第二十九話 風邪引き②
【夏騎side】
春香の次は自分が風邪を引いてしまった。昨日の春香の姿が可愛くて…ついキスしちゃった罰なんだろうか?少し反省してみる。
秋は大丈夫なようで僕の心配をしながらも学校へ行った。大丈夫って行ったはいいけど…さすがに一人になると不安になってくる。
ふと、時計を見てみると放課後になっている時間だった。もうすぐ秋が帰ってくると思うと気持ちが楽になった。
それから少ししてドアの開く音が微かに聞こえて来た。階段を上がって来る音は一人じゃなかった…二人?ノックの後にドアが開く。
もう一人が誰なのか確かめてみると松永さんだった。春香はまだ風邪で寝ているのだから来るはずはないんだけれど…どうしても期待してしまう。
「お茶とお菓子は?」
「段々態度がふてぶてしいな…」
「秋、松永さんはお客さんなんだからお茶とお菓子くらい出してあげなよ」
「夏騎が言うなら出すが…」
秋は松永さんを睨み、彼女も秋に睨み返す。相変わらず仲がいいなーと見ていると松永さんがこちらを見た。足元に鞄を置いてから歩いて来て、近くの椅子に座る。
「春香の頬にキスしたそうですね」
「本人が?」
「他に誰に聞けって言うのさ?」
「言われてみればそうだね」
正にその通りなので思わず苦笑いをする。すると松永さんは困ったように溜息を吐いてから腕を組む。一体どうしたのだろうか?
「その笑い方……やっぱ、なんでもない」
「何?僕の笑い方がどうかした?」
松永さんがなんでもないと言ってるのに、聞いたら悪いかと思った。けれど、言いかけられると気になってしまう。
「ちょっと昔の事を思い出して…だからってその笑い方を止めろとまでは言えないからね」
「昔って…まだ青春真っ只中なのに」
「私の青春は中学生の時で終わったのだよ」
「そう…なんだ?」
「うん」
ここで会話が途切れた。少しだけ重苦しい…一分も経っていないだろうけれど、とても長い沈黙に僕は思えた。
「…松永さんって好きな人いる?」
「へっ!?あっ…好きな人…は…いないけど…」
松永さんは目を逸らしながら、そう言った。たぶん嘘だ…ここまで嘘を吐けない人を見るのは二回目だな…。
「好きな人って秋?」
「だからいない…って言ってる」
「目を逸らしながら、そんな事言って信じてもらえるとでも?」
「うっ…私、あいつ以上に夏騎君、苦手になる…」
ちょうど松永さんが苦々しい顔をした時、部屋のドアが開いた。不機嫌そうに盆にお茶を乗せながら此方へとやって来る。
「お菓子は?」
「無かった」
「別に無くていいや、すぐ帰るし」
「おい…」
用意させておいてすぐ帰るって…と抗議したいんだろうけど、すぐ帰るならいいやとか思ってるんだろうなーと秋の考えを想像してみる。
それからお茶を飲み終わったら本当にすぐに帰ってしまい、秋は呆気にとられていた。まさか本当に帰るとは秋は思わなかったんだな…。
【春香side】
風邪がすっかり治り、今日も朝から元気いっぱい!冠凪さんには心配されて桜からは“日頃の健康管理がしっかりとしてないからよ。ちゃんと早寝早起きしなさい”と言われてしまった。一応心配はしてくれてるんだと…思いたい。
「冬音、昨日夏騎のお見舞い行ったの?」
「ん?行ったけど誰に聞いたの?」
「秋に聞いた…なんであたしも連れて行ってくれないのー?」
「病人が病人のお見舞い行ってどうする」
そう言って冬音はあたしに、でこピンをする。痛っ!想像以上に痛い!と言うか冬音の力が強すぎるのでは?あたしでもこんな痛くしないって…。あまりの痛さに額を擦る。
「あうっ…」
「可愛いからもう一回でこピン…」
「理不尽!」
「何、バカやってんの?ところで夏騎君大丈夫だったかしら?」
桜が空いていたあたしの隣の席に座った。桜も心配するんだなーとなんとなく思ってみたりする。あたしでも心配されてるか分からない言い方するんだもん。
「大丈夫みたいだよ?少し顔赤かったけど普通に起きてたし…ただお菓子が…」
「えっ、お菓子?冬音、お菓子がどうしたの?」
夏騎は大丈夫だけどお菓子がどうしたの!?手土産を持って行ったけど受け取ってもらえなかったとか?少しだけハラハラしながら冬音の言葉を待つ。
「…お菓子が無かったんだって……」
「………」
「………」
まさかのお菓子が無かったんだって発言にあたしも桜も言葉を失う。冬音は何故かショックなようで俯いている。もしかして…お茶とお菓子頼んだけど季野家にお菓子が無かったとか…なのかな?それにしてもこれは…。
「「どうでもいい」」
「ええっ!どうでも良くないでしょ!すごい大事な事だよ!」
「太々(ふてぶて)しいわ!何と言ったって太々(ふてぶて)しいわ」
その言葉にガーンと言う効果音が付きそうな程、冬音はショックを受けた顔をする。まさに桜の言う通りなんだけど…ちょっと可哀想。
それからチャイムが鳴るまで桜は冬音を叱り、冬音はあまりのショックで呆然と桜の言葉を聞いていた。聞こえてるのかは分からないけれど…。
続く




