸せだなあって思った。

 好きな料理(こと)を仕事にして、どんどん自分でも腕が上がって行くのが分かった。

 よくミカくんが遊びに来て、ミカくんとヤロイバロフさんと三人で一緒に笑い合った。

 すごくすごく、幸せな時間。


 でも、そんな幸せな時間を壊してしまったのは、私……。

 決して自ら望んだことではないけれど、自分の手で壊してしまったのだ。


 ミカくんに助けられて、ヤロイバロフさんも事情を知り、怒っていないと言ってくれた。

 それどころか、また働かないか、とさえ言ってくれたのだ。


 でも、それすらも拒んでしまった。


 私は、怖かったのだ。

 あの幸せな時間を取り戻しても、きっと前のようには笑えない。

 同じ時間のはずなのに、ほんの少し、少しずつズレている。

 その違和感が、きっと私を責め続ける。

 突きつけてくる。

 容赦などない、現実を。


 壊れたものは、二度と戻らない。


 そんな、自分の仕出かしてしまったことを見たくなくて。

 目を逸らしたくて。

 忘れたくて。

 拒んでしまったのだ。


 キスティルは馬車の中で押し黙り、ぎゅっと目を閉じる。


(……それでも!)


 私のことはいい。

 どんなに「勝手な奴だ」って思われてもいい。

 私なんかのちっぽけな気持ちのことなんて、どうでもいい!


(きっとヤロイバロフさんなら、ミカくんを助けてくれる!)


 キスティルは一縷の望みを胸に、ぐちゃぐちゃな感情を必死に押さえつけるのだった。







■■■■■■







【王都イストア 大聖堂】


 大聖堂内の、上層階にある小会議室。

 本来は申請すれば誰でも使用の許可が出ていた会議室であったが、現在は一部の者に使用が限定されている。

 枢機卿。

 それも教皇派に属する枢機卿のみが使用を許される、会議を使用目的としない部屋へと変わっていた。


 小談話室(サロン)とでも呼ぶべきだろうか。

 会議用の机は取っ払われ、豪奢な調度品が並び、各種の酒が揃えられる。


 部屋の一画にあるソファーには、三人が座っていた。


「それでは猊下。 よろしくお願いします。」


 一人は商人らしき男。

 とても身なりが良く、美しい所作をしていた。

 テーブルの上には男が持って来た木箱が置かれている。

 その木箱には金貨が二百枚入っている。

 いつも通りに割戻し(キックバック)する分だ。


「うむ。 また来月もお前の商会(ところ)から仕入れてやるように、すでに話は通っている。」

「いつもいつも、ありがとうございます。」


 一人は、商人の男の向かいに座る、横柄な男。

 教皇派の枢機卿の中でも、特に重鎮とされる一人だった。


 そうして、もう一人はそんな枢機卿に酌をする女。

 女は司祭の服を着ていた。


 枢機卿は銀の杯を口に運ぶと、一息に呷った。

 そうして果実酒を飲み干すと、女に杯を差し出す。

 女は黙ってその杯に酒を注いだ。


「ところで、お前の商会(ところ)では、インクなどは扱う気はないか?」

「……はあ。 インクでございますか?」


 男の商会で扱っているのは、主に加工肉などの食品と酒だ。

 一万人以上が生活をする教会の敷地内では、日々大量の食品と酒が消費される。

 修道院や孤児院もあり、神学校も寮もある。

 酒も、特に赤酒は儀式にも使われ、水で割った物も日常的によく飲まれていた。

 そうした物を一手に引き受け、男は莫大な利益を上げている。

 その一部を、こうして還元しているのだ。


「これまで取引していた商会(ところ)が『戻し(バック)を減らして欲しい』だのと、ぐちぐちと煩い事を言いおってな。 切ることにした。 お前の商会(ところ)で扱う気がなければ、話の分かる商会(ところ)をどこか知らぬか?」

