114 倉庫の事務室で
車がボトボト落ちてくる地獄から脱出した我々は、人気のない近くの倉庫の事務室へと入って、そこで待機をした。そこには小さな冷蔵庫があって、中には炭酸ジュースが入っていたので、それをイオリ、レイヴ、ダニーがたらい回しに飲んだ。
私はいらないって言ったけど、イオリがくれた。しかもダニーとレイヴが見てるのに口移しで飲ませてくれた。口移しのついでに、彼は私に舌が絡むキスをくれた。顎を押さえられて、すごい激しかった。
「……もしもし?」
レイヴの一言でそれは終了した。我々は気を取り直して、その場で軽く装備を装着し直した。イオリがフォレスト大佐に通信を入れると、彼女が答えた。
『アルバレスの現在地を確認した。その場所はまだボードンFOCが支配しているから、合流するのに時間がかかる。よくそこまで突っ込めたな……。』
「敵は空を飛んでいくクイーンに気を取られていましたから。」
『本当、我らの最高指揮官は空を飛んでどこへ行ったことやら。まあそういう状況だから、我々の部隊がそちらに行くまで、その場で静かに待機していてくれ。』
「了解しました。」
ここで待ってることになった。いつまでだろう、結構長い間ここにいることになりそう。でもみんなヘトヘトみたいで、レイヴを始めに、床に寝そべり始めた。
イオリも床に寝転がったので、私は彼の隣で寝転んだ。後ろから抱きつかれた。彼の大きな手をぎゅっと抱きしめた。
レイヴと目が合った。
「あの時さ、俺のこと助けてくれたよな?飛んできた弾丸を撃ち落とすなんてさ、やっぱリアちゃんはすごいよ。」
「そうかな、ありがとう。無事で良かった。」
「……この戦いが終わったらさ、あと数日しか一緒に居られないし、思い出残したいな。例えばラップを一緒に歌うとか。」
「えー私がコーラスするの?」
「だね。」
何それ。私は少し笑った。ダニーも笑っていた。すると背後から声が聞こえた。
「……時間が無いのだから、レイヴは遠慮しろ。この戦いが終わったら、俺はアリシアと二人で引きこもるからな。その辺のアパートを借りて。」
「えー俺は?」
「引き続きトレーラーで暮らせ。」
「はあ!?なんでよ!ノアズ職員の中でトレーラー住まいがいると思ってんのかよばーか。」
「お前が歴史を作るんだ、光栄だとは思わないか?」
「…………一瞬喜んだだろ!ふざけんな!」
レイヴの発言に私とダニーが同時に笑った。そしてその時に、イオリのノアフォンがブーブー震えた。フォレスト大佐からだった。
『アルバレス、因みにイルザ様の護衛は誰だった?彼女の名前は聞いたか?』
「いえ、知りません。名前も……申し訳ない。」
『いや、そうか。どうやらその護衛が、車を撃ち落としてハロルドをやったようだ。計算してなのか、そこまでは分からんが。そうか、ならばあとでイルザ様にその者が誰なのか確認をして礼を……。あと、不思議なことがあった。』
「不思議というのは?」
『その者はノアズ内で魔術を放った。イルザ様がスナイパーで狙われていたようで、その者が救った形だ。魔術をノアズ内で放てば履歴が残る。そうだろう?』
「それは、その通りですが。」
『……しかし履歴が残らなかった。』
それを聞いたイオリがばっと体を起こした。
「ばかな!確かに魔術を?」
『ああ、カメラに映っていた。しかしどこにもそれらしい履歴がない。アンノーン属性などあり得るのか?それかもしやイルザ様が作ったロボットとか。』
「そんな、SF映画ではないのですから。」
『……まあ、そういうことだ。兎に角ハロルドは死んだ。礼をアンノーンに言いたいが、イルザ様と何処かへ消えた。二人のスポーツカーは追跡されないようにしてあるから、どこに行ったのか分からずにとても不安ではあるが、レイモンドが必ず戻ると言っているから、信じることにしよう。』
「余談ですが大佐、レイモンドが彼女の夫であることを知っていましたか?」
『……知っていたよ。FOCに捕虜として奪われた時は、背筋が凍るかと思った。まあお前には世話になったな。あれでもしレイモンドがオリオンに殺されていたら、イルザ様は悲しんだだろうから。』
「いえ。」
『ああそうだ、バリー、それからハロルドが消えたことで、ボードンFOCのトップがカタリーナになった。厄介なことだ、シードロヴァ様の妻だからな。取り敢えず捕まえることを目指すけれど。』
「そうですね、後の処遇は難しいかもしれませんが、ボードンFOCはこの戦いで消す必要がある。それがノアズの為です。」
『お前が戻ってきてくれて良かった。あと願わくば、イルザ様にもなる早で戻ってきて欲しい……ははっ、それでは。』
通信が切れた。イオリがノアフォンを消すとそれを床に置いて、また私を後ろからぎゅっと抱きしめた。
「てかさー」レイヴが私とじっと見つめたまま言った。「ラズベリーはショックかな。お父ちゃん、車にさ。」
私は答えた。
「本人に聞けば?この戦いが終わったら。」
「まあ確かにそうだよなー。俺がラズベリーを心配してどうすんのってことだしなー。てかハロルドは俺を殺そうとしたしなー。でもそれは俺があの人を殺そうとしたからだしなー。なんかもうよく分からねえ。」
「確かにすごく複雑だね。」
「うん。俺ちょっと眠いから、何かあったら起こして?」
そう言ったレイヴは、我々に背を向けて体を丸めた。よくこの状況で眠れるなと思った。すごいタフな精神してる。
私は寝返りをうった。至近距離でイオリと目が合った。
「何だ?」
「いや、別に。目が合うなと思って。」
「……相変わらず綺麗な瞳だ。俺は色彩に詳しくないからその色を調べてみたんだ。アズールブルーという名前の色らしい。」
「そうなんだ。イオリの瞳は夜空の色だよ。」
「そうか、はは。気に入ったか?」
「気に入ってる。」
彼が優しく微笑んで、私の顎に手を添えて、キスをしようとしたその時に、背後から「んんえええフッん!」と、大きめの咳払いが聞こえてきた。
振り返るとレイヴが背を向けたまま、鼻を擦っていた。もう一度イオリの方を見て、静かに、軽くキスをした。




