表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第4章 村落で繋がる怪
PR
33/54

第33話 行方不明者が帰ってきた日

その男が村に戻ってきたのは、八月の、湿気のひどい午後だった。


日差しを避けるように背中を丸めて歩くその姿を、最初に見つけたのは雑貨屋の老婆だった。

「……ユウタかい?」

彼女の震えた声に、男は笑ってうなずいたという。


その名を聞いて、村の誰もが驚いた。

ユウタは十年前、小学校の帰り道に突然いなくなった男の子だった。

大人の背丈で現れた彼は、しかし当時の面影をそのまま残していた。

何より、あの頃の服を着たままだった。


半袖のTシャツ、泥のついたスニーカー、色褪せたリュックサック。

どれも当時、捜索願に添えられていた服装そのままだった。


「ずっと……川の向こうにいた」


ユウタはそう言った。


詳しい説明はなかった。ただ、笑っていた。

懐かしそうに家々を見回し、昔のままの道を歩き、見知った顔に声をかけた。


けれど、村人たちは次第に彼を避けるようになった。


最初に異変に気づいたのは、保育園の先生だった。


「あの子、写真に写らないのよ」


ユウタの“帰還”を記録しようと撮った集合写真に、彼だけがいなかった。

代わりに、彼がいたはずの位置には、黒ずんだ影のようなものがぼんやりと浮かんでいた。


他にもあった。

・名前を呼んでも振り向かない

・鏡に映らない

・リュックの中身が、どれも十年前のまま腐らず残っている

・彼が触った畑だけ、植物が育たなくなった


村人たちは次第に口を閉ざし、誰もユウタに近づこうとしなくなった。


それから一週間後の夜。

村の若者の一人が、飲み会の席でこんなことを言った。


「アイツ……本当にユウタだったか? もしかして、誰かと“入れ替わって”んじゃねえか?」


その翌朝、彼は姿を消した。


次の日には、村の別の男が「ユウタと話をした」と言って失踪。

三日目には、役場の職員。

四日目には、昔ユウタと同級生だった女の子。


気づけば、毎日ひとりずつ、村の誰かがいなくなっていた。


そしてそのたびに、ユウタは村の中を歩き、誰かの名前を呼んでいた。

柔らかい声で、懐かしそうに。

まるで、約束でもしていたかのように。


十日後、ユウタの姿も消えた。


代わりに戻ってきたのは、最初に消えた若者だった。

だが彼の顔は、ユウタそっくりに変わっていた。


「……川の向こう、懐かしかったよ」


彼はそう呟きながら、村の中心に立っていた。


今、村の帳簿には、「ユウタ」という名前が十人分記されている。


けれど、どのユウタが“本物”だったのか――誰ももう、わからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