06
今日は先ず魔道具を買ってから北西の山に向かってみようと宿を出た。幾つかの店を覗いて値段を見たのだが、同じ物でもかなり値段の幅が有るので、決めかねてバートさんに助言を貰おうとバート商会に向かった。バート商会は食料品中心で魔導具扱ってないんだよね。
「おはよう御座います。バートさん居ますか?」
「おはよう御座います、ジンさん。会頭でしたら裏庭に居りますよ」
カウンターに座る事務員のお姉さんに礼を言って裏へと回ると、バートさんを含めた数人がメジャーのような物を使って裏庭を計っていた。
「おはよう御座います、バートさん。何をやってるんです?」
「やあ、おはよう、ジン君。ここに冷蔵倉庫を建てようと思ってね、寸法を測っているんですよ」
何でも俺が大量に狩って来るであろう獲物を見越して保存用に魔導冷蔵倉庫を建てるのだそうだ。マジか・・・責任重大だろ。
「え、え~っと・・・大丈夫なんですか?結構な大きさですけど、俺が狩って来る獲物だけで埋まるとは思えないんですけど」
「ははは、心配要りませんよ。そろそろ必要だと思っていましたし、昨日のリザードマン三匹分で倉庫は建ちますからね。それで、何か御用ですか?」
如何やら昨日言ってた「もっと渡しても良い」と言うのは本当みたいだ。
「あ~、幾つか魔道具が欲しかったんですけど、値段に結構な差が有ったんで助言を貰おうかなって」
「魔導具ですか。物にもよりますが、安過ぎても高過ぎてもダメです。西地区に有る「アルバート商会」がお勧めですね。ここに建てる倉庫もそこに頼むつもりなんですよ」
と言う訳で、西地区のアルバート商会へと向かい、ランプにライターとコンロの魔導具を買い、序に大きめの鍋とフライパンに肉や野菜等の食材も買ってから山へと向かった。持てる量を気にしなくて良くなったのは有り難いな。
因みにランプとコンロは内臓の魔力石に蓄えられた魔力を使って起動し、ライターは自分の魔力を送って着火する仕組みだ。魔力石は魔力の自然回復をするので長時間使用しなければ魔力切れを起こす事は無いのだそうだ。
そして値段が安過ぎる物や高過ぎる物は、この魔力石が粗悪品の事が多く、酷い物で数日しか持たない事が多いそうだ。アルバート商会の店員さんに「品質保証書の無い魔導具は疑った方が良いですよ」と教えて貰った。バートさんの紹介だけあって良い店だな。
西門を出て北へと向かった。途中で堀に水を引き込んでいる川に当たり、川沿いを川上に向かって進み、山の麓まで三日掛かって到着した。
途中の野営で早速魔導具を使ってみたが、ランプやコンロと違ってライターは体内の魔力の動きがはっきり解って面白いな。体の中心、鳩尾辺りから腕に、指に向かって魔力が動くのがはっきり解る。自在に魔力を動かせるようになれば魔法が使えるようになるかもと、寝るまでの間の暇な時間に訓練をして過ごした。これは日課にしよう。
ここまで狩れたのは猪一匹と兎三匹と少ない。麓周辺で狩れない様なら山に登ってみるつもりだ。
翌早朝から川を中心に周囲を散策。猪二匹に兎五匹と、いまいちな結果に終ったので、明日は山に登る事にしようと川原に戻ると五人組の男女が野営の準備をしていた。冒険者かな?革鎧に武器持ってるし。
俺が近づいて行くと五人組は武器を構えて誰何の声を掛けてきたので両手を挙げて敵意が無い事を示しながら立ち止まった。
「俺はジンって言う。まぁ、狩人だな。あんた等を如何こうしようって気は無いし、邪魔だって言うなら離れるから武器は下ろしてくれないか?」
「狩人だと?ふざけるな!武器も持たずにこんな所に一人で居る奴がまともな筈が無い!お前何者だ!ここで何をしている!」
行き成り犯罪者扱いかよ。もう如何でも良いや面倒だし。
「別に信じようが信じまいがあんたの勝手だが嘘は言ってない。それじゃ、邪魔したな」
「まてまて、何処に行くつもりだ!」
山に向かって歩き始めた俺に更に声を掛けてきた。何なんだよ。
「何処って向こうに有るのは山だろ。他の何処でもねぇよ。あんた等の邪魔はしねぇから心配すんな」
「そうじゃねぇよ!あの山はベア系の魔物が出るって知らねぇのかよ!何の装備も無しで行ける程甘くねぇんだよ!」
何だこいつ、俺の心配してんのか?案外悪い奴でもないのかな。如何でも良いけど。
「心配ならいらねぇよ。熊なら何度も倒してるから。じゃぁな」
唖然とする五人組を放置して川上へと向かい、十分離れた所で夕食にした。買って良かった、魔導コンロ最高。
夕食後は焚き火の前に座って魔力操作の訓練だ。目を閉じて体の中の魔力に集中する。
魔力を体全体に広げたり、一ヶ所に集めて圧縮して濃度?を上げたり、体表面を覆ってみたりと、色々試して就寝。手足のように思い通り動かせるようになったらバートさんに頼んで魔法を使える人でも紹介して貰おう。
更に翌日は久しぶりの登山だ。この山には熊が出るとか言ってたけど売れるのだろうか?ラノベじゃ皮や爪に肉も売れるけど、日本じゃ売れないし肉も旨くないんだよなぁ。
川原を川上へと登って行くと、御目当て?の熊が魚を捕っているのを見つけて無造作に近寄って行った。流石にリザードマンみたいに意表を突いた攻撃はしてこないだろ。
熊は俺に気が付くと後ろ足で立ち上がり、前足を高く上げて俺を威嚇してきた。う~ん普通だ。
そして前足を振り下ろしてそのまま前転して転がって来た。
「この世界の獣は基本体当たりからかよ!!」
俺は横っ飛びで熊団子を避けた。因みに兎も初撃は体当たりだったよ!
体当たりを交わされた熊は木にぶつかって止まり、こちらを向くと今度は四足で走って向かってきた。あ、上りだと転がれないんですかね?下り限定の技ですか?
横薙ぎの左前足を飛んで交わしながら前蹴りで顔面を蹴り距離を取る。立ち上がって振り下ろして来た右前足を交わしながら掴んでドラゴンスクリューの要領で捻って肘と肩を壊した。悲鳴を上げ蹲る熊の右目を抉り、振り回してきた折れた右前足を交わして懐に潜り込んで顔面に右膝を叩き込み、足を下ろさずに振り上げ顎を蹴り、更に踵を脳天に叩き込んでそのまま踏み抜いた。
転がって来たのは驚いたけど、リザードマン程の脅威は無いな。ちょっと大きい位で日本の熊と大して変わらんから余裕だなと、二日程熊狩りに勤しんで聖都に帰った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。