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勇者はだれ?  作者: 臥亜


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勇者になれなかった少年

それは、三年前の話。


まだ魔王が完全復活する前。


王都の外れの小さな村に、ひとりの少年がいた。


名は、アルヴァン。


金髪でもなければ、特別な才能もなかった。


ただ、剣が好きだった。


「俺は勇者になる」


幼いころから、そう言っていた。


村の子どもたちは笑った。


「勇者は選ばれた人だけだよ」

「お前じゃ無理だ」


それでも、アルヴァンは剣を振った。


毎日。


雨の日も。


雪の日も。


手の皮が破れても。


彼の母は笑って言った。


「勇者になれなくても、強くなれるわ」


父は無口だったが、剣を教えた。


そして、あの日。


黒い影が村を襲った。


魔族の先遣隊。


炎。


悲鳴。


血。


アルヴァンは必死に剣を握った。


震える足で立ち向かった。


だが――


弱かった。


剣は弾かれ、地面に叩きつけられる。


目の前で、父が倒れる。


母が叫ぶ。


アルヴァンは、何もできなかった。


そのとき。


空が光る。


聖騎士団が到着する。


一撃で魔族を斬り伏せる。


圧倒的な力。


隊長が言った。


「安心しろ。勇者様が現れれば、すべて終わる」


勇者。


またその言葉。


アルヴァンは血まみれで立ち上がる。


「俺が……勇者になる」


隊長は、ほんの少しだけ笑った。


「勇者は“選ばれる”者だ。努力ではない」


その言葉が、胸に刺さった。


数年後。


王都。


勇者召喚の儀。


アルヴァンは群衆の中にいた。


心臓が破れそうだった。


(選ばれろ)


(選ばれろ)


光が満ちる。


だが。


何も起きない。


勇者は現れない。


神官が告げる。


「……勇者は来ない」


絶望が広がる。


アルヴァンは拳を握る。


選ばれない。


また。


その夜。


彼の前に、黒い霧が現れた。


「勇者になりたいか」


低い声。


赤い目。


アルヴァンは剣を抜く。


「魔族……!」


霧は嗤う。


「選ばれぬ者に、選ばれる力をやろう」


アルヴァンの脳裏に浮かぶ。


炎の村。


倒れる父。


泣く母。


隊長の言葉。


“努力ではない”


霧が囁く。


「世界は不公平だ」


「選ばれた者しか救えぬ世界など、壊してしまえ」


アルヴァンの剣が震える。


「……勇者になれるのか」


「なれる」


霧は言った。


「我らの勇者にな」


沈黙。


長い沈黙。


やがて。


アルヴァンは剣を下ろした。


「条件は?」


霧が揺れる。


「王城の結界を解け」


「魔王様をこの地に降ろせ」


「世界は一度、壊れる」


アルヴァンは目を閉じる。


世界が壊れる。


でも。


この不公平な世界なら。


いっそ。


壊れた方が――。


目を開ける。


決意の目。


「……俺が勇者になる」


霧が笑う。


「契約成立だ」


黒い紋様が、アルヴァンの腕に刻まれた。


それが、今も彼の袖の下にある。


現在。


王宮の一室。


アルヴァンはひとり、窓の外を見る。


遠くに灯る王都の光。


人々の笑い声。


自分を信じる声。


「勇者様」


その言葉が、胸を締めつける。


机の上には、母からの古い手紙。


『どんな人になっても、あなたはあなたよ』


アルヴァンは拳を握る。


「俺は……勇者だ」


その声は、わずかに震えていた。


窓の外。


黒い霧が揺れる。


「迷うな、勇者よ」


アルヴァンは目を閉じる。


迷っている。


確かに。


だが、もう戻れない。


契約は結ばれた。


世界は、壊れる。

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