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闇王日記 〜闇の神様、人間の幼児になって無双する〜  作者: S


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魔王

船内の扉を開けた闇王は、思わず足を止めた。


そこは想像をはるかに超える豪華な部屋だった。


「ここが闇王様のお部屋です」


アルミスが静かに告げる。


部屋の奥には、大きな赤い天蓋付きのベッドが置かれていた。ベッドを囲むように美しいレースのカーテンが垂れ下がり、金細工の装飾には無数の宝石が埋め込まれている。


壁際に並ぶ本棚や机にも同じように金と宝石の装飾が施されており、光を受けてキラキラと輝いていた。


まるで王の部屋というより、伝説に語られる女王の寝室のような華やかさだった。


闇王は目を丸くする。


「ここが……私の部屋か!?」


予想外の豪華さに頭が追いつかない。


しばらく部屋を見回した後、気持ちを落ち着かせるために一度外へ出た。


「この船の部屋はここだけなのか?」


「いいえ。他にも乗組員用の部屋があります。こちらへどうぞ」


アルミスは北側の扉を開いた。


その先には長い通路が続いている。


闇王は並んだ扉を次々と開けていった。


ある部屋には大勢が眠れるハンモック付きの寝室があり、男女で区画が分けられていた。


別の部屋には乗務員用の個室が並んでいる。


そして一番奥には、アルミス専用の個室があった。


部屋の中には本棚いっぱいの書物が並び、机の上には書類の束が山のように積み上げられている。


「ずいぶん働き者だな」


闇王が呟くと、アルミスは少し照れくさそうに微笑んだ。


さらにその奥には下へ続く大きな階段があった。


二人が階段を降りると、そこには広大な空間が広がっていた。


数十人の乗務員たちが整然と並んで座り、それぞれの席の前には大きな水晶のような球体が設置されている。


正面は巨大なガラス張りになっており、外の景色を一望できた。


闇王は周囲を見渡しながら尋ねる。


「ここは何をする場所なのだ?」


「この船の心臓部、ブリッジです。この船を操縦し、敵襲があれば迎撃も行います」


説明を終えると、アルミスは中央に設置された艦長席へ向かった。


そして堂々と腰を下ろし、鋭い声で命令を下す。


「魔力装填!」


その瞬間、乗務員たちが一斉に声を上げた。


「魔力注入開始!」


全員が目の前の球体へ両手を当てる。


すると球体は眩い光を放ち始めた。


低く響く振動が船全体を包み込む。


次の瞬間だった。


窓の外の景色がゆっくりと動き始める。


船体が地面から浮かび上がったのだ。


周囲の木々に止まっていた鳥たちが驚いて一斉に飛び立つ。


船はさらに高度を上げていく。


闇王が窓の外を覗くと、先ほどまで見上げていた王城がどんどん小さくなっていった。


街並みも森も、まるで模型のように見える。


やがて船は雲の下に達し、空中で静止した。


アルミスは前方を見据えながら命令する。


「進路、南!」


「イエッサー!」


乗務員たちの返事が響く。


巨大な船がゆっくりと旋回し、船首が南を向いた。


続けてアルミスは右手を前へ突き出した。


「全速前進!」


「イエッサー!」


ブリッジに再び声が響く。


ゴォォォォォッ!!


船体後部から膨大な魔力が噴き出し、巨大な空飛ぶ船は勢いよく加速した。


眼下の景色が流れるように後方へ消えていく。


初めて見る空の旅。


闇王はガラス越しに広がる世界を見つめながら、その圧倒的な光景に胸を高鳴らせていた。


こうして闇王を乗せた天空船は、南の大陸へ向けて大空を駆け始めた。


眼下にはどこまでも青い海が広がり、見上げれば果てしなく続く青空が広がっていた。


闇王は船の甲板から景色を眺めながら、ふと思い出したようにアルミスへ尋ねた。


「そういえばアルミス。行かなければならない場所とは何なのだ?」


アルミスは静かに答える。


「助けたいお方がおります」


「助けたい者? 一国の王であるお前が、そこまでして助けたい相手とは誰なんだ?」


闇王は興味を抱いた。


アルミスは少しだけ表情を曇らせて言った。


「魔王です」


その言葉に闇王は目を見開いた。


「なぜ魔王なんかを助けるんだ!?」


魔王とは魔物たちの王。普通なら討伐の対象であり、助ける存在ではない。


しかしアルミスは真剣な眼差しで続けた。


「魔王は私の友人です。そして、とても可哀想なお方でもあります」


「可哀想?」


「はい。魔王は闇に好かれています。闇を引き寄せてしまう体質なのです。そのため常に魔獣たちに狙われ、追われ続けています」


闇王は黙って話を聞いた。


数時間後――。


遥か彼方に南の大陸が見え始めた。


その時だった。


「来ます!」


アルミスが叫ぶ。


巨大な赤い影が空を横切った。


「あれはフレイムドラゴンです! 強烈な炎を吐きます!」


アルミスはすぐに命令を飛ばした。


「シールド展開!」


「イエッサー!」


船員たちが声を揃える。


次の瞬間、フレイムドラゴンが大きく息を吸い込み、灼熱の業火を吐き出した。


轟音と共に炎が船を包み込む。


しかし船を覆う透明な膜が炎を完全に防いでいた。


「シールドで接近します! 闇王様は甲板で迎撃を!」


「わかった!」


闇王は階段を駆け上がり甲板へ出る。


フレイムドラゴンとの距離はみるみる縮まり、やがて真上へと到達した。


闇王は右手に闇のオーラを集中させた。


すると黒い光が集まり、巨大な漆黒の剣へと変わる。


吐き出される炎を剣で受け止めながら、闇王は高く跳躍した。


その跳躍は人間離れしていた。


一瞬でフレイムドラゴンの頭上へ到達する。

挿絵(By みてみん)

さらに剣へ大量のオーラを流し込むと、刀身は空を突き抜けるほど巨大化した。


「終わりだ」


闇王が振り下ろした一撃は、フレイムドラゴンを真っ二つに切り裂いた。


ドラゴンは光の粒となって消滅した。


船はそのまま大陸の奥へ進んでいく。


やがて巨大な山脈が見えてきた。


その山頂には、雪のように白い城が建っていた。


「あの城です」


アルミスが指差す。


しかし城へ近づいた瞬間、無数の影が空を埋め尽くした。


ドラゴンの群れだった。


「待ち伏せか!」


闇王が眉をひそめる。


「魔王を助けに行くんじゃなかったのか!? なぜ攻撃してくる!」


アルミスは苦笑した。


「まあ、魔物ですから。そういう生き物なんですよ」


その直後、四方八方から炎が飛んできた。


だが闇王の姿が一瞬消える。


いや、速すぎて見えなかっただけだった。


自分自身ですら驚くほどの速度。


闇のオーラを吸収してから、身体能力が飛躍的に向上していた。


炎を避ける。


斬る。


避ける。


斬る。


避ける。


斬る。


襲いかかるドラゴンたちを一撃ずつ確実に倒していく。


やがて援軍まで現れた。


数百体を超える大軍勢。


しかし結果は変わらなかった。


闇王は次々とドラゴンを切り伏せ、最後の一体まで倒し切った。


「さすがですね」


アルミスが感心したように言う。


船は城の最上部にある塔へ着陸した。


闇王たちはすぐに城内へ入り、階段を下っていく。


しばらく進むと大きな扉が現れた。


中へ入ると、一人の青年がいた。


青年は窓を磨き、机を拭き、床を掃いている。


熱心に掃除をしていた。


闇王は思わず首を傾げた。


(人間がなぜこんな場所にいる?)


するとアルミスが親しげに声をかける。


「アルフェロッチェ!」


青年は振り返った。


「アルミス!」


嬉しそうに駆け寄ってくる。


「どうしてここに!? 王の仕事で忙しいだろ!」


「簡単ですよ」


アルミスは微笑みながら答えた。


「闇王様と出会えたので連れてきました」


そして闇王へ向き直る。


「こちらが闇王様です」


青年は驚愕した。


「あなたが闇王様!」


すぐに片膝をつき、頭を下げる。


「どうか魔王をお助けください!」


闇王は腕を組んだ。


「魔王を助けて何か得があるのか?」


「あります」


アルミスが答える。


「魔王を守れば、闇が発生する頻度が減ります。結果として世界の被害も減るでしょう」


「なるほど」


闇王は頷いた。


「なら手を貸そう。どうすればいい?」


アルミスは説明した。


「アルフェロッチェに薄く闇のオーラを纏わせてください。そして契約書が目の前にあると想像しながら、私に続いて唱えてください」


闇王は頷く。


「わかった」


闇王は呪文を唱えた。


――汝が瞳に我が影を映し、呼吸の鍵を委ねよ。


――抗えぬ絆を誇りと知り、その魂の全てを我が御心に捧げよ。


「エターナルボンド!」


その瞬間。


目の前に巨大な巻物が現れた。


巻物から無数の鎖が飛び出し、アルフェロッチェの身体を縛り上げる。


しかし鎖はすぐに光となって消えた。


代わりに両腕と両足へ鎖の紋様が刻まれる。


アルミスが説明した。


「これで隷属の契約は完了です。アルフェロッチェは闇王様の命令に逆らえません」


そして微笑む。


「闇王様、ご命令をどうぞ」


闇王は少し考えた後、言った。


「まず、その名前は長くて呼びづらい」


「はい」


「今日からお前はアルだ」


アルフェロッチェは即座に頭を下げた。


「はい。闇王様の仰せのままに」


素直に受け入れられた闇王は、少し照れくさそうに頭をかいた。


「それと、そんな堅苦しい話し方はやめろ。普通に喋れ」


「ああ、わかった」


「それでいい」


闇王は満足そうに頷いた。


そして気になっていたことを尋ねる。


「ところで、魔王なのになんで掃除なんかしていたんだ?」


アルは胸を張った。


「趣味だ」


「趣味?」


「ああ。掃除、洗濯、料理は全部得意だぞ」


闇王は思わず呆れたような顔になる。


魔王らしからぬ答えだった。


こうして魔王アルが新たな仲間として加わった。


闇王、アルミス、そしてアル。


三人はこれから光の世界へ向かうことになる。


新たな冒険の幕が、静かに上がろうとしていた。








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