勇者を探しに行こう
王都はまだ煙を上げていた。
崩れた石壁。
焼け焦げた広場。
人々の不安そうな声。
勇者は現れなかった。
それだけで、世界はこんなにも脆いのか。
リュカは神殿の前に立っていた。
巨大な魔法陣は、ひび割れ、光を失っている。
「……やっぱり、何も反応しない」
ノアが静かに言う。
「理論的に考えれば当然だよ。勇者召喚は古代魔法だ。成功率は限りなく低い」
「でも、ゼロじゃないんでしょ?」
「ゼロに近い」
リュカはむっとする。
そのとき。
背後から豪快な声が響いた。
「だったら探せばいいだろうが!」
振り向くと、巨体の男が腕を組んで立っていた。
元王国騎士、ガルド。
鎧は傷だらけだが、目はまだ死んでいない。
「勇者ってのはよ、呼ぶもんじゃねぇ。現れるもんだ」
リュカはその言葉を反芻する。
「現れる……」
「どこかにいるなら、迎えに行きゃいい」
ガルドはニヤリと笑う。
「お嬢ちゃん、さっき魔物に向かってったろ」
「……うん」
「怖かったか?」
「……めちゃくちゃ」
「でも逃げなかった」
リュカは少し考えてから言う。
「逃げたら、あの子がやられちゃうと思ったから」
ガルドは豪快に笑った。
「上等だ」
ノアがため息をつく。
「まさか本気で勇者探しの旅に出るつもり?」
リュカは即答した。
「うん」
「即答!?」
「だって、待ってても来ないんでしょ?」
沈黙。
風が吹く。
王都の旗が、半分焦げたまま揺れている。
リュカは空を見上げた。
あの黒い城は、もう見えない。
でも、どこかにある。
「勇者がいるなら、見つける」
拳を握る。
「いないなら……」
そこで一瞬だけ、言葉が詰まる。
ノアがじっと見る。
ガルドが黙って待つ。
リュカは笑った。
「そのときは、私がなる」
沈黙のあと。
ノアが額を押さえる。
「理論的じゃない……でも」
小さく息を吐く。
「放っておけない」
ガルドが剣を担ぐ。
「決まりだな」
こうして三人は、王都を出た。
目的はひとつ。
勇者を探すこと。




