第六話 恋と本屋と帰宅と…
夏騎が本井さんと付き合うと言った翌日の昼休み、あたし達の教室に来て夏騎が言った一言があたしと冬音と秋を唖然とさせた。
「今…なんて?」
「だから、本井さんと付き合うのを止めた」
「なんで急に?だって昨日は…」
「見破られちゃったからね」
夏騎のその言葉にあたしは、首を傾げた。秋は、何も言わずに夏騎を見つめているだけだった。
今日は、とても不自然で…夏騎の「付き合うの止めた」発言に質問をしているのは、あたしだけだった。冬音と秋もいるのだけれど、一言も話さない。
「季野くん…ちょっといい?」
一言も話さなかった冬音が夏騎にそう言った。夏騎は、頷いて冬音について行き、教室を出た。
あたしと秋は、暫く二人の出て行った方を見ていた。
「じゃあ俺は、教室に戻る。夏騎も、どうせ話が済めば来るだろ」
「うん、それじゃあまた放課後にね」
「ああ」
秋は、あたしに向かって小さく手を振ってから教室を出て行った。昼休みが終わるまで、まだ少し時間があるので寝ようと机にうつ伏せようとした時、教室のドアの近くで白衣を着た女子生徒が教室を見回していた。
あたしは、立ち上がって女子生徒の近くに行く。白衣って事は、サイエンス部かな?サイエンス部しかないよね…。
「どうしたの?誰かに用事?」
「あっ!覚えてませんか?昨日、廊下で…」
彼女に言われて、あたしは、昨日の事を思い出した。そして冬音とぶつかったのがこの子だ。
「そうだ!冬音にぶつかったサイエンス部の…。あたしに用事なの?」
「はい、この間ぶつかった方にお詫びをしたかったので」
「そうなの?でも生憎冬音は、どこかに行っちゃってるの」
「そうだったんですか…それでは、また後で来て見ます」
彼女が立ち去ろうとしたのをあたしは、引き止めた。
「ちょっと待って!名前は?」
「冠凪紅葉です」
冠凪さんは、頭を下げると足早に自分の教室へと入って行った。今更だけど、あたしのクラスは一組で秋達のクラスが三組。そして冠凪さんのクラスが四組らしい。
同い年なのに何故敬語?
あたしが席に戻ったのと同時に冬音が戻って来た。
「話、終わったの?」
「うん、春香ってさ…幸せ者だよね?」
「え?」
「あっ!チャイム鳴る時間まで、まだ余裕ある」
しっかりと聞き取れた…あたしって幸せ者なの?そう聞こうとして、冬音に話を逸らされる。
もう聞こえちゃってるけど冬音は、何故?とあたしに言わせてくれない。
「そういえば四組の冠凪さんがお詫びしたいとかで教室に来てたよ?本当についさっきの事なんだけど…」
「え?そうなんだ…時間あるし、ちょっと行ってくるね?」
「うん」
戻って来たばかりなのに冬音は、また教室を出て行ってしまった。今日の冬音は、大変だなー。
そうだ…夏騎と何話してたか聞きそびれた…。
そんなこんなで冬音が話を終えて戻って来たのは、チャイムの鳴るギリギリの時間だった。
放課後になり、あたしは早速冬音に聞く事にした。
「夏騎と何を話してたの?」
「話と言うか…何と言うか…」
あたしの問いに冬音は、言葉を濁すだけだったけれど、このままではダメだと思ったのか濁すのを止めた。
「……何を話したかは、季野くんに口止めされてて言えないから無理」
「口止め料として飴玉もらってるんだね?」
「私が喋らないとすればそれしかないでしょ」
ポケットから飴玉の入った袋をあたしに見せて冬音は、そう言った。
「でもそこまでして他の人に知られたくない話をしてたんだね?」
「知られたくないと言うか…言ったら春香が混乱する事になるから」
「あたしが混乱する?」
また、聞こうとした所で邪魔が入ってしまった。秋と夏騎が教室に鞄を持ってやって来たからだ。
「何か話してたみたいだけど、もういいの?」
「うん、大丈夫」
さすがに本人の前で聞けないのであたしは、ついそう言ってしまった。これで今日は夏騎と何を話してたか聞けないよ…。
「じゃあ帰るか」
秋がそう言った後に冬音が手を挙げた。
「ちょっと私、用事があるんだけど」
「何か買うのか?」
「本、今日が発売日だから」
「奇遇だな、俺も本屋に用事がある」
「季野君と同じなんて嫌な奇遇だなー」
あからさまに嫌な顔をしながら冬音が言った。今にも喧嘩が起こってもおかしくない雰囲気。
冬音達の言っている本屋は、学校を出て左に三分あるいた所(かなり近い場所)にある。しかし、そうなると一つ問題が残る。
「冬音は、ともかくあたし達の家は、学校を出て右だよね?」
「俺達は、本屋に寄ってから帰るけど、春香達は、どうするんだ?」
「俺達って…一緒にしないでよ!」
「いや、一緒だろ」
口論している二人に対して、あたしは出来るだけ声を大きくした。
「えーと、あたしは真っ直ぐ帰るかな…あんまり遅いと親が心配するし」
「僕も春香と同じ」
「そうか」
一旦、口論を止めて秋が頷きながらそう言った。
本当は、秋ともう少し一緒に居たい…でもそう言ったら、あたしが秋を好きな事がバレてしまうかもしれない。間接的な告白っぽい言葉は、なるべく避けなければ…。
どうせ告白するなら「好き」って気づかれない内にハッキリ言いたいし。そう思いながら、あたしは、鞄を持った。
学校を出て、あたし達は右に、秋達は左に曲がった。ふと、振り返ると冬音が手を大きく振っていた。
あたしは、少し恥ずかしくて冬音に小さく手を振った。
「それにしても…秋と冬音、喧嘩してないかな?」
「してると思うよ」
「ええっ!」
夏騎にそう言われて心配になったあたしは、つい後ろを振り返ってしまう。
「心配しなくても大丈夫だよ。あれは、照れ隠しだから」
「照れ隠し…?」
秋が一体、何に照れているのだろう?あたしが聞く前に夏騎は、言った。
「秋、松永さんが気になってるみたいだから」
「え…?」
あたしは、一瞬フリーズした。その言葉が理解できなかった…違う…理解したくなかったんだ…。
「冬音に気があって…喧嘩になるような事をワザと?」
「まるで小学生みたいだろ?」
「うん」
それより…あたしが秋を好きで秋が冬音を好きで冬音が夏騎を好きで…。まさに三角関係じゃない!
あたしは、家に帰るまでずっとそんな事を考えていた。
続くよ!