前編
※前編の後半部分において、DVの表記が御座いました。
注意書きを忘れており、大変申し訳御座いません。
いやね、私思うんですよ。
突然何言い出すんだって、頭のおかしい奴だと思うでしょうけど。
口に出してないからセーフです。
異世界転生ってさ、お嬢様とかお姫様に生まれ変われるモンじゃないの?って。
乙女ゲーム設定とか、小説では色んなバリエーションがあるんでしょう?
姉が持っていたので知ってるんですよ、前世のね。
色々と合わない姉でしたが本は頻繁に貸し借りする仲だったので、結構な冊数読んだと思います。
姉妹揃って食と読書は雑食だったんです。
始発駅からの電車通勤だったので、座れる上に時間はありましたから読書は好きでした。
だからね、予想外過ぎません?
騎士団の訓練中、誰かが地面に放置していた木剣に山盛りのタオルを持たされていたせいで足元が見えなくて、足を取られて頭を打って前世の記憶なんぞ思い出すとか。
大切な事なので2回言いますけど、予想外過ぎません?
私、仕事で必要な資格試験に合格したんで昇給決定してたんですよ!
何てタイミングなの!
まぁ、詳しい仕事の内容とかは思い出せないんですけどね。
姉の顔も両親も、何なら自分の名前すら。
年齢はアラサーだった気がします、20代じゃない方の。
これも小説の設定でありましたよね、異世界転生あるあるですかね。
良く分かんないですけど。
分かってもどうしようもないんですけど。
取り敢えず、今世の記憶と前世の記憶が入り混じって気持ち悪い。
グルグルしてる、そういや物理的に頭打ってたわ。
「ジョージアナ〜、大丈夫〜?」
混乱が治らないまま医務室のベッドで横になっていた私に、頭の軽そうな声を掛けたのは同期のキースでした。
お互い平民の為、家名はありません。
「痛い。とても痛いです。そして気持ち悪いです。木剣を地面に放置した馬鹿を許すつもりはありませんが、タオルが山盛りだったのに私だけに押し付けたキースも悪いのでハマス隊長にチクッて来ます。晩ご飯を1週間奢らなきゃ絶対チクッて来ますから。一昨日の飲み会で賭けに負けてたのも知っているので、訓練増やされた上で減給されて更に生活苦に陥れば良いんだ」
ベッドの近くまで来たキースから、一切視線を外さず且つ早口で言い切っておく。
私は怒っているんだぞという意思表示ですよ!
「ひぇっ!ハマス隊長だと本当に減給されちゃう!止めて〜!デザート1週間分にして!?でも、そんな痛かったの?普段はニコニコしながら気にしないでって言ってくれるのに…本当に大丈夫?」
枕元にしゃがみ込み、毛布を掴みつつ上目遣いでこちらを見上げるキースの姿はあざとい。
物言いは失礼ですが。
仕事を文句も言わず笑顔で代わってくれる、都合の良い人間扱いしてんじゃねぇぞ。
訓練前に靴紐に切れ目入れとくぞ、この野郎。
その物言いが失礼なのを差し引いても、長めでサラサラとしたブラウンの髪に綺麗な青緑色な垂れ目で優男な見た目、中身が末っ子長男なキースは女性に甘えるのが上手いのです。
だがね、前世をいきなり思い出してしまった私は八つ当たりを全力でする!
こっちも前世は末っ子だわ!
「25歳のデカい男が上目遣いしても無理です。ないです。あり得ない。良く考えなくても、私の方が23歳で年下でしたね!キースは年上だからと年下の私が率先して雑務を引き受けてましたが、今後は同期なので甘やかさない事にしました!事務仕事も代わりません!後、食堂のデザートは小さいので午後の休憩用のお菓子も1週間下さいね。それ以上譲歩はしません」
「待って!?僕が書類仕事苦手な上に、字が汚いの知ってるでしょ!?これ以上、ハマス隊長に怒られるの嫌だよ!これからも手伝ってよ〜!毎回デザート奢るから!ね?」
普段から、そんなにハマス隊長に怒られてんの?と若干哀れみの目を向けてしまいます。
いつも隊長室に行くと帰って来ない理由が、これとは。
怒られたのなら、字を綺麗にとか丁寧に書く努力をするべきではないだろうか…しないな、キースだから。
てか、何で毎回手伝って貰う気で居るんだよ…私にも業務はあるわ。
「そんなに毎回私にデザートを奢ったら、リリアンが怒るんじゃありません?昨日も、キースが最近デートしてくれないからと鬼気迫る表情で弓を引いては的を粉砕しまくって、備品係が泣いていたらしいですよ」
「わぁ…今後は賭けに参加しないって、誓約書を書いてリリに渡す!今夜渡す!リリは大好きだけど、賭けに負ける度に蜂の巣にされるかもしれない恐怖は無理!」
「いや…そこは、ちゃんとデートすれば問題ないのでは?」
リリアンとは弓騎兵の中でもトップクラスの実力を持つ猛者であり、キースの彼女さんです。
過激な性格とは裏腹に、ブラウンのフワフワとした髪を肩口で切り揃え、髪と同じ色の瞳は大きくクリクリとして大きく小柄で大変可愛らしい人です。
幼馴染みの彼女が、どうしても女騎士になるのだと王都に出て来た為にキースも一緒に騎士団へ入団したとか。
飲み会の席で言ってた気がするのですが、そこまでお酒に強くない私は覚えていません。
今世の酒は質が良くないのか、悪酔いしやすい気がします。
お酒は美味しく飲みたい。
そもそも、恋人が居た事のない人間に彼女との惚気を話すってどうなの!?
