ラノベガニがきたぞーーー!
「ラノベガニがきたぞーーー!」
妻が叫んでいる。我が家のいつもの日常だ。
たびたび登場する私の友人、ラノベおじさん。
ラノベおじさんはラノベをこよなく愛している。職業はアニメ制作? 何をしているかは詳しく知らない。とにかく、キャラクターに対する愛がすごい。
「〇〇(私の名前)さんは、マケインの女の子で誰が好き?」
つい先日、飲みに行った時のラノベおじさんの質問だ。
面倒な私は、いつも適当に返答している。
さて、ラノベおじさんからカニが送られてきた。
「お歳暮」と書かれた発泡スチロールを開けたら、カニが二匹出てきた。
「商品名:花咲ガニ」と書いてある。花咲ガニは北海道の花咲港(根室市)で取れるカニらしい。
ビニール袋からカニを取り出そうとしたら、妻が言った。
「写真撮ったろか? ラノベおじさんに送ったらええやん」
妻は私とカニの写真を撮りたいらしい。記念撮影だ。
「はよ持てやー!」
なぜか妻がキレている。もはや、カニとの記念撮影は既定路線。
しかたなくカニを両手で持つ。
「痛っ!」
持ったらカニのトゲが手に刺さった。
甲羅にびっしりとトゲトゲが付いている。ウニを素手で持つのと似ているかもしれない。
分かり難いかもしれないので写真を載せておこう、こんな感じだ。
妻はカニの棘をツンツンしている。
「このカニを丸飲みしたクジラ、痔になるなー」
たしかに……考えただけで恐ろしい。
これだけ頑丈な甲羅はすぐに消化しないから、喉や胃に刺さる。そして、花咲ガニを排出する際に痔なる。
一度でも花咲ガニを丸飲みしたクジラは、二度とカニを食べようとは思わないだろう。
本来なら軍手でつかむべきだろうが、用意するのが面倒だ。
痛みを堪えてカニを素手でつかんだ。
カニを持った両手を挙げる。
「笑顔は?」
私としたことが……記念撮影なのに笑顔を忘れていた。
というか、トゲが痛くて笑顔どころではなかった。
口角を上げて笑顔をつくる。
「これでええ?」
“カシャ” シャッター音が聞こえた。
妻は写真を見ながら悩ましい顔をしている。
笑顔が硬かったのか?
「うーん、なて言うんかな……臨場感がない。声出したらええんちゃう?」
妻はきっと「とったどー」と言わせたいのだろう。しかたない。
「とったどー!」
両手のカニを上げて叫ぶと、妻はシャッターを押した。
妻は写真を見ながら考えている。
「これは、カニ持って怒鳴るオッサンやな。やっぱり、口を開けたら、威嚇してるみたいになるな。『とったどー』の後に笑顔に変わったタイミングで写真撮ろか」
私は写真を確認した。たしかに、カニを持って叫んでいるオジサンにしか見えない。
しかし、私は重要なことに気づいた。
「それ、『とったどー』いる?」
「やりきった臨場感が必要やからな。『とったどー』は外せん」
「あっそ」
カニを持ち上げる。
「とったどー!」
からの……口角を上げて笑顔を作る。
シャッター音が聞こえた。
「どや?」
「まあ、これでええか」
妻は私に写真を見せた。
カニをもらってこんなに嬉しそうな人を見たことがない。そんな笑顔だった。
「おお、ええやん。この写真送ったら、ラノベおじさん喜ぶでー」
私は撮れた写真に満足した。スマホを手に、前(カニ+とったどーの写真)とその前(カニ+笑顔の写真)を確認する。
「これ(カニ+笑顔)と最後の写真、同じ顔やん。やっぱり、『とったどー』いらんかったやろ?」
「そんなこと……ないで」
「いま、ちょっと考えたやろ?」
ラノベおじさんに写真を送ったら、すぐにメッセージが返ってきた。
『カニの話、小説サイトに載せて!』
ラノベおじさんは自分の話を読むのが大好きだ。
だから、私はこの話を掲載した。内輪話で申し訳ない……。
<つづく>




