無力で無気力な人間な件について(仮)
どうすればいい。なんて、答えたらいいんだろうか・・・・。
かおるは、考える。
そう、今かおるは期待されている。今までにない大きな期待だ。人生最大の期待だといってもいいだろう。もし、これが、人の命の懸かっていないもので、大きな行事なんかの期待だったなら、かおるは、その期待に応えるべく、喜んで力を貸しただろうが。今回はそういう簡単な話ではない。なにせ、勘違いから始まったものだ。
かおるの、表情を宮内がどうとったのかはわからないが、宮内がさらに謝罪の言葉を並べる。
「急な話ですみません。本当は昨日、あの屋上でお話をするつもりだったのですが、かおるさんの力の暴走があったので、うまくいかず、今日のお昼ごろにもお話をしたかったのですが・・・、それも・・・。行き違いがあって、伝えるのが、こんなときになってしまいました。本来なら、時間を置いて考えてもらう話しなのですが・・・・。」
「つまり、時間がない。」
本来ならと使うということはそういうことだ。その意味の逆の意味。
「本当は今日一日は時間を置いて考えて欲しかったのですが、さきほどの、あの電話でそうもいってられなくなりました。」
そういえば、その言葉で現在の状況がいかに危険な状況なのか思い出す。ここまでの話を聞いてようやく先ほどの言葉、『二人が拘束されました。』の意味がよくわかる。
「上野が取引を急いできた。」
「そうです。おそらく、わたし達の情報を仕入れたのでしょう。流石の彼も覇竜の力をさらに増したわたしを相手にするのは不利と考えたのだと思います。なので・・・。」
宮内が一旦言葉につまる。が、続ける。
「わたしの友人を人質に今日中にどうするのか決めるように言ってきました。」
流石、情報屋を手中に手に入れているだけある。ここまででいけば、上野の手腕は危機管理能力に長けているといえるな。かおるは思った。
ということはつまり、午前零時までに自分が答えを出さないといけないということであり。もしかしたら、この後の数時間の出来事で、同級生が無残な姿になるかもしれないということか。
「本当にすみません。わたし達のごたごたに巻き込むようなことを言ってしまって、でも、本当によろしければ力をお貸し願いませんでしょうか?」
こんな風に、人に何かを丁寧に頼まれるの自体が初めてだ。もし自分に本当に漆黒の力があるとするならば、すぐにでも、協力する。という言葉を発したであろう。だけど・・・、俺はただの一般人だ。かおるは苦悩する。
「俺は・・・・。」
その後の言葉が出てこない。協力するといいたい。だけど、自分が宮内についていったとしても、足手まといになるだけだ・・・・。
「協力するというのは・・・・。」
言え、言うんだ!
「で・・・き・・ない。」
かおるは、宮内の顔を見ることができなかった。まだ、彼女はかおるのことを、漆黒の力を持っている人間であると思っている。なので、今彼女から見れば、かおるは薄情なやつに見えているだろう。
かおるは罵倒が飛んでくるのも覚悟で、目を瞑ったまま反応を待つ。
「そうですか・・・・。」
その言葉は静かだった。
かおるは、ゆっくりと目を開けて、宮内を見る。目があった。
彼女は、目が合うと、かおるに微笑む。
「今のかおるさんを見れば分かります。わたしの言葉に葛藤をしていました。おそらく、協力できない理由が、わたし個人にもいろいろとあるように、かおるさんも個人的なものがあるのでしょう。なので、断られても仕方がありません。わたしは・・・。ここまで真剣に話を聞いてくださり。真剣に悩んでくれただけで、わたしは充分です。」
宮内は、そういうと掛け時計を見る。時刻は午後九時半、話し始めてから一時間半も建っていた。
かおるは何か言葉を発したかったが、何を言ったらいいのかわからなかった。ここで、自分は漆黒の力なんて本当はもっていないんだ。あれは、ただ適当に口から出てきた言葉で・・・。なんてことは口が裂けても言えないし、もうそんなことを言う必要がないほど、先ほどの言葉で彼女は、すべてを包み込んでくれた。
かおるは歯を食いしばる。
宮内は、ゆっくりと立ち上がった。かおるは動けない。
彼女はかおるに、また微笑みかけて言う。
「長い時間ありがとうございました。そろそろ、わたし、失礼しますね。ハルカさんに申し訳なかったって、言っておいてもらっていいですか? 後、夕食おいしかったとも。本当は直接言いたかったのですが、そうもいかないので。」
「これからどうするんだ?」
「家にもどって、覇竜と交渉します。多少無理をしてでも、力を増してから、学校に向かうつもりです。」
「上野と戦うのか?」
「そうなるでしょうね。わたしは、誰の命も失いたくないです。結構、強欲なんです。わたし」
そういうと、かおるににっこりと微笑む。
「今日は、本当にありがとうございました。あの、本当に気に止むなんてことはしないでくださいね。かおるさんは、何も悪くありませんから。では、」
宮内は扉の音とともに、リビングを出て行き、玄関からも出て行った。それを、かおるは音で確かめる。見送りにさえいけなかった。
リビングには無力な、無気力な人間がただ取り残される・・・・・。