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商品が次から次へと売れていく。日本人の感覚ではぼったくりとしか言えないような値段だと言うのにだ。限定品だった水饅頭と蒸し羊羹にミルク餅に至っては開店三十分で完売し、他の商品も昼過ぎには予定していた売り上げ数を軽く超えて、ミリーとエレナは交代でサンドイッチを摘んでいたが、ライエルと俺は昼食を摂る事さえ出来なかった。
ハルは危機を察知してか、姿を見せなかった。あの野郎、行列を見て逃げやがったな。
夕方になると貴族関係者は殆んど居なくなって俺の手が空いてきたが、客は居るのでライエルの手伝いをして、日没と共に閉店した。まだ五十人位並んでたけど、ライエル達の体力が限界だったと言うのも有る。
「御疲れ皆。この分じゃ明日も如何なるか解らないから早いとこ寝よう」
流石に俺も疲れたので夕食は作り置きのトンカツで済ませ明日に備えて早めに寝たのだった。
「おはよう、ジン兄さん・・・・・俺夢の中でもお菓子作ってたよ・・・・・」
「あたしは、減らないお客さんの行列捌いてた・・・・・」
「あたしも~・・・・・」
「俺達も手伝った方が良いんじゃない?バートさんに休めるか聞いて来ようか?」
「ま、まぁ最初の内だけだろうから、俺達だけで頑張ろう。バートさんに迷惑掛ける訳にも行かないし、聖誕祭だっけ?それさえ超えりゃ落ち着くだろうしさ」
そんなこんなで営業二日目。心配そうな表情のヒースとニックを送り出して、客が来る前に出来るだけ商品を作って行った。これが続くなら、一日の販売数は決めた方が良いかもしれないな。でないと家事が出来ないし。
流石に初日と違って行列も門の所位までで、貴族関係の客が殆んど来なかったが、代わりにと言っていいのか商人が大勢来た。主に取引して欲しいと言った内容でだ。何処から漏れたのかしらんが、バート商会にリザードマンを卸している事を知っている奴が数人居て「是非私の商会とも~」と言われたが全て断った。
後ライエルを引き抜こうとした奴も居たが、ライエル本人がきっぱりと断っていた。「独立する事は有るかもしれないけど、ジン兄さん以外の人の下に付く気は有りませんから」と言ってくれたのが何だか嬉しかった。
営業三日目は貴族関係が二割、商人関係が五割で、残りが一般客だった。漸く落ち着いてきて、これなら明日以降は余裕が出るだろうと思っていたら、教皇とアンジェリカが大臣達を連れて来やがった。勿論護衛の近衛なんかも居る訳で、それを見た客達がいっせいに壁際に移動して跪くわ教皇が客達に「私達の事は気にせずに~」とか声を掛けたもんだから、祈りだしたり泣き出したりしてカオスになった。
「・・・申し訳有りません。初日と二日目は忙しいと思い、外して来たのですが・・・まさかこれ程とは・・・・・」
「ま、まぁ、気を使わせて悪かったな?」
自分で来るんじゃ無くてお使い頼めばよかっただろ。とも思ったが、聖誕祭の準備で暫く出歩けなくなるから、その前に息抜きがしたかったらしい。
当然立ち上がって買い始める者が居る筈も無く、仕方なく教皇様ご一行が先に買って帰って行ったのだが、普通に対応していた俺達を見て「やはりドラゴン討伐者は~」とか囁かれ、俺は更に教皇や大臣達と御近付きになりたい商人達に囲まれる事になった。
営業四日目。教皇達の襲来を聞いた商人達に囲まれたり、支部長が挨拶に来たせいで更に囲まれたりはしたが店の方は大分落ち着いた。と思ったら午後になると貴族令嬢が押し寄せてきて東屋で御茶会を始めやがった。
まぁ、当然の様に俺が呼ばれて挨拶する羽目になって、お菓子の説明とか討伐の話とかしたりで庭中を行ったり来たりしていた。
流石に近づく一般人は殆んど居なかったが、一部の貴族と御近付きになりたい商人が護衛の兵士と一悶着有って、ちょっとした騒ぎになった。まぁ「うちの庭で騒ぎを起こすなら出禁にするぞ」と脅して収めたけど。
営業五日目からは流石に客足は減ってきたが、貴族令嬢達の御茶会が増えて、やはり俺が呼ばれて挨拶回りと、俺だけがやたら忙しい一日となった。因みにこの日までハルは姿を見せなかった。如何してくれようか。
その日の夕食の時に皆に今後の事を提案してみた。
「流石に家事が滞るし、来週からは週の中日は定休日にしよう。そんで、聖誕祭の週は最終日を休みにして皆で祭りを見て回ろうか。定休日の方は様子を見て隔週にするとかも良いかな」
「え?!本当に良いの?!」
「あたし達祭りを楽しむ余裕なんて無かったから、凄く楽しみ!」
「今年の最終日は南神殿の番だから丁度良かったね」
なんでも聖誕祭の最終日には各地区の神殿が持ち回りでミサのような事をやるらしい。そして今年は南地区の番なのだそうだ。教皇とアンジェリカだけでなく、他地区神官長も南地区に集まり祝詞を唱えるのだとか。
日本じゃ祭りなんて殆んど見る事無かったし楽しみだ。そんな訳でヒースとニックも最終日は休みを貰って皆で出掛ける事にした。
そして、その日の夜。久しぶりに夢を見た。
「坊主、名前は言えるか?」
師匠―――
「ぐすっ・・・じ、じん・・・・・まきしまじん・・・・・」
これはあの時の、初めて会った時の記憶―――
「そうか・・・じん、何故泣いている?何が有ったんだ?」
「・・・・・なんだかわかんない・・・でも、くやしくて、かなしくて・・・ぼくがよわいから・・・たすけられなくて・・・・・まもれなかったんだ・・・・・」
「ふむ・・・・・まきしまじんよ、強く成りたいか?何者をも寄せ付けない、強大な力を望むか?」
そうだ、俺はあの時、確かにこう答えたんだ・・・『はい』と、そして十年間、師匠の下で―――
目を覚ますと俺は涙を流していた。
「・・・師匠・・・何で・・・何であんな・・・・・くそっ!あ~止め止め、俺らしくねぇし、終わった事だ・・・今更如何する事もできねぇ・・・・・」
過ぎた事だと気持ちを切り替え、部屋を出て調理場へ向かう。皆と挨拶をして、ライエルと朝食を作り、ヒースとニックを送り出して開店準備をした。
それからは特に問題が起こる事も無く、まぁ、多少は忙しかったが店の方も落ち着いて来た。このままなら俺が居なくても問題なく店が回せるようになるだろうと、可能な限り三人に店を任せる事にした。
そして俺は家事の傍ら新商品を考えたり、アルバートさんやライアンさんに作って貰いたい物を考えたりして聖誕祭まで過ごしたのだった。
あ、翌日ハルの野郎がしれっとやって来たので、デコピンをかました上におやつは抜きにしてやったよ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




