一人目
その惑星へ降り立った時には、すでに夜になっていた。
空には無数の星々が輝き、地上にはそれに負けないほどの灯りが広がっている。まるで大地に星空が映し出されたような光景だった。
その灯りの広がる街の近くには、大きな森がある。
アルミスは目を閉じ、静かに周囲の気配を探った。
「見つけました。この森の中から、とても大きな光の塊を感じます」
船の操縦席にいたアルも頷く。
「船長、こちらでも生命反応を感知しました」
「すぐに降りましょう」
アルミスの言葉に従い、船はゆっくりと高度を下げていく。
やがて――
バサバサバサッ!
メキメキッ!
木々の枝を押し分け、何本もの枝を折りながら船は森の中へ降下した。
そして静かに着陸する。
すると暗闇の中から声が聞こえた。
「そこに誰かいるよな?」
若い男性の声だった。
ライトを手にしたぽっちゃりとした青年が、警戒しながら近づいてくる。
そして船から出てきたアルミスたちを見るなり目を見開いた。
「子供!? なんなんだお前ら!?」
青年の頭は混乱していた。
夜中の森。
突然空から降ってきた巨大な船。
そこから出てきたのは子供ばかり。
理解が追いつかない。
「日本語話してる……。コスプレ? 宇宙人? いや、でも空飛ぶ船だし……」
自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。
闇王が首を傾げる。
「コスプレとはなんだ?」
「私たちは怪しい者ではありません」
アルミスは丁寧に頭を下げた。
しかし青年は即座に突っ込む。
「十分怪しいぞ!」
「え?」
「真夜中に子供が空飛ぶ船で現れたら誰だって怪しむだろ!」
確かにその通りだった。
アルミスは少し考えてから言う。
「実は、あなたを探していたのです」
その言葉を聞いた瞬間、
「やっぱり怪しい!」
青年は全力で逃げ出した。
「アル、追いかけてください」
「わかった!」
アルはふわりと宙へ浮かび上がる。
そして一瞬で青年の前へ回り込み、行く手を塞いだ。
「うわあああっ!?」
青年は尻もちをつく。
「やっぱり宇宙人じゃねえか!」
「話を聞いてください」
そこへアルミスたちも追いついてきた。
青年はしばらく抵抗したが、逃げられないと悟り観念する。
「……で、話ってなんだよ」
アルミスは真剣な表情で言った。
「私たちは始まりの神――光の神の真なる子供です」
「は?」
「そしてあなたも同じなのです」
青年はぽかんとした。
「家族……ってことか?」
「はい」
「宇宙人の言うこと信じろって?」
「本当です」
青年はしばらく黙り込んだ。
やがて苦笑する。
「……でも、それが本当なら納得だな」
「何がですか?」
「家族の中で俺だけ落ちこぼれな理由だよ」
アルミスは優しく首を振った。
「違います」
「どうして家族だってわかるんだ?」
「あなたから出ている光を感じるからです」
青年は自分の体を見下ろした。
「俺は何も感じないぞ」
「光の塊の大きさによるものです。大きければ大きいほど感知能力も高くなります」
「じゃあ、あんたは相当でかいんだな」
「そうですね」
「俺はそっちでも落ちこぼれか」
その言葉にアルミスは少し怒ったような顔をした。
「自分をそのように言ってはいけません」
「え?」
「私とあなたは家族です。光の大きさなど関係ありません」
青年は少し照れ臭そうに笑った。
「そうかよ。子供に言われてもな」
するとアルミスの眉がぴくりと動く。
「私は見た目は子供ですが、13,000と一歳です」
「はぁ?」
青年は盛大に吹き出した。
「それこそ子供の言い訳じゃねえか!」
「私は子供ではありません!」
「じゃあお前、何歳なんだよって聞かれたらどうするんだ!」
「今言いました!」
「信じられるか!」
「では、あなたはいくつなんですか?」
「23だ」
「それこそ子供ではないですか」
アルミスは即答した。
「なんだと!?」
「事実です」
「お前なぁ!」
こうして――
アルミスと23歳青年による、終わりの見えない子供論争が始まった。
アルは頭をかきながら呟く。
「どう見ても子供の喧嘩だな……」
そして数時間後。
「はぁ……はぁ……」
「今日はこのくらいにしておきましょう」
「そうだな……」
なぜか二人とも疲れ果てていた。
「俺は鈴木太郎」
「私はアルミスです」
「私はサーシャなのだ」
「俺はアルだ」
自己紹介を終えると太郎が言った。
「もう遅いし、俺ん家泊まっていけよ」
「よいのか?」
「ああ。森の奥なんだ」
一行は太郎の案内で森を進んだ。
しばらくすると整備された道へ出る。
