20メートルは意外に遠い件について(仮)
午前零時、10分前、もうすぐ約束の時刻である。
宮内はこの高校に通いだしてから、通学で使っている校門前で、スマホで時刻を確認した。現在、彼女が通っているこの学校には全体を囲うようにして、魔法による結界が張られている。かなり強力なもので、一般人だけでなく。おそらく許可されたもの以外の能力者も入れないようになっている。
宮内は学校のインターホンを押す。これは、先ほどの電話で来るときにはそうしろと言われていた。
インターホンの呼び出し音が3秒ほどなってから、応答がある。
「来たか・・・・。」
その声は、上野のものではなかった。もしかしたら声を変えているという可能性もなくはないが、宮内相手にそんなことをする必要もないだろう。その声は彼女が知らない仲間がいることを示すものだった。
「あなたは?」
「俺は、情報屋だよ。上野に捕まった。」
「あなたが、そうでしたか。お怪我などは大丈夫ですか?」
仲間だと勝手に判断したことは申し訳ない考えを起こしてしまった。
「残念ながら、ゆっくりお話をしている時間はないんだ。俺も自分の身が惜しいからな。まあ、こうやって言葉を話すことができているから、そんなに重症ではないってことは言っておくよ。じゃあ、入ってくれ。体育館わかるだろう? そこに上野がいるよ。」
校門の門が自動で両サイドに開いた。それと同時に、今まで宮内に対して結界が放っていた敵意がなくなる。
「では。」
「あの・・・、なんだ。本当にごめん。俺が捕まったばかりに・・・。俺が言うのもなんだが、気をつけろよ。俺にはこれくらいしかできないけど・・・。」
「お気になさらずに。ご心配ありがとうございます。」
宮内は学校の敷地に足を踏み入れる。
ここ数ヶ月、毎日のように通っている学校だ。それなのに、まるで初めて来たみたいに知らない景色に見えた。夜の学校ということもあるのだろうが、それだけではないことは確かだ。
自分が緊張しているのがわかる。
「ふーーー。」
宮内は大きく息を吐き。体育館に向かう。
体育館は、校門から入って、目の前にある校舎を通り過ぎた先にある建物の左手側にある。
宮内は、校舎から入って行きたかったが、鍵が開いていなかったので、校舎を回っていくことにする。
その間にこれまでの出来事を思い出していた。さきほど、井上家にて、稲垣 かおるに対して、これまでの事情を話した。そして協力をお願いしたが断られた。
これに関しては、宮内は特にかおるに対して思うところはない。断られるのも仕方がないと理解をしていたからだ。それに、自分の家の出来事(宮内自身はそう思っている)に関係のない人を巻き込みたくはなかった。
それに、あの様子から、かおるはずいぶん悩んでいた。苦悩をしていた。自分には関係のないことなのに、宮内のことを考えてくれていた。それだけで、彼女は満足をしていた。なので、彼に対して、負の感情はもちろんない。
宮内は校舎を回って、左手に体育館が見える位置まできた。
時刻は、おそらくもう午前零時になることであろう。
ゴックン・・・。
宮内は唾を飲み込む。
大丈夫、井上家を出てから、家に戻り、覇竜との交渉を行った。まだ、彼女は覇竜の声を聞くことができなかったが、現在、借り受けている力のおかげか、今日は少しであるが、向こうが言っている言葉が理解できた。
交渉では、覇竜もこんなことで、宮内家とのつながりが消えるのは本意ではない。ということであったので、一時間にもおよぶ交渉で、なんとか、もう少し力を借り受けることができたが、現在の宮内では、祖母ほどの力を行使すると、体が持たないらしい。
なので、覇竜は体が持つぎりぎりまでの力を与えてくれた。
話を少しできるようになってわかったことだが、覇竜は女性だった。だから、力が女性にしか受けずかれないのかもしれない。
(よし! 行くぞ!)
宮内は心を決めて、体育館のドアに手をかけた。
そこで、一瞬宮内がぐらつく。ものすごいプレッシャーが彼女の体を襲った。
いる!間違いなく、この中に上野がいる。この前あったときとは違う。万全で臨戦態勢の彼がいる。
宮内はドアを勢いよくあける。




