嫉妬はよくない件について(仮)
部屋には、外からの光が入ってきている。
この場にもし真実を知っているものがいたなら、2人の会話は実に滑稽なものに映っていただろう。
なぜなら、2人はほとんど相手の思惑を知っている。
2人のこれまでの会話になんの意味もなく。意味があると思っているのは、その場にいる四人の何も知らない人物達だけである。
「正子が覇竜に認められていないからか・・・、いい言い訳じゃない。」
清は席を立つ。
「でも、残念ね。楽しいお話はここまでにしましょうか小僧」
清は、良太郎の前にまで来る。
そして、彼の耳にそっと近づく。
「もう、この体も限界なのよ・・・。」
その声は、良太郎にしか聞こえない小声でささやかれた。
良太郎はその声を聞いて、今までとは打って変わって真剣な表情に変わる。
清は、良太郎から少し離れる。
「努、今から、正子を小僧から取り戻します。準備をお願い。」
「承知いたしました。」
ここまでか・・・。良太郎は思った。
彼の思惑など、すべてお見通しであり。彼が正子をどう隠しているのかも、その一言で知られていることを彼は理解した。
だが、時間稼ぎはできた。これだけの時間があれば、彼女は回復できているはずである。
良太郎の周りに、彼と清以外の四人によって、どんどん魔術式が地面に作成されていく。それは、良太郎も知らない魔術式であった。
「今から、お前が我々にも隠していた隠れ家への道を、お前を媒介にして、無理やり作り出す。」
努が言う。良太郎はふと彼は本当のことを知っているのかどうか疑問に思った。いくら実母の思惑といえども、実の娘のことを大事に思っているなら、何かしら思うところがあるはずだ。
「痛くしないでくださいよ。努さん。」
「残念ながらそれは無理だな。いっただろう? 無理やりにだって、お前が素直に正子を返してくれれば問題がないんだが、お前は先ほどそれを固辞したじゃないか。」
「そりゃ、残念だ。」
そう、ここまで来るまでに、正子を返すように努に良太郎は言われたが、それは固辞した。できるだけ時間は稼ぎたかったからだ。
魔術式が完成する。
「では、母上、開始できます。」
「では、始めましょうか。」
清が、両手を合わせて、詠唱を始める。
’汝が治めし、器を差し出せ、それが混沌の世を照らす光とならんことを切に願う。’
’我、その光を用いて、闇に落ちなん者を救う光となろう’
魔術式が発光する。
「くああああああああ!!」
その光と呼応するように、良太郎が身をよじりながら、苦しみだした。口から内臓が出るような勢いだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
「出てきた。」
苦しんでいる良太郎の胸から、光の塊がまるで魂のようなものが、出現し、術者である清のもとへと向かう。
「お疲れ様。」
魔術式の発光が収まり、同時に良太郎の苦しみもなくなる。
その良太郎は地面でぐったりと伸びている。幸いまだ、意識はあるようだった。
清は、その光をそっと、手から離す。すると、その光が広がり、人一人分が入れる大きさとなる。
「これを通れば、小僧の本当の隠れ家に行くことができるわ。努、3人を連れて正子を向かえにいってくれるかしら?」
「承知いたしました。行くぞ。」
努は、3人の先頭に立ち、一番に光の中に入っていった。
「さてと、本当の話をしましょうか。小僧。」
「はあ、はあ、はあ、いいですよ。」
良太郎は、体をゆっくりと起こし、あぐらをかいて座った。肩をまだ揺らしている。
清は再びソファーに座る。
「私が誰だか言えるのかしら?」
その質問に対する、良太郎の答えはもちろん
「はあ、いえますよ。現宮内家当主、宮内 清であり・・・。」
そして、間を開けて続ける。
「七つの大罪の悪魔が一人、嫉妬の魔女レヴィアタン。」
「流石ね。私が見込んだだけのことがあるわ。」
「恐縮です。」
「いつから気が付いていたのかしら?」
「2年ほど前からですね。俺の審美眼のおかげですね。でも、俺が気が付いていることもあなたは気が付いていたでしょう?」
「そんなことはないわよ。今日、あなたが裏切ったのを知って驚いたもの。」
「裏切ったなんて、人聞きの悪い。そもそも、あなたは娘を鍛えるつもりなどなかったというのに。」
「あら?」
それは本当に驚いたという顔をするが、良太郎にその嘘が見抜けないはずがない。
「俺が裏切った時点で、俺があなたの本当に狙いに気がつけないはずがないでしょう? それにあなたはもうこの体は限界だといった。それは俺が知っていることを、あなたは知っていることを示している。」
「そうだったかしらね。」
良太郎の語気は少し強いものになっていた。
清はかわいくないわねと一言いった。
「嫉妬の魔女とはよく言ったものですよね。」
良太郎は、侮蔑の笑顔をする。
「そんなに若さが欲しいですか? 孫の体を欲するほどに・・・。」
その言葉に、清は怒るようなことはしない。それよりか、彼女はその言葉を待っていたかのような表情になる。
「ええ、欲しいわね。若さが、そして、それが故の儚げな美しさが」
「今日、作者は一人カラオケに行ってきたらしいよ。」
「寂しいやつだな。」
「なんでも、受付を待っているときに、後ろの2人組みの客が、一人カラオケとは恥ずかしくてできない。って会話をしているのを聞いたんだって。」
「つい、後ろを振り返ってしまいました。一人は一人で楽しいんだよ!!」