返しようがないんですけど!
無難に家へと帰る度、タンスの角に足の小指をぶつけてしまうが良い。
「今週の公休日2人は同じ日だったでしょう?植物園にでも行って来たら良いんじゃないですか?今月中は無料で開放されてるらしいですから、お金がなくても楽しめると思いますよ」
「流石、ジョージアナ!やっぱり優しいね〜!そうする!ジョージアナって見た目も悪くないのに、何で彼氏出来ないんだろうね?」
「ほぉ…やっぱりハマス隊長にさっきの出来事を詳しく話して来ましょうね。えぇ、この上なく詳細に報告してくるわ」
飛びっきりの笑顔でキースに別れを告げ、私は颯爽と彼の悲痛な叫びをBGMにして隊長室へと歩みを進めました。
一言多いんだよ、優男め。
次にリリアンに会ったら、キースは事務仕事も放り出す傾向があるとチクッてやろう。
そういえば、今月はまだ公休日がなかったので仕送りが出来ていなかった事を思い出しました。
明日は丁度公休日だし現金書留を送ろう、来月から頭の出来が良かった下の2人が村の中等学校に通える事になったので、学費分も送らないといけません!
私が騎士を目指した理由は単純明快、女でも給金が高く寮もあったからです。
男性の平均身長が175cmくらい、女性の平均が160cmないくらいな中で、私は170cmと高身長で体力も田畑を耕していたのでしっかりあり健康、初等学校を出ているので文字書き計算も最低限出来ると、試験を受ける条件は満たしていました。
王都の家賃は高いので寮生活は有難いですし、就活は騎士一択という訳です。
私の実家は王都から馬車で2日掛かる田舎にあり、平民に良くある子どもも働き手というやつで、上に5歳上の兄と3歳上の姉が1人ずつ、そして私、下は10歳離れた男女の双子の5人兄弟と人数が多かったのです。
家族で田畑を耕し、父は猟にも出ていました。
田畑の野菜は市場にも多少卸して貨幣を得ると乳製品を買ったりはしましたが、基本的には自給自足のような生活で前世の言葉を使えばスローライフというやつでしょうね。
物凄く良く言えば。
まぁ、貧乏で食うに困るという訳ではなかったですし、私も試験を受ける条件であった初等学校は卒業させて貰っている訳ですが。
両親が文字書き計算が苦手で苦労したからと、義務教育のない世界で初等学校だけでも行きなさいと言って貰えたのは有難い話しです。
兄は頭の出来が一番良かったので、村の中等学校と隣町の高等学校まで進学しました。
今は奥さんと共に実家の隣に住んで、村の役場で仕事をしています。
お義姉さんは肝っ玉母さんって感じの、話していて気持ちの良い人です。
手料理が美味い、めっちゃ美味い。
そんな貧乏でもなかった実家へ何故仕送りしているかと言えば、姉は20歳の時に村の幼馴染みと結婚し隣町に住む事になったのですが、23歳の時に相手の借金と暴力が原因で子ども2人を連れて実家へ戻って来たからなのです。
いやもう、あれ以上の驚きを私は知りませんよ。
前世を思い出した今でも、です。
弱り切った姉から話しを聞いた私と父と兄は憤怒し、相手の実家と村長一家を巻き込んで姉と幼馴染みを離婚させました。
ちゃんと相手の言い分は聞きましたし、近所の証言や暴力の証拠を集めたので、正義はこちらにあったと明言しておきましょう。
ついでに、幼馴染みには遠縁の親戚宅という名の実家よりも山奥の村へ行って貰いました。
二度と姉達には会わせん!!!
体が弱り切った姉と子ども達では直ぐに自立する事は難しく、まず姉は療養に専念し、母が子守りをする事になりました。
その分田畑からの収入は減るので、20歳だった私が騎士のような給金の高い仕事を探すのは必然でした。
まぁ、離婚をごねる幼馴染みを見てから権力に伝手があった方が何かと良いと思ったのも事実だったりするんですが。
心配させたくないので姉には内緒なのです。
姉だけは私が騎士団へ入団が決まっても申し訳なさそうにしていたので。
気にしなくて良いのに、姉はとても律儀な性格なのです。
そこも大好きですけどね。




