47 パチンコヒッター
レイヴはアクセルを思いっきり踏んで車の速度を上げた。ハイウェイを行く何台もの車を追い抜いていたが、道沿いに進み続ければ先回りされると思ったのか、途中から砂漠に突っ込んだ。
砂煙がすごいけど、この車は車輪が大きめだったので、なんとか砂の上を走っている。ガタガタに揺れる車内の中、イオリはダッシュボードの引き出しから取り出した目出し帽を被って、もう一つをレイヴに被せた。
私もポケットに入っていたそれを被って、サングラスも付けた。エミリはずっと頭を両手で押さえて体を丸めている。
「やばい!」レイヴが叫んだ。「あっちも砂漠の上を走れるバイクで追ってきてる!イオリ、撃って!」
「は!?」イオリが戸惑いの叫びをあげた。「……仕方ない、足止めになるか知らんが、やる!」
イオリは私に手を伸ばした。私はリュックからマグナムを取り出して彼に渡した。彼は窓から顔と腕を出して、後方を撃ち始めた。
バイクが四台接近してる。それらを振り撒けば、どこかでこの車を捨ててあとはアジトに帰ればいい。強盗したのがエミリだってことは顔を見られてるしバレてるけど、我々三人の個人情報はまだバレてないから、後でどうにでもなるだろうし……多分。
イオリのマグナムがダダダッと重い発射音をあげた。彼はすぐにリロードをして、また漆黒の銃弾を後方に撃っている。この車にも銃弾が飛んできていて、それが後方の窓の一部を割って、天井に着弾した。
「きゃあ!」エミリが叫ぶと、レイヴがエミリを宥めた。
「大丈夫だから母ちゃんは身をかがめていろ!くそ!兄貴まだ撒けないか!?」
「今やっている!……くっ!」
イオリは必死に撃っているけど、ノアズのバイクはそれをかわしている。じりじりと彼らが迫っている。その時だった。
ボンと車が軽く跳ねて、タイヤが何かを踏んだ気がした。そしてすぐに車がグラングランと不自然に揺れ出した。何が起きたのか分かった私はすぐに叫んだ。
「レイヴ!踏んだサボテンがタイヤをパンクさせてる!もうこの車で長距離の移動は無理だよ!どこかに隠れられない!?」
「えーーー!やっぱ踏んじゃった!?くそー!段差があったから、飛び越えられると思ったのに!」
「馬鹿!」イオリが叫んだ。「このままではまずい!……リア、お前が撃てるか?」
「私は、人間を撃てない。バイクなら撃てると思うけど、それが致命的になるなら、それだって撃てない。あ……!」
その時私の頭に、ヤギさんの言葉が過った。確かリュックに入ってるレモン飴だったら、私でもやれると……。
急いでリュックからレモン飴の瓶を取り出した。黄色い飴はパチンコ玉くらいの大きさで、これならどうにかすればバイカーのお口に飛ばせると思った。後はどう投げるかだけど……。
ダメ元でレイヴに聞いた。
「ねえ!何か小石を飛ばせるもの持ってない!?」
「ええ!?そ、そうだな……でも小石でどうすんだよ!」
「いいから!」
「うーん……あー……ダッシュボードの引き出しに、お祭りっぽいガラクタが入ってたと思う、けど……イオリとってやれ!」
「無理だ!撃ち続けていないと、奴らが隙あらば接近しようとしてくる!」
私は身を乗り出して、全身を透けさせて、シートやイオリの体を通り抜けて引き出しを開いた。レイヴが「うおおお!?」と驚きの声をあげた。
「リ、リア……俺の身体をすり抜けるな、さ、寒い……!」
イオリが震える声を出したので謝った。
「ごめんごめん!」
確かに引き出しにはお祭りムード満載のおもちゃやガラクタが入っていた。スーパーボール、ピンクのくまのシャボン玉、萎んだ状態の腕にくっつく抱っこ型のビニールの人形まで入っていた。
この車は盗んだ物だから、きっと前の持ち主のものだろう。悪い気がしたけど、今はちょっとそれどころじゃない。何かないだろうか?私は漁りまくって、車の保証書の奥にオレンジのY字型のパチンコが入っていたのを見つけた。
これだ。ナイスすぎる物があった!
私はそれを持って後部座席に戻って、瓶からレモン飴を四つ取り出して、それを握り締めつつ、一粒だけをY字パチンコにセットして、窓から身を乗り出した。
ノアズ兵のヘッドギアは、目だけが隠れているタイプだ。試しに、この発明品の威力を見てみたい気もするし、「待てー!」と叫んだ隊長らしき人物のお口めがけて、飴を飛ばした。
ライフルとは違う放物線を描いて目標からずれてしまい、焦った。しかしバイクが加速して、うまいことその人物の口に入ってくれた。
「な、なんだ!?レモン!……ウェ!飲んじまった!」
ペッペッとその人物は出そうとしてるがもう喉の奥に入ったっぽい。私は車内に戻って様子を見た。すぐにその人物はバイクから転げ落ちて、砂の中に倒れ込んだ。
仲間が駆け寄って彼の体を起こした。しかし彼はぐったりしている。私は瓶に飴を二つ戻した。後一人やれば、もう一人は追ってこないだろう。
再び窓から上半身を出して、迫るバイク二台のうち、一台のバイカーの口が開くのを待った。その時にイオリの撃った魔弾が一台のバイクの前輪に当たり、それに乗っていたバイカーがバランスを取りながら「あぶねっ!」と声をあげた。
時がきた。私は早速、彼の口目掛けて飴を飛ばした。さっきと同じようにひゅっと喉の奥に入ったようで、同じように彼はペッペッと吐き出そうとした。
車内に戻って、助手席の方に身を乗り出して、イオリのベストを引っ張った。イオリが分かったみたいで、撃つのをやめて座った。荒い呼吸で、彼の顔が少し青ざめていた。
きっと魔力を使いすぎたのだろう。魔銃の良いところは弾が無くなる心配がないことだけど、それは使用者の魔力による。使い過ぎると精神力が減る。だからイオリみたいに、干からびる。
イオリが後方を振り返って、力のない声で言った。
「奴の発明は、恐ろしい……。」
私も振り返って窓の外を見ると、さっきと同じように一人が砂にバイクごと倒れていて、もう一人が懸命に蘇生させようとしていた。
「リアちゃん、何をしたの?」レイヴの声が震えている。「毒でも飛ばしたの?ま、まあ後で聞くけどさ……兎に角、誰も追って来なくなったから今の内だ。このエリアを抜けたら車を捨てて、別の場所で違う車に乗る。こんなことがあるかなって、用意しておいたんだ。」
「そっか。」
私の声を最後に、車内は静かになった。




