84 新しいミッション
今日はイオリがオリオン様に呼ばれたので、久しぶりにあのホテルに来ている。ちゃんとサラがいないことを確かめてから、ホテルの裏口から入って、エレベーターで上の階まで登った。
あの日、トレーラーの屋上でバートと変な遊びをしたことは反省してる。イオリもあの時は無理矢理してごめんと謝ったけど、別にあれはあれで良かった。私の方が悪いことをした。
バートにはオンラインでチップを渡してから連絡先を消した。それから毎晩、イオリは私を求めた。する時にどうしてもごめんねと謝ってしまう。彼はその度にもう忘れろと言った。
お仕置きと称されて、吊るされて鞭で叩かれた。最近は結構強めになった。たまに痛くて泣きそうになると、イオリが焦りながら叩いて赤くなったところにキスして、すまないと謝ってくれた。
もう二度と、変な真似はやめようと思った。きっと彼の想いが強いから、鞭だって激しくなってる。もう一度彼の想いを刺激したらきっと私は殺され……はしないから、成仏させられるだろう。それはちょっと遠慮したい。
犯ティーの第八話は昨夜、二人で仲良く見ることが出来たし、イオリが怪しいと睨んでた凄腕の刑事の死顔で、また彼の悔しい叫びが聞けて面白かった。
エレベーターは二人で手を繋いでた。最近はいつも、一緒に歩く時は手を繋いでる。時々建物の影に隠れてキスをする。好きだって、真剣な瞳で言われる。私も返す、好きだよって。
「アリシア。」
考え事をしてたら話しかけられた。
「ん?」
「ずっと言おうか悩んでいた。こんなことを強制するなんて、おかしいかもしれないが、もう二度と他の男に連絡するな。」
「しないよ、しない。かかってきたら出るけど。レイヴとか。」
「レイヴやダニー、ヤギならいい。ボスは言わずもがな。他はだめ。」
「あ、はい。じゃあイオリもサラとだめ。」
「分かった、着拒にする。それからこの仕事で知り合った別の女性とも仕事以外では連絡は取らない。」
よし、と同時に二人から言葉が出て、二人で少し笑った。
それから我々はエレベーターから降りて、オリオン様の部屋の前に着いた。ドアの両サイドには二人の武装した男が立っていて、イオリと私に頭を下げてから、ドアのロックを解除して、開けてくれた。
手を繋いだまま部屋に入った。広い部屋だ。空がすぐそこにあるかのような大きな窓が一面に広がっていて、その真ん中にオリオン様のシルエットがあった。
彼は空を見つめていた。私とイオリが近づくと、ゆっくりと振り返った。広いキッチンにはお酒の瓶と、以前は無かったと思われる多肉植物の植木鉢が置いてあった。
アロエ?それとも薬草かな……。
イオリが近くのソファに座ったので、私も隣に座った。テーブルを挟んだ向こうにはオリオン様も座った。
腕をぐいっと引かれて、私はイオリに寄りかかる形になった。それは嬉しいけど、そんな、こんな場所で。
「はっはっは……イオリはとてもリアを気に入ってるな。」
オリオン様が笑った。イオリは「ああ」とだけ答えた。あの時彼を不安にさせたのがいけない。あれから彼は人前でも構わずこうしてくっつくようになった。ソファを囲むようにして立ってる手下たちに見られてちょっと恥ずかしいけど私はこの状況を受け入れた。
「今日呼んだのは、俺に名案が浮かんだからだ。」
「名案?」
イオリは手下がテーブルに置いたコーヒーを一口飲んだ。私のもあるのでそれを飲もうとしたが、イオリが彼の口をつけたコーヒーカップを私の口に持ってきた。
何で同じカップのコーヒー飲むの……ちょっと笑いつつそれを飲んだ。
「その前にイオリ、」オリオン様が彼を見た。「リアはいつまでここにいる?あのドラマはあと一ヶ月で終わりか。」
「その通りです。」
あ、そうか。この常夏の島にいると分かりづらいけど、気づけば冬が近づいている。この島でも、最近は長袖を羽織らないと肌寒いけど。
だからなのかな。ずっと手を繋いで、最近元気ないのは。私がバートと変なことをしたのもあるけど……。
取り敢えず、私はオリオン様に聞いた。
「名案って?」
「そうだ、名案だったな。」オリオン様がコーヒーをゴクッと飲んだ。そして変な笑みを浮かべた。「ふふっ、ここにきて、俺は思いついたんだ。シードロヴァの弱点をな!」
しかしイオリはどう言う訳か「んんん……」と唸り、「彼にあるだろうか、その種のものが……。」と弱気な発言をした。
「いいかイオリ、奴は民の支持を得て、あの地位に就いている。俺たちにとっては厄介な極悪人物だが、民から見ればただの救世主だ。だからこそ、奴が自滅する道を選ぶ。スキャンダルだ。」
「彼にあるだろうか、その種のものが……。」
「何回それを言うんだ。男ならスキャンダルのない奴はいない。特に有名で権力を持っていて頭脳明晰であれだけの容姿なら、女性問題の一つや二つ、または異常性癖、何か一つは眠っているはずだ。」
「それはイオリの方じゃ「では俺がそれを調査すればよろしいのですね!」
なんか揉み消された。オリオン様は不敵な笑みを浮かべた。なんか彼はよく笑うな、今日。
「そうだ。奴のドタマを狙うよりも、俺らが今されている様に、じわじわと苦しませたい。準備はもう整っている。奴は全然ノアズ本社の外に出ないから手下が苦労したと言っていた。しかし奴は今夜、資金の移動の関係でラズベリーと会うはずだ、ヴィノクールのホテルでな。セントラルホテルのスイートでご宿泊だ。ポン!何も起きないはずがない。」
不意打ちのポンという効果音に少し吹き出しそうになったけど、咳をして誤魔化した。
「そうなのでしょうが、」イオリは思案顔になった。「盗聴器やカメラを設置したのですか?彼は魔工学者ですから、発見機で気づかれるのでは?」
「あのホテルに俺らの仲間がいる。部屋に設置したのではなく、後から運ばれてくるんだ。そのチェックは部屋に入った直後のみ行われる。その後なら無防備だから上手くいく。いいか、絶対に盗撮してこい。だがレイヴは連れて行くな、繊細なミッションだ。」
……レイヴ可哀想に。イオリが頷いた。
「分かりました。しかし期待はしないで頂きたい。」
「ふふ、分かっている。それとバリーのことだが。」
私はオリオン様を見た。目が合った。
「リアの事情は知っている。しかし幹部同士が仲が悪いのではノアズやボードンに利用される恐れがある。現にバリーは自分の派閥を築き始めているようだ。もしやイオリも……?」
「俺は、その様なことは……。」
「そうか、それなら安心だ。済まないがバリーの派閥が力を持ったら厄介だ。その中心人物のリストを後で送るから、始末してくれ。」
「え?俺が……?」
「なら私がやる。」
私が言うと、イオリは衝撃を受けた顔で私を見て、オリオン様は微笑んだ。
「頼もしいぞリア。願わくば俺も、お前には残って欲しい。レイヴと一緒に暮らしているヤギに、俺からも頼んでみよう。」
「どうもです。」
「以上だ。」
オリオン様が立ったので、私とイオリも立ち上がって、やっぱり手を繋いでボスの部屋から立ち去ったのだった。