さらに歩いた先に見えてきたのは――
巨大な洋館だった。
まるで城のような豪邸。
「大きいな」
闇王が感心する。
「我が城と比べたら小さいがな」
「大人気ないな」
アルが呆れた。
太郎は苦笑する。
「城って……」
やがて大きな扉の前に到着した。
すると、
ウィーン――
誰も触れていないのに扉が勝手に開いた。
アルミスが目を丸くする。
「誰もいないのに開いたのだ!?」
「どうなってるんですか!?」
「金があるとこういうの作れるんだよ」
「金とは万能なのですね……」
アルミスは妙に感心していた。
中へ入ると豪華な光景が広がる。
天使が描かれた巨大なステンドグラス。
煌びやかなシャンデリア。
美しい動物たちの絵画。
まるで宮殿だった。
さらにメイドたちが一斉に頭を下げる。
その奥から執事姿の老人が走ってきた。
「太郎ぼっちゃま!」
「ジイ」
「こんな真夜中にどちらへ行かれていたのですか! ジイは心配で心配で!」
そして後ろの一行を見た。
「こちらの方々は?」
「えっと……ダチ」
太郎は少し照れながら答えた。
その瞬間。
ジイの目から大量の涙が流れ始める。
「おおおおっ!!」
「太郎ぼっちゃまにお友達が!!」
「ジイは感動しております!!」
涙と鼻水を流しながら号泣する執事だった。
「部屋を用意してやってくれ」
「かしこまりました!」
その後、太郎は漫画部屋へ向かった。
扉を開けた瞬間、闇王は驚く。
壁一面の本棚。
そして天井まで埋め尽くす大量の漫画。
「アルミスみたいだな」
「あいつも本が好きなのか?」
「好きだぞ」
「そっか」
太郎は少し嬉しくなった。
その夜。
闇王は漫画を読み始めた。
そして――
翌朝。
太郎は目を疑った。
闇王の周囲には読み終えた漫画の山。
さらに食べ終わったケーキの皿が大量に積み上がっていた。
「まさか……一晩中読んでたのか!?」
「ああ」
闇王は平然と答える。
「漫画は愉快だな」
「だろ?」
「ただ理解できぬことがある」
「何だ?」
「なぜ突然現れた女と主人公は結ばれるのだ?」
太郎は苦笑した。
「ヒロインだからだよ」
「ヒロイン?」
「主人公と結ばれる運命の相手だ」
「普通なら幼馴染と結ばれるだろう」
「俺もそう思う!」
こうして二人は漫画談義で盛り上がった。
楽しそうな笑い声を聞きつけてアルミスがやって来る。
「楽しそうですね」
「漫画とは愉快なのだ」
「それは良かったです」
すると太郎がふと寂しそうな顔をした。
「兄貴も姉貴も漫画の話聞いてくれないんだ」
「ご家族とは疎遠なのですか?」
「仕事が忙しいんだよ」
そして小さく呟く。
「……俺、本当の家族じゃないってわかってたからさ」
気づけば涙が零れていた。
アルミスは優しく言う。
「きっと愛してくれていますよ」
「そうだといいけどな」
その時、
「アルミス!」
サーシャが空になった皿を掲げた。
「これのおかわりが欲しいのだ!」
ショートケーキだった。
「これは美味だった!」
太郎は笑う。
「ジイ!」
チリンチリン――
鈴を鳴らす。
すると執事が凄まじい速さで現れた。
「お呼びでしょうか!」
「ショートケーキをホールで」
「かしこまりました!」
数分後。
巨大なケーキが運ばれてくる。
サーシャは目を輝かせた。
「おおおお!」
「ほらよ」
「太郎はいい奴なのだ!」
そう言って猛烈な勢いで食べ始めた。
そして数日後。
太郎は決意を固めた。
「ジイ」
「はい」
「俺、ちょっとダチと旅に出てくる」
ジイはしばらく固まった。
そして――
大号泣した。
「太郎ぼっちゃまがご立派になられてぇぇぇ!!」
「泣きすぎだろ」
太郎は苦笑する。
そしてアルミスたちを見る。
「どれだけ力になれるかわからないけどさ」
「俺も行く!」
そう言って太郎は船へ乗り込んだ。
「それじゃあ、漫画も持っていくのだ」
闇王がそう言うと、メイドたちは一斉に動き始めた。
やがて、大量の漫画が次々と運び出される。
闇王自身も両腕いっぱいに漫画を抱え、その後ろではメイドたちが山のように積み上げられた漫画を抱えて続いていた。
本の数はあまりにも多く、まるで小さな図書館をそのまま持ち運んでいるかのようだった。
「サーシャ様、本当に全部お持ちになるのですか?」
メイドの一人が困ったように尋ねる。
「当然なのだ。旅には娯楽が必要だからな」
闇王は真面目な顔で頷いた。
こうして闇王とメイドたちは、大量の漫画を抱えながら目的地へ向かうのだった。
船内へ足を踏み入れた瞬間――
「うわぁ……」
太郎は思わず声を漏らした
目の前には、地球の常識を遥かに超えた世界が広がっていたのだった。




