76 デレラローム
ドラマが終わると、そのままゆったりパーティーのような空気になった。さっきよりも音量の大きな音楽が流れてて、お酒で心地の良い皆はそれぞれ話しては笑ってる。
私はレイヴとソファに座って話をしていて、イオリとエミリはキッチンでどうすればダークホースのサラダの味がもっと良くなるか、色んなスパイスをかけて研究してる。
ヤギさんは二人がけソファに寝転んで、たまに私たちの会話に参加してくる。
「あ!」レイヴが何かを思い出したようだった。「面白いこと教えてあげようか?イオリに関して。」
「えっ!?何何!?」
私はワクワクした。チラッとイオリをみたけど、料理に夢中で、こちらの様子には気づいてない。私はレイヴに耳を傾けた。見ればヤギさんも話を聞きたいのか耳に手を当てていたので、ちょっと笑った。
「イオリねー、」レイヴは小声で言ってくれた。「これこないだ母ちゃんから聞いたんだけど、奴ねー、医学院の時、サークルでバンドのボーカルやってたらしいよ!くっふふっあぁぁ~!まじ受けるよね!?しかもヴィジュアルっぽいの。」
……まじかよ。
そう言われてみるとイオリはそれが似合うし、声も合う。因みに私は格好から想像つく通り、ヴィジュアルバンドは好きである。私は衝撃を受けつつ、聞いた。
「えっ、えっ、なんてバンド?」
「えー何だっけ……デレラロームっていうやつ。結構人気あったぽいからミュージックポッドで聴けるよ!それから俺の趣味のラップも「えっ!?えっ!?」
私は死に物狂いでノアフォンのポッドアプリでデレラロームを検索した。するとヒットした。こ、これが医学院の時のイオリ……!
にしては、髪は金髪のウェーブで、ヴィジュアルっぽいメイクをして、黒い王子様のような格好をして、満月の下で振り向いてる、すごい姿だった。イオリのこの画像かっこいい!やばい!興奮が止まらない!
「こここここれって押せばすぐにイオリの歌声聞けるよね!?」
「あーそりゃ聞けるでしょ!ねーねー俺もレイヴで検索してよね!RAVEの綴りだから!」
「待って待って!」
「……もー!リアちゃん!」
私はノアフォンで音楽を再生しつつ、でもイオリに聞こえないような音量にしといて、耳を近づけた。
すぐにクラシックとメタルを融合させたような綺麗なイントロが流れてきた。出来ればデスボイスはしないでほしい。あーでもしたかったらしていいけども……!
そしてその時は訪れた。彼の歌声が聞こえた。あのかっこいいボイスのままの歌声で、時折ビブラートが美しかった。私の呼吸は荒くなり、胸はバクバクした。
しかも狂おしいほど愛おしいとかそんな歌詞だった。満月の下で禁断の愛が……あなたに僕を刻み込んで……どうのこうのって歌詞だった。私は足をバタバタして喜んだ。レイヴは「そんなに喜ぶ!?」って笑った。
サビに入った。高音を軽く歌えてる。普通に上手い。伸びる裏声だってとても綺麗だった。これはやばいリピート確実だった。
アーティスト情報を見ると、イオリはもう一人の作曲担当と二人でやってたみたいだった。はぁーこれはモテただろうなぁ。
「意外と上手いよねー?イオリ。」
「うん!」と笑いながら答えたのはヤギさんだった。彼も聞いてたみたいで、音楽に合わせて首を縦に振ってる。「これは僕の世界を表してるみたいで、とても気に入ったよ!」
それを聞いてレイヴが笑った。えーこれはとても興奮してしまう……レイヴ、ナイス情報をありがとう!私はアーティストのページを見た。
ありがたいことにアルバムが二つある。これは毎晩リピートさせてもらおうと思った。何この笑える程に王子様全開の世界観。二曲目が流れ始めたので、私は嬉しさに頬を染めつつ、ヘッドバンキングの真似をした。
そしたらレイヴが「あっはっは!」と笑った。するとそれでイオリが振り返った。「お、どうした?」と聞いてきたので、私はノアフォンの音量を一気にあげた。
『誰も知る由もない……ここに眠る僕の枯れた愛の花』
「うおおおおおおおおおおおお!?」
イオリは驚いた顔で、両手をこっちに伸ばして突撃してきた。レイヴが「リアちゃん逃げろー!」と叫んだ。私は咄嗟に体を消して、テレビの裏に走った。
「アリシアー!それはお前が聴くものではない!……この大馬鹿ものめがー!」
イオリはターゲットを変更をして、今度はレイヴの胸ぐらを掴んだ。レイヴは笑いながら「やめてやめて!」と叫んだ。
ああこのバラードとても素敵。気になって三曲目にして見た。すると今度はジャズっぽいセクシーな曲だった。ああこれもいい……!
「ああこれはイオリの曲だわ!」エミリが笑顔でボウルをかき混ぜながら言った。「それっぽい服を買って、隠れてイオリのライブを見に行ったのを思い出した!後でバレたけど、ふふっ!」
……あのファッション、イオリのライブを見に行った時のだったのか!私は笑った。すると気が緩んで、私の姿を出してしまった。イオリはレイヴから離れて、真っ赤な顔で私を睨んだまま、こちらにゆっくりと歩いてきた。
私はエミリに聞いた。
「イオリって女の子に人気でした?」
エミリは「うーん」と言ってから答えた。「人気だったと思うよー?ファンは女の子ばかりだし、家のポストに入りきらないほどにお手紙届いた。驚いたもの!」
まじか……こりゃ遊んでるな。私は苦笑いした。
これは嬉しいことでもあるし、微妙なことでもある。彼は普通にしてても最高にイケメンなのに、高学歴だし、めちゃくちゃ美しい歌声してる、しかもあの黒い貴公子みたいなすごい世界観……こりゃ遊んでるわ。
『揺れた心の隙間から、差し込むあなたの光……』
イオリにノアフォンを奪われて、止められた。そして彼は私のノアフォンを彼のベストのポケットに仕舞った。私は彼に両手を伸ばした。
「あーあー!」
「だめだ!お前もお前だ!俺の黒歴史を喜ぶな!」
「黒歴史じゃないから返してー!毎晩聴くんだから!」
「毎晩だと!?……ああああああ!絶対に返さない!」
イオリは真っ赤な顔で叫んだ。するとレイヴが急に立ち上がって、彼のノアフォンをこちらに向けてきた。因みに顔はキメ顔である。
彼のノアフォンからラップのリズムが流れ始めた。
『ブーンチキチキブーンブンチキ……マニマニ!……イェア!マニマニ!……アーン!』
ラップのリズムに合わせてレイヴのライムが聞こえている。何このラップ。ちょっと言い方は上手いけど、何この歌詞。
「マニマニって何……」私は笑いを漏らしつつ聞いた。因みにイオリも顔を手で覆って笑いを堪えている。
レイヴがイオリを指差しながら叫んだ。
「お前は笑う資格ねーんだからな!俺の方がいいライム持ってるんだから!リアちゃん、マニマニってのは、お金ってことだよ?」
「マニマニアーン」
「ちょっとーーーー!」
私が真似をすると、レイヴがこっちに来て私のことをポカポカ殴るフリをした。私は笑って、レイヴのポコポコを受けた。イオリもエミリもヤギさんも笑ってた。彼のも面白いからお気に入り登録しようと思った。




