森の中のBluetooth
Sはアウトドアガジェットが好きだった。
ヘッドライト、防水スピーカー、スマートウォッチ、緊急用の衛星端末。山に行くたび、さまざまな機器を試してはレビューを投稿していた。
その日もSは、スマホとBluetoothで接続された心拍計を装着し、静かな山中を歩いていた。
標高はそれほどでもないが、谷が深く、電波は入らない。
聞こえるのは風と小鳥の声だけ――のはずだった。
「Bluetoothペアリング中……」
突然、スマホの画面に表示が出た。
登録済みの機器ではない。完全に初めて見る名前だった。
デバイス名:『tasukete_01』
信号強度:強
通信先:不明
驚きつつも、Sは「接続」を押した。
するとスマホにファイル転送の通知が出た。
“1件の音声メッセージを受信しています”
イヤホンを接続して再生すると、耳に飛び込んできたのは、ひどく乱れた音声だった。
《た……けて……おねがい……ここ……どこ……》
《山の……中……誰か……きこえ……ますか……》
Sは顔を上げ、周囲を見渡した。誰もいない。声は10代後半くらいの少女に聞こえた。
送信元の位置を確認しようとしたが、GPSは使えず、Bluetoothの信号もすぐに消えた。
その直後――
「Bluetoothペアリング中:『tasukete_02』」
今度は別のデバイス名。ファイルがまた届く。
音声は先ほどと同じ少女の声だったが、よりはっきりしていた。
《いま、うしろに……あなたが立ってる……ね?》
ぞっとして振り向くと、そこには誰もいない。
ただし、スマートウォッチが異常に心拍を検知し、バイブレーションが止まらなかった。
慌てて下山し、山を離れるとBluetoothの通知はぴたりと止まった。
だが、自宅に戻ったSのスマホには、登録した覚えのないデバイスが“接続済み一覧”に残っていた。
デバイス名:『tasukete_03』
通信中:はい
最終接続場所:現在地(自宅)




