38 おつかい
レイヴの言った通りに、イオリのノアフォンにも20万ブルーが入っていた。それをイオリが残念なことにサラに報告してしまった。
今我々は、トロピカルバイスの南国感溢れる商業施設に来ている。イオリはため息をつきながら、お店のマップがデカデカと表示されている掲示板とノアフォンを交互に見ている。
イオリのノアフォンに表示されているのはサラが作成したお買い物メモだった。お菓子やら洋服、コスメにバッグ、そんなの今必要か?と思える物の方が多い。
「彼女がいると大変だね。」
「……どこもそうだろう。リアは知らないだろうが、男は色々と大変なんだ。」
「男じゃなくて良かった。本当に良かった。いてっ。」
イオリに肩をどつかれた。それが面白くて笑うと、イオリも少し笑ってくれた。ちょっと楽しい。
違う違う違う、ちゃんとお買い物をしないといけない。サラのお使いメモは、実は私にも送られていて、イオリのとは内容が違う。
食べ物、飲み物、アルコール、そして下着、それから……謎の大人のおもちゃ。本当にやってくれる人だ。だってそれをイオリとあの部屋で使うのかもしれ……うーん!
私はイオリからジャンプして一歩離れた。イオリは目を丸くした。
「どうした?リア。」
「買い物を済ませよう。さくっと。そして帰ったら二人で過ごしていいよ。」
「いや、それはいけない。サラだってリアを歓迎すべきだ。リアにも買い物を頼んだりして……それはリアの稼ぎ分なのだから、別に彼女の為に使わなくてもいいと俺は思うが。」
「ああいいのいいの、私は使わないから。はは。」
稼ぎが入っていると言った時のサラの顔を思い出した。イオリの方に手を伸ばして、イオリがノアフォンを見せるつもりでサラに向けたら、彼女はノアフォンを奪って血眼で金額を確かめたのだ。
そして私を睨み、それから一瞬で微笑んで、リアちゃんにも入ってるの?と聞かれた。はいと答えた。それって多分私の分だと思うの、だってあなたはゴーストでしょ?何にお金を使うの?だって。
だったら私の分を買ってきて、だって。イオリは少し彼女を叱った。いくら何でもその言い方は聞き流せない、と強めに言ったら、サラは泣いた。
だって檻の中に居て頭がおかしくなりそうなんだもんって泣いた。絶対嘘泣きだった。絶対に檻に入る前からそういう性格だった。でもイオリはすまないと彼女の頭を撫でた。
それが愛なのである。この世の愛。それに私は巻き込まれている。それも仕方ないのである。私はイオリの人生に寄り添うしか出来ないゴーストなのだから……。
「何だ、その儚げな顔は。」
登っていく大きなエスカレーターでイオリが私を見下ろしている。私は心から労りの言葉を放った。
「いつもお疲れ様です。」
「ははっ……何に対してか知らんが、大きなお世話だ。」
「イオリって本当に心理学者なの?」
「そうだ。いつも全ての視点から物事を考えている。そしてそれこそが最大の足かせになっている。自覚はしているよ……。すまないな、リア。」
なんか途中から何言ってるのか分からなかった。まあいいや、私は段を登ってイオリを追い越した。
「いいのいいの、ティーカップが終わったら消えるから。」
徐々に平らになるエスカレーターから降りようとしたら、腕が何かに引っ掛かった。振り向くとイオリが私の腕を掴んでいた。変にどきっとした。
彼は私の腕を掴んだままエスカレーターから降りて、恥ずかしそうに人差し指で額をかいた。
「あまり……」かなり小さい声なので耳を澄ました。すると彼の声が聞こえた。「消えるとか言うな。」
「なんで?」
「……だ、だから……!まあいい、行くぞ。」
「ああぁぁ……。」
腕を掴んでいた手はするすると私の腕を伝って降りていき、すり抜けるかと思った。でも実際はすり抜ける時に手をぎゅっと握られた。
そして彼はそのまま歩いている。私も付いていく。
「何で手を繋ぐ?」
「何故いちいち疑問に思うんだ?」
「それはそうでしょ。サラが怒るよ。」
「お前はゴーストだ。俺の守護霊と手をつないで何が悪い。」
「守護霊かどうかは知らないけど、まあ確かに……。じゃあイオリは私がゴーストだから私に甘えてるの?」
ギュンといきなり彼が振り返ったのでビクッと驚いた。ピキピキと彼の眉毛が動いている。
「誰が、貴様に、甘えているだと!?」
「だって……違うの?違ったらすみませんでした。」
「違う!勘違いをするな!……もういい、先にサラが指定した物を買おう。それが終わったら、少しどこかでアイスでも食べないか?」
「でも食料は二人が優先「煩い。リアだって、食べたいだろう。あの時は、すまなかっ……。」
最後の方は全然聞こえてなかったけどイオリの気持ちは分かった。私は少し微笑んで、彼について行った。
サラの指定した物を商業施設で揃えるのは時間がかかった。全てのものを買おうとすると金額が足りないから、少しでも安いものを買う必要があった。
度々訪れるレディースの服屋で、イオリはずっとソファに座って項垂れていた。私が代わりに良さげな商品を選んで、イオリと一緒に考えて、それを購入した。
サラの趣味に合わせると、買い物袋がブラックと豹柄とヴィヴィッドなピンクのものばかりになった。ピンクの小さい紙袋には新しい可愛い下着が入っている。私のシンプルなデザインのそれとは全然違う。
「あとは……」私はノアフォンを見て確かめた。「大人のおもちゃだ。」
「はあ!?」全身紙袋だらけのイオリが叫んだ。「サラはそんなものまで頼んできたのか!?一体いつ誰が使うんだ……!?」
「それはほら、ふふっ、夜、イオリとだと思う。」
「……そうか、そうだよな。はは。檻越しにね、はは。取り敢えず、一回荷物を車に乗せよう。ダニーから車を借りてきていて良かった。こんなに大荷物になるとはな。」
そうだねと頷いて、私とイオリはせっせと駐車場へ向かった。




