勇者を名乗る男
王都へ戻る途中だった。
道の先から、歓声が聞こえる。
「勇者様だ!」
「ついに現れたんだ!」
リュカたちは顔を見合わせる。
「勇者……?」
人だかりの中心に立っていたのは、若い男だった。
金色の髪。
白銀の鎧。
背には、輝く剣。
自信に満ちた笑み。
「安心しろ!」
男は高らかに言う。
「この俺、アルヴァンが魔王を倒す!」
歓声が上がる。
子どもが駆け寄る。
老人が涙を流す。
「やっと……やっと勇者様が……!」
リュカの胸がざわつく。
ノアが小声で言う。
「王宮の紋章入りの鎧だ。公式に認められている」
ガルドが鼻を鳴らす。
「ずいぶん出来すぎだな」
アルヴァンは堂々と人々に語る。
「聖剣が俺を選んだ。証拠にこの光だ」
彼の剣が淡く輝く。
確かに、光っている。
人々は完全に信じていた。
リュカは思わず前に出る。
「本当に……聖剣なんですか?」
アルヴァンは彼女を見る。
一瞬、ほんのわずかに目が細くなる。
だがすぐに微笑む。
「疑うのかい?」
優しい声。
けれど、どこか冷たい。
「神殿で抜いた。王も確認した」
周囲がざわつく。
「勇者様を疑うのか!」
「失礼だぞ!」
リュカは言葉を失う。
あの日。
あの神殿で。
自分は抜けなかった。
なのに、この人は――。
アルヴァンはリュカの前に歩み寄る。
「君も勇者になりたかったのか?」
胸に刺さる言葉。
リュカはうつむく。
「……違います」
嘘だった。
少しだけ、そう思っていた。
なれたらいいと。
アルヴァンは小さく笑う。
「安心しろ。俺が世界を救う」
そう言って去っていく。
歓声とともに。
リュカは立ち尽くす。
ノアが静かに言う。
「タイミングが良すぎる」
ガルドは腕を組む。
「匂うな」
「え?」
「本物なら、俺は文句ねぇ」
ガルドの目が鋭くなる。
「だが、本物ってのはな。あんな顔しねぇ」
その夜。
三人は宿で話し合う。
「どうする?」
ノアが問う。
「勇者が見つかったなら、私たちの旅は終わり?」
リュカは首を振る。
胸の奥がざわついている。
「……終わらない」
はっきり言えない理由。
でも。
あの剣。
あの目。
何かが違う。
そのとき。
宿の窓が突然割れる。
ガシャァン!
黒い影が飛び込む。
魔物。
だが様子がおかしい。
体が禍々しく膨張している。
目が赤く染まっている。
「王都内部に魔物!?」
ガルドが剣を抜く。
リュカは短剣を構える。
「やるよ!」
戦闘が始まる。
魔物は異様に強い。
ノアの魔法を弾き飛ばす。
ガルドの一撃を受けても倒れない。
リュカは叫ぶ。
「弱点は!?」
ノアが観察する。
「心臓部が黒く濁ってる!」
リュカは駆ける。
怖い。
でも止まれない。
飛び込み、渾身の一撃。
「――ライトニング・スラッシュ!」
刃が光る。
魔物の心臓を貫く。
一瞬、光が爆ぜる。
魔物は崩れ落ちた。
静寂。
息を切らす三人。
そのとき。
窓の外に立つ影。
アルヴァン。
彼は静かに拍手した。
「やるじゃないか」
その背後。
闇の中に、黒い霧が揺れる。
リュカは気づく。
魔物の体から、同じ霧が消えていく。
アルヴァンは微笑む。
「勇者の仕事を取らないでくれよ」
そう言って、去る。
ノアが震える声で言う。
「今の霧……魔王軍の“強化呪”だ」
ガルドが低く言う。
「王都の中で、誰が使える?」
リュカの心臓が早鐘を打つ。
勇者が現れた夜に。
王都内部で強化された魔物。
偶然?
それとも――
リュカは窓の外を見る。
遠ざかる背中。
胸の奥で何かがはっきりする。
「……あの人、本当に勇者?」
夜空に黒雲が流れる。
物語は、少しだけ暗い影を落とした。




