④ つぎは
目を覚ますと、そこは静かな教室だった。
夕日は消え、窓の外は真っ暗になっている。
「……夢?」
頭がぼんやりする。
さっきまでの出来事が現実だったのか、自分でも分からない。
床には日記帳が落ちていた。
私は震える手でそれを拾い上げる。
最後のページを開く。
そこに書かれていた文字は、さっきまでとは違っていた。
『やっと終われる』
その下に、新しい文字が浮かび上がる。
『ありがとう』
インクが滲むように現れたその二文字を見た瞬間、背筋が凍る。
日記帳を取り落とした。
ページは風もないのに勝手にめくれ、
最後の白紙で止まる。
ゆっくりと、見えない何かが文字を書き始めた。
『つぎは まみ』
「……いや。」
私は教室を飛び出した。
廊下を駆け抜け、階段を下り、昇降口へ向かう。
今度は出口があった。
扉を押し開ける。
冷たい夜風が頬を打った。
助かった。
そう思った。
それから数日後。
音沢高校では文化祭の準備が何事もなかったかのように進んでいた。
朝のホームルーム。
担任が出席簿を見ながら顔を上げる。
「中山舞美さんは、今日も欠席ですか?」
教室は静まり返る。
「連絡も取れていません。何か知っている人がいたら、先生のところまで来てください。」
誰も答えなかった。
文化祭を目前にしているためか、教室はすぐにざわめきを取り戻す。
けれど、一人だけ空いた席が妙に目についた。
文化祭当日。
校内には笑い声が響き、屋台から甘い匂いが漂っている。
廊下を歩く二人の女子生徒。
「まみー! 一緒に文化祭回ろ!」
「いいよー!」
そう笑い合った直後だった。
片方の少女が足を止める。
「……ねえ。」
「ん?」
「今、何か聞こえなかった?」
「え?」
「ほら。」
――カン。
乾いた金属音が、どこか遠くで鳴った。
「やだ、またその噂?」
友達は笑う。
「違うって……本当に聞こえたんだって。」
少女はゆっくり振り返る。
人気のない渡り廊下。
薄暗い奥に、一人の女子生徒が立っていた。
制服は泥で汚れ、長い髪が顔を隠している。
その右手には、錆びた鉄の棒。
女はゆっくりと床を叩いた。
――カン。
少女は目を見開く。
「……誰?」
返事はない。
女はゆっくりと顔を上げる。
髪の隙間から見えたその顔に、少女の表情が凍りついた。
それは、この数日前から行方不明になっている文化祭実行委員、
中山舞美だった。
その口元が、不自然に吊り上がる。
――カン。
もう一度、音が鳴る。
女は一歩、前へ踏み出した。
翌週。
音沢高校では、新しい噂が流れ始めた。
「夜に『カン……カン……』という音を聞いた者は、姿を消す。」
誰も、それが噂ではなくなっていることに気づいていなかった。
終わり。




