94 思わぬ副収入
あの時、あの洋館で、バリーは私を撃った。でもそれは、ハロルドが彼に指令を与えたからだ。それを知った私は、沸々と怒りの感情が胸に湧き上がっている。
知られたくないものを知られた、バーン。その言葉を最後に、私はゴーストになった。あと犯ティーが二回放送されたら、何もかもが消えて終わってしまう、ゴーストに。
反省した様子もなく、ゲヘゲヘと下品な笑いを浮かべて、ハロルドはラズベリーと話している。
イオリに会いたくなった。手が震えている。でも姿を出さないように必死に堪えた。動揺すると姿が出てしまう。でも動揺しないようにと思うたびに、怖い気持ちが湧いてくる。
目を閉じて彼を思い出した。あの時私にしてくれたように、自分で自分の口を押さえて、呼吸を整えた。少しだけ、よくなってきた。
「それではわたくしは」ラズベリーが言った。「これを正門まで運んでいきますわ。」
「ああ、それならダスターにやらせればいいだろう、どうしてお前が持っていくんだ?ヘッヘッヘ……何か隠しているのか?」
「ち、違います!」
……明らかに怪しかったよ、ラズベリー。
同じことを思ったのか、ハロルドも彼女の反応から感じ取って、彼女を押し退けて白い布を掴んだ。
「やめて!」
ラズベリーの叫びと共に、白い布が取られてしまった。しかしその時、絵画の隙間から飛び出た黒い影が、ハロルドの頬を思いっきり殴った。太い顔が、一瞬ぐにゃっと歪んだ。
「レイヴ……!」
私は小声で叫んだ。ハロルドは顎を思いっきり打たれたようで、床に倒れた。
「……アリシア、ハンドガンを貸せ。」
「なんで?」
私は周りを見た、既に何人かが物陰に隠れていて、レイヴに銃を向けている。私はそっと移動して、彼の盾になる準備をした。レイヴはじっとハロルドを睨んだまま答えた。
「いいから貸せ。俺のだろーが。」
「分かった。」
私はレイヴにハンドガンを渡した。渡した時にハンドガンがスッと出現すると、それを見たのかボードン兵が「銃を捨てろ!さもなければ撃つ!」と叫んだのが聞こえた。
「どうせ撃たれるんだ、俺はもう何も怖くねえよ。これは兄貴からのプレゼントだ。」
サイレンサーの発砲音が三発響いた。ラズベリーは目を塞いでその場でしゃがんで叫んだ。レイヴはハロルドの頭を目掛けて撃った。
……けど、彼はエイムが狂う癖がある。それらはハロルドの頭には行かずに、両耳と肩に着弾した。どこをどうすればこの距離で外すんですかね、と苦笑いした時に、背中にドスドスっと強い衝撃が加わった。
ボードン兵が撃ったのだ。それを私が背中で受け止めた。レイヴはハッとして「ごめんリアちゃん!」と言ってから廊下の突き当たりにある窓に向かって走った。
「大丈夫だから逃げて!」私は身を固くして連射に耐えた。撃たれる衝撃はとても大きいけど、痛みは感じないようにすれば全然大丈夫だ。怖いけど。
「なんだ!?全然奴に当たらない!ゴーストか!?」
兵達が騒然とした時に、レイヴは窓を開けてそこから飛び降りてしまった。「うわわああ!」と彼の叫び声が聞こえた。
私は飛んで、廊下の床や壁をすり抜けレイヴに一瞬で近づいて、前のめりに落下している彼の黒いTシャツを掴んで、もう片方の手で一階の柵に捕まった。
落下から助けることが出来た。「ありがと、やばかった!」と彼は私を探したので、姿を出した。彼が私を発見すると、すぐに私の背中を確認した。
「うわああ、めっちゃ撃たれてる!ごめん、ほんとうに、俺の為にこんなになって、ごめん!」
「いいから!早く出よう!この厳戒態勢じゃ地下通路はもう使えないから、他のルートから……!」
私は辺りを見回した、植物園の端にはこの屋敷を覆っている柵があって、植物のツタを登ればそこから出られると思った。
それを指差した。
「あそこから出よう!」
「え、あ、うん!」
私はレイヴの手を引っ張って走った。このエリアには一定間隔で見張り台があって、そこから出るスポットライトが噴水や植木の上を滑って、我々を探している。
身を屈ませて、植物園の中を進んだ。時折誰かの足音がして、我々はじっと物音を立てずに潜んで、通り過ぎるのを待った。
屋敷から出たら街に出るから、適当にその辺の車を借りて、あの駐車場まで行こう。そしたら後は車で……それで大丈夫だろうか。追手が撒けないと厳しい。
とうとう植物園の奥の壁までやってきた。大きな木から長いツタがぶら下がっていて、それをレイヴに昇らせた。
「いたぞ!動くな!」
やばい見つかった。すぐに奥の柵に銃弾が数発当たった。レイヴは驚いたのか、手を離して尻餅をついてしまった。今我々は植物の影にいる。
地面がキラリと輝いたので、私はそれに目を凝らした。
「あっ、これ、銀の銃弾だ……。」
二センチぐらいの尖った銃弾は、シルバーの光沢感を放っていた。持っていたら指が熱くなって、それを地面に落とした。指が少し、溶けていた。
やばい。指は自己再生したから良かったけど、体にまともに食らったらこれは死ぬ……いやもう死んでるけど、消えてしまう。聖なる力にやられてしまう。
レイヴも拾ってそれを見た。また何発か飛んできて、それらは柵に当たって地面に落ちた。しかしレイヴは何故かエッヘッヘと笑ってる。
気でもお狂いになられたのだろうか。私は彼に聞いた。
「何してんの?」
「いやいやいやこれは拾うでしょ!何これ超ラッキーじゃん!拾え拾えええええええ!」
「えっ」
彼は飛んで弾かれて地面に落ちる銃弾を必死こいてポケットに入れている。この状況で、それを拾うんだ……。
まあ確かに、純銀だから売れば高そうだけど、私は拾えないけど、と思いつつも、私は彼の背中を引っ張った。
「も、もういいから逃げるよ。」
「あ、待って!もう一個ここに落ちてる!」
私は姿を消して、レイヴのベルトから銃を引き抜いて、近づいてきていたボードン兵に向かって威嚇射撃をした。
姿の見えない私に、ボードン兵は戸惑っていて、「どこだ!?」「くそ、わからん!」「姿を消したまま発砲するんじゃ話にならん」「誰か霊媒師でも連れてこい!」と混乱し始めた。
今のうちだ。私はレイヴから手を離して、庭園の駐車場に止めてあった車に目をつけた。追跡機能があるだろうけど、途中で乗り捨てればオッケーだ。
「でもそれ鍵かかってるから無理じゃ」
不安を見せるレイヴの前で、私はドアをすり抜けて運転席に座り、内側から鍵を開けてレイヴの為にドアを開けた。「すご、」とレイヴは助手席に座り、私はすぐにその白い高級車のアクセルを踏んで、エアクラフトモードにした。
すると性能がいいのか、一気に夜空にふわりと飛んだ。銃弾が飛んできてはいるが、車が素早く動いてくれるので車体には当たらなかった。街の上空には他にも車が飛んでいるが、ボードンの車ではなさそう。
「レイヴ、あの車ってあった方がいい?」
「え?俺の車?」
「うん。」
「な、なくてもいいよ、別に。新しいの欲しくなったら、お兄ちゃんに買ってもらうし。」
「じゃああれは捨てる。この車の性能がいいから、山の方でこれを捨てて、パルムシティ郊外に行こう。そこに脱獄ディーラーがいるから、私が車を買って、それでトロピカルバイスに戻る。それでいい?」
「いいけど……リアちゃんやっぱプロなんだな。すごいわ。でもあの屋敷に侵入したのが俺だってことは、ばれてるよな?」
「ばれてるし、私がいたこともばれてる。でもバイスはFOCの人間が多いから、ボードンはそこでのいざこざは避けると思う。まあレイヴはハロルドを殺してないから、そんな粘着されないと思う。ラズベリーは信用を失ったと思うけど。」
「まー、あの女は仕方ないね。自宅に俺を呼んだのが悪い。」
なんかすごい手のひら返しでちょっと笑った。ああ、帰ったらすごい怒られそう。イオリにも、オリオン様にも……。




