第54話 緊迫
すぐに旦那さんが手術室へと呼ばれる。
「すみません、このままお話させてください。
いま緊急帝王切開でお子さんは無事に出産いたしました」
「あ、ありがとうございます!!」
「ただ、たぶん盲腸だったんだと思いますが、子宮の一部が腸と激しく癒着しており、このままでは大きな病気の原因となる可能性があります。切除範囲が広く、理想を言えば子宮の全摘出、つまりこの先お子さんを産めなくなります。辺則の卵巣子宮を残す方法もありますが、手術リスクは少し上がります。突然のお話で申し訳ないのですが、どうされるか決めていただきたいです」
「ちょ、ちょっと急にそんな……」
「お気持ちはわかりますが、できる限り早くしないといけません。今後子を産む可能性を残したいとお考えなら、辺則の部分切除、安全を取るなら全摘出です」
「ぶ、部分切除は危険なんですか? 先生でも難しいんですか?」
「リスクはあがります。ただ、その選択をされるなら全力は尽くします」
「……先生、うちの奥さんは子供が大好きなんです。出来ることなら、もっと子を生みたいと言うと思います。お願いします。先生希望を残してください!」
「分かりました。全力を尽くします」
方針は決まった。
切除範囲を判断し、腸管の破損部位を判断し、手術計画を組み立てる。
こんなに強い炎症があったのに、妊娠の辛さと勘違いして我慢をしてしまったのだろう……
すごいガッツだ。
僕は、それに、答える!!
残念ながら傷は拡大せざるを得なくなった。小さな傷で処置するよりも安全に確実に処置が行えることが優先される。
腸管を包み込む癒着大網を腸管と一括して切除していく。腸管は素早く吻合し、漏れなどもチェックする。その時点でもう一度腹腔内を徹底的に洗浄し、癒着を剥離し適切に処置を行う。
子宮角を遡って卵巣上部の人体と血管をしっかりと結紮し切除する。子宮体部をなるべく残して変則の子宮角を根本の処置を行い切除する。出産直後の脆い子宮をしっかりと、それでいて優しく縫合を繰り返していく。
最後にもう一度洗浄と出血を確認する。
師匠には洗浄した水が飲めるくらい徹底的にやれと言われている。
完璧に処置を行い、排液のためのドレーンを入れて閉腹をする。
あとは意識が戻り、血圧上昇による細かな血管からの出血を起こさないことを祈る。
「無事終わりました。今はまだ眠っていますがそのうち目を覚ますと思います。
トラブルも無事に解決しました。これからは出血を起こさないようにしっかりと診ていく必要があります。少し入院が長くなりますが一緒に頑張りましょう。
それと、お子様……抱っこしますか?」
「……いえ、一番最初は奥さんです。目が覚めるまで我慢します」
「そうですか……わかりました」
「先生、目を覚ましました」
「わかりました、では、行きましょう」
「おお、よく頑張ったなぁ……!!」
「あんた……なんで、泣いているのさ……?」
「色々とお話がありますが、まずは赤ちゃんを抱いてあげてください。
旦那様も奥様が先だと我慢されていましたから」
看護師が小さな小さな赤ちゃんを優しく母親へと受け渡してくれた。
すやすやと眠っている小さな命の姿に、母親も父親も涙を流している。
「ああ、私の天使ちゃん。これからよろしくね」
「世界で一番かわいいよ……目元なんて君にそっくりだ」
「やだよあんた、恥ずかしい!」
僕はこの感動的なやり取りに目頭を熱くしながらも、排液バッグを注意し続ける。
もしこの状態で出血が起きているようなら、再び開腹し子宮の全摘出も視野に入れなければいけない。
「よかった……」
とりあえず第一関門はクリア、直後の出血が起きているような液体の出方ではない。
正直、どんなに完璧な手術をしようが、産科の領域は人の意志だけではどうしようもない事が起きる。我々は神ではないということを突きつけてくるかのように無慈悲に死神が鎌を振り下ろしてくる。
新生児の管理もそうだ。
子猫の世話も常に死と隣合わせなことを忘れてはいけない。
出産は命がけだし、生命をつなぐということは容易なことではない。
だからこそ人は心を震わせるほど感動するし、我が子を守る親は強い。
このご夫婦も母子ともに健康に病院を後にしてくれた。
「流石に緊張した……」
「凄いです、あの処置をあんなスピードで……」
「皆も出来るようになるよ。絶対に」
「が、頑張ります!!」
「せ、先生質問してもいいですか?」
「もちろん。何でも聞いて」
それからはしばらく質問攻めになった。
病院スタッフの学びたいという意欲は非常に高い。
そして、皆一生懸命に勉強し技術を高める努力を続けてくれている。
いまは経験が少ないからまだ足りない部分もあるけど、皆素晴らしい医者になれると僕は確信している。
すみません、ちょっとストックが無く投稿が遅れます。申し訳ございません。




