第三十話 ハッキリ?
その日は朝から蝶をよく見かけた。それもどうやら同じ蝶らしい。首を傾げながらもあたしは気にせず学校へと向かっていた。そして途中で冬音と合流して二人で学校へと向かう。
「何か…さっきから同じ蝶を見かけるんだけど…」
「花でも持ってるの?」
「持ってないから不思議なんだよねー」
「あっ!それじゃあ…体のどこかにハチミツを塗っている!」
立ち止まり、自信たっぷりに冬音は言った。あたしは、ただ黙ってそんな冬音を振り返り見ていた。それと同時に桜を呼びたくなったよ…誰か何とかして!!
「まずハチミツなんて塗ってたら気持ち悪いわ!大体、春香がハチミツを塗る訳ないでしょ!」
「うわっ桜いつから?」
まさか神様があたしの願いを叶えてくださった!?ってそんな訳ないよね、偶然だよね。桜が後ろから此方へと早足でやって来る。
「きっと花の匂いでも付いてるんじゃないかしら?」
「そういえば、お母さんが朝から珍しく花を花瓶に入れてて…その匂いが移ったのかも」
「ほら見なさい、でも本当にハチミツ塗ってたら面白いわよね」
あたしに、まともな友達はいないのだろうか…でも…まだ冠凪さんいるし…サイエンス部だけど敬語の冠凪さんがいるし…。
「皆さん、お揃いで。何の話をしているんですか?」
「女神キターーーーー!」
「春香、そんなに私達はまともじゃないかしら?まともよね?普通よね?どうなの?ねえ…?」
冠凪さんが来てくれた事でガッツポーズをしていると桜からの質問攻めが待ち受けていた。そしてまた顔に出てたらしい。あたしは少し後ずさりをした。
「ふ…普通だよ…まともだよ…」
「そうですよ、桜さんも冬音さんも普通ですよ」
「そう…冠凪さんは良い子ね?」
意味深な笑みを浮かべながら桜が冠凪さんの頭を撫でる。完全に怯え切ってしまっている冠凪さんを見てると…桜が悪者に見えるよ。
「さて、冗談はこの辺にしておきましょうか」
「冗談だったの!?本気で怖かったんだよ!?」
「落ち着きなさいよ、半分本気だったわ」
「あたしとしては、全部冗談であってほしかったよ」
聞かなきゃ良かったと後悔していると、桜があたしを人差し指で差す。それから徐々に近づいて来て、人差し指が顔の前まで来て桜は立ち止まった。
「昼休み、屋上前の階段で」
それだけ言うとあたしから離れて一人で行ってしまった。あたし達は呆然として桜の後ろ姿を見つめている。そして冬音が口を開いた。
「…果たし状?」
「止めてよ、縁起でもない」
「……行きましょうか」
あたしと冬音は頷いて、桜を追いかけるように駆け足で学校へと向かった。果たし状…ではないよね?冬音が余計な事、言うから!…冬音の所為にしても仕方が無いけど…。
それからあたしは憂鬱な気分のまま昼休みまで過ごした。果たし状なんて言い出した当の本人は自分が言われた訳じゃないので気楽そうだった。
「不安にさせた罰として冬音とついでに冠凪さんも連れて行くから」
「ええっ!」
「私まで巻き添えに!」
嫌がる二人をなんとか引っ張って屋上前の階段へと行く。いつの間にか屋上前の階段が待ち合わせ場所になりつつある。
やっとの思いで着くと桜が腕を組んで仁王立ちして待っていた。冬音が逃げようとしたので透かさず腕を掴んで引き止める。冠凪さんは逃げるだけ無駄だと思ったのか大人しくしていた。
なんだろう…この二人を大人しくさせてしまうほどの桜の圧力は…。その桜が手招きをしたのであたしは近づいて階段に座った。冬音と冠凪さんも座る。
「今から恋バナをするわ」
「へ?」
予想しなかった事にあたしは間が抜けた声を出してしまった。他の二人も別の意味でまた呆然としている。
「だから恋バナよ!それで春香はどっちが好きな訳?秋と夏騎君」
「ええっ…夏騎…かな?」
「かなって…私に聞かないでくれる?私が春香に聞いてるんだから」
「だって夏騎は始業式の時に会った時、助けてもらったし…好きな人だし…。秋は好きじゃないと思うけど…なんか曖昧だし…」
呆れたように桜が溜息を吐く。どんなキツイ事を言われても大丈夫なように心の準備をしておこう…桜はキツイから…。
「そんな曖昧で…夏騎君が可哀想。どっちかハッキリしなよ」
「確かに冬音さんの言う通りです。ちゃんとハッキリした方がいいですよ」
まさかの冬音&冠凪さんからのハッキリしなよ…。桜は苦笑いをしながらその様子を見ていた。
「そ…そんな事、言われても…」
「じゃあ、分かるまで保留?」
腕を組みながら冬音がそう聞いて来る。あたしは悩みながらも首を縦に振った。
「うーん…そうだね」
「夏騎君は絶対に渡しませんから」
「ライバル発言でも?でもそっか…冠凪さん夏騎君の事、好きだっけ?」
「なんでバレてるんですか…」
バレてないと思ってたのか冠凪さんはとても驚いていた。冬音は桜と顔を見合わせる。あたしも本当に好きだったとは思ってなかったので呆然としていた。
「見てれば分かるよね?」
「ええ、見て分からない方がおかしいわ」
「なんで冬音と桜は分かったの!?鋭すぎるでしょ!」
「春香が鈍過ぎるんだよ…」
呆れたように冬音が言うと、でこピンをしようとしたのでサッと避ける。前に食らった時、痛かったから今度は食らわないようにしないと…。
「じゃあ、今回は保留って事で終わりにしよう。桜さん、これから食堂行くからデザート食べよ!」
「そうね、でもデザートは最後に食べましょう」
「ラジャー!春香と冠凪さんも行こう」
冠凪さんとあたしは肩を竦めて冬音達を追いかけた。食堂に着くと冬音と桜がもう食べていたのであたしと冠凪さんは驚きながらも顔を見合わせて笑い合った。
あたしはまだ自分の気持ちが分からないけれど…いつか分かる日が来るのかな?そんな事を考えながら、あたしも冬音達と一緒に食べる事にしたのだった。
続く