「そうでございますね……。」


 男は一瞬だけ考える表情になるが、すぐに笑顔を作る。


「最初の納入は、いつからにいたしましょう?」

「そうだな……。 来月の中頃くらいまでに入れてもらえればいい。」

「分かりました。 お引き受けいたします。」


 男がすんなり引き受けると思わなかったのか、枢機卿は驚いた顔になる。


「さすがだな……とは言え、大丈夫なのか? これまで扱ったことはないだろう?」


 だが、男は笑顔を崩さず、自信に満ちた表情で頷く。


「問題ございません。 私の野望は、教会で扱う物一切を、すべて引き受けることでございます。」


 そう言い切る男に、枢機卿が声を上げて笑う。


「はっはっはっ! どれだけ儲けるつもりだ!? 教会の金、すべて吸い上げる気か!」


 大見得を切った男に、枢機卿は愉快そうに言う。

 男は恐縮するように頭を下げると、少し表情を引き締めた。


「『割』は、いつも通りでございますか?」

「ああ、それで良い。 明日にでも、担当の者と質や量、値段の交渉をしてくれ。 話はしておこう。」

「よろしくお願いします。」


 その時、小会議室のドアが開き、二人の枢機卿が入ってきた。

 二人を見て、商談をしていた枢機卿が男に目配せする。

 男は恭しく頭を下げると、静かに立ち上がった。

 枢機卿は、酌をしていた女にも出ているように手で示す。

 そうして商人と女はドアに向かい、部屋に入って来た二人の枢機卿とすれ違う時に道を譲り、頭を下げる。

 それからゆっくりと歩き、ドアに向かう。


「……どうだ……例の小僧は……。」

「…………”解呪師(ディスペラー)”なんて言っても、所詮は子供……。」

「……震えあがっておるのだろうよ。 大人しいものだ……。」


 商人の男は部屋を出る際も枢機卿にしっかりと頭を下げ、それから退室する。

 女も続いて、退室してきた。


 商人と女が退室したのを確認して、三人の枢機卿の目が、危険な鈍い光を放つ。


「抵抗は?」

「しなかったらしい。」

「暴れてくれれば、本格的に教会騎士団(テンプルナイツ)を動かす名分が立ったのだがな。」

「そうなると読んだか……?」

「まさか、あんなガキにそんな知恵はあるまい。」

「幽閉塔にもほいほいと、言われるままに入ったらしいぞ。 ふっ……、あれは、ただの()()()であろうな。」


 三人の枢機卿は、あまりの拍子抜けに嘲笑を零す。


「では、あとは手順を踏んでいくだけで良いのだな?」

「ええ。 今回は、あの小僧をどうやって捕らえるかが一番の問題だった。」

「冒険者など、野蛮の極み。 二つ名まで持つとあって、正直教会騎士団(テンプルナイツ)でも、五~六十人は殺されても止む無しと思っていたくらいだからな。」

「徐々に追い詰めていく計画を、練りに練ったというのに。 全部無駄にしおってからに。」


 そう、苦労を台無しにされた枢機卿が怒るのを、他の二人が笑う。

 捨て駒にしてよい司祭や騎士のリストまで作成し、教皇の了承まで取り付けたのにすべて台無しだ。


「まあ、楽に済むに越したことはない。」


 そう言って、商談をしていた枢機卿が手を叩く。

 その音を聞き、部屋の外で待機していた女が入って来た。


「では、前祝いと行こうか。」

「ここまで来れば、もう片付いたも同然だな。」

「ああ、こんなことでたんまり()()が入るんだ。 笑いが止まらんよ。」


 そうして三人は、銀の杯で乾杯をした。







 大聖堂の入り口から、先程商談していた男が出てくる。

 軽薄な笑みを浮かべながら大通りを歩き、4区の中に入って行く。

 そうして、4区の中を流れるように素早く進み、一つのボロい建物に入った。

 その時にはもう、軽薄な笑みは鳴りを潜め、何の感情もない表情をしていた……。





【注意書き】


 これまで、主人公不在のお話は「閑話」としてきましたが、今回のお話は主人公こそ出ていませんが「()()」となっております。

 そのためタイトルにも「閑話」と付けておりません。


 今後、同様の扱いのお話があると思いますが、これは本筋のお話なんだな、とご理解いただければと思います。


 何卒、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] この商人さん、徒歩で大聖堂を訪った? 大商人だから相応の馬車を仕立ててそうなんだけど。 それとも帰りの馬車の中で目立たない格好に着替えて、徒歩移動?
[気になる点] この商人、何かありそうだな。ただの太鼓持ちではないかも?
[気になる点] クレイリアが学園に報告しないこと(既に報告してる?) 閣下が名前まで知ってる優秀な軍人になる予定の学院生に手を出したら国が黙ってないと思うんだけど国が動いてないのは何かの罠?
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