69 海辺の通話
薔薇の中で私とイオリはとてもラブラブ過ごした。「んふ、イオリ。このふわふわな真っ赤な薔薇がとても似合うね」とバラを撫でながら彼に微笑んだら、「後部座席だ……。」と回答を頂いた。
いつの間にか後ろの座席に移動してた。イオリが私の体調を案じて、キスやハグでずっと過ごしていた。ゴーストだから体調なんか案じなくていいのにって思ったけど、彼の優しさは嬉しかった。
それからふわふわと意識が漂って、気がつくとイオリの膝枕で横になってた。私のブラウスのボタンは胸元まで開いたままで、イオリは窓に頭を預けて眠っていた。
私は静かに体を起こした。ブーブーと音が二重に響いている。私のノアフォンを見ると、レイヴからの着信だった。でももう一つ、イオリのベストのポケットのも鳴ってた。
それを取り出して見てみた。サラからだった。相変わらず、サラがイオリの頬にキスしてる画像のままだった。
それをそっと彼のベストのポケットに戻した。そしてどうせ車が無いって焦ってる内容だろうなと思って、レイヴの着信には出なかった。
私はそっと車のドアからすり抜けて、車のタイヤを背もたれにして、砂浜に座った。
そして思った。いつか消える私は、イオリを独り占めしていいのかと思った。ヤギさんはあまり頼れる雰囲気じゃないし、私はいつか消える可能性が高いから、それだったらバートみたいな相手で、消えるまで、割り切った付き合いの方がいいのかもしれない。
彼はイオリにとても似てる。代用できる。こんな考え酷いかもしれないけど、私はいつか消えるんだもん。
深夜になると、どうも意識が暗くなりがちである。夜だもんね、仕方ない。じっとしていると、また私のノアフォンが震えた。手に取ってみると、サラからだった。
……まじかよ。これは出ていいのだろうか。まあいいかと思って出てみた。
『イオリは?』
一発目の発言がそれですか。
「寝てるよ。」
『え?ベッドで?私今、イオリの部屋の前にいるんだけど。』
「えええ……違う。浜辺で寝てる。」
『……嘘でしょ?呑んだくれてんの?』
「いや、普通に疲れて寝てる。だってもう夜中の三時だよ。サラの方こそ、どうして私達の部屋に行ってるの?バリーと何かあったの?」
『私たちの部屋って酷くない?もうそういう関係なの?ってか正直、あんたは可哀想だと思う。撃たれたんでしょ、彼に。それなのにこの前、必死になって体を張ってイオリを守っていたのだって、すごいなって思った。』
「あ、どうも。」
『でもイオリを返して欲しい。』
……。
タイムリーな話題ですこと。自分の中のタイムリーだけど。あのお店の中でサラと楽しげに電話してたイオリが頭の中にちらついた。
『私は確かに若干イオリに甘えすぎてた。お金があるなら誰でもいいやって思った。バリーは確かにお金持ってる。勝手に欲しいもんがあったらこれで買えって、カードをくれることもあった。でもそれで買った色んなものを身につけても、着飾った姿見せても、イオリの様には褒めてくれない。寧ろそんなのよりもお前の体に興味があるって感じでがっつかれて……。』
「あーそうね、そうだと思うよ。」
『何で知ってるのに私に言わなかったの!』
知らんがな……。
『イオリだったらメイク変えただけで気づいてくれた。イオリだったら私の話を丁寧に聞いてくれた。彼は男なのに、優しく私の手を握ってくれた。歩くとき、私にペースを合わせてくれてた。それはバリーにはない。とても辛いの、この喪失感が。』
「うんそうねえ。」
『イオリだったら私の頭を撫でてくれた、彼は天体観測が趣味でしょ。私はそれを馬鹿にしてたけど、酒が趣味の小太りに比べると、かっこいいんだって理解した。イオリに小難しい話をされたことある?』
「たまに……。」
『それだって一瞬だったでしょ?相手に会話を合わせてる。私にだって合わせてくれてた。優しいよね、だから、もう一度イオリに会いたいの。』
私はぬあーっとため息をついた。ザザーンと波の音が憎たらしかった。サラに聞いた。
「そう思ったのなら、イオリに話したら?でもさっき電話で話したんじゃないの?」
『あんたのその余裕そうなそれがまじで腹立つ。でもいいや、そのうち彼はどうせこっちに戻ってくるから教えてあげるけど、今言ったことをさっきの電話で話したんだよね。イオリは私に褒められたのが嬉しかったのか、そうか?って照れてた。』
ああ。あれ照れてたんだ。私は砂を蹴った。
『でも今はアリシアが大事だって言ってた。悪いけど前ほど電話には出られないって。』
そ、そうなんだ。私は照れた。そう考えると、バートの件については悪いことをしたかも……。
『聞いてる?』
「あ、はいはい聞いてる!」
『だからね、リアから言って欲しいんだけど。サラに戻ったら?って。』
私は苦笑いをした。
「そんな私が言ったからって戻るのかな……。」
『自分の顔を鏡で見てみたら?映らないから。』
「え?ゴーストだから?」
『そう。良く分かったね。』
何それ。私はまた砂を蹴った。
『それでさ、今日はどこに行ってたの?なんかさっきは騒がしかったけど。』
「あー……レイヴとあともう一人知り合いと四人で買い物に行って、それからバーに行った。」
『へえ。買い物?彼一人で行くの好きなの知らない?』
「意外と、一人じゃなくても楽しんでたかも。」
『そうなんだ。』なんかしょんぼりした声だった。『私と暮らしてた時は気乗りしないからって全然一緒に買わなかったけど、本当は誰かと買い物するの好きなのかも。どうやってるの?あんた、買い物してる時、イオリと何を話してるの?』
「えっ!?」私は顔を引きつらせた。「いやあ分かんない。別に何も話してないけど……。」
『そんなの嘘!あんたが消えた後は私がやるんだから、教えなさいよ!』
「分かんないよ……。」
『あ、そう。まあそのうちあんたは消えるみたいだし、ゆっくりその時を待たせてもらおうかなっと。それまでバリーのお金をたくさん使うわ。あんたが稼いでた分も入ってると思うけど。ふふっ!』
「じゃあね。」
ガチャっと切った。あの女……今度会ったらゴーストの技を使ってビビらせてショック死させてやる。それかヤギさんに下界に連れて行くように頼もう。頼んだところで無理って言われるの分かってるけど。
私は体育座りで海を見つめた。この海は昔からずっとここにある。私が消えた後も、きっとこの海は有り続けるんだ。ちょっと羨ましかった。




