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白き観測者  作者: 春乃陽射
目覚めより

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1/5

エルノア



暗闇の中で、音が響いている。

遠く、長く、静かに。


それが何の音なのか、私は知らない。

ただ、その音が消えたあとも、耳を澄ませていた。


淡い光が目に入る。

目を開けると、白い天井が見えた。

高く、広い天井だった。


いくつもの柱がそれを支え、壁には細かな文様が刻まれている。天井の隅には、長い年月を経て色褪せた絵が描かれていた。



身体を起こす。

白い手が、石の床に触れた。

ゆっくりと立ち上がる。

足元から、小さな音が響いた。


広間の中央には祭壇があった。その奥には大きな扉があり、扉の両脇には石像が並んでいる。

どの石像も、両手を胸の前で重ね、静かに目を閉じていた。



しばらくして、扉の向こうから足音が聞こえた。

重い扉が開く。

白い衣をまとった老人が、数人を伴って広間へ入ってきた。


老人は歩みを止めた。

祭壇の前に立つ白い人影を見つめ、ゆっくりと膝をつく。


「創造主よ。あなたの御言葉は、果たされました」

広間に、声が響いた。

老人は深く頭を垂れたあと、傍らの聖職者から古びた書物を受け取った。


頁を開く。

そこには、白い人影の姿が描かれていた。

その背後には山々が連なり、川が流れ、空には無数の星が浮かんでいた。


老人は書物を閉じ、白い人影の前に立った。


「創造主より、白き観測者様へ名を授けるよう仰せつかっております」



「あなた様のお名前は、エルノア」

その名が告げられた。


「あなたは世界を巡り、人々の暮らしを観測し、見届けたものを創造主へ伝えるために遣わされました」


高い窓から、色とりどりの光が差し込んでいた。

赤、青、黄。

床に落ちた光が、風もない広間の中で静かに重なっている。


老人は大きな扉へと歩き、その両側に立つ人々が扉を開いた。



外から風が吹き込んだ。

草木の揺れる音が聞こえる。

遠くで鳥が鳴いていた。

扉の向こうには、どこまでも続く大地が広がっていた。


幾重にも連なる山々。陽光を反射する川。雲の影が流れる広大な草原。

その先に、小さな街が見えた。


白き観測者は、外へ向かって歩き始めた。

石の床を踏む音が、背後へ遠ざかっていく。



教会の鐘が鳴った。

その音は高い塔から空へと広がり、山々を越え、遠くの大地へ響いていった。

やがて鐘の音が消える。

風が草原を渡っていく。

鳥が空を横切る。

川は光を映しながら流れ続けていた。


広大な世界の中に、白き観測者の姿があった。

そして、その先には、まだ見ぬ景色が広がっていた。




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