探し物の記憶ですか!?
遅くなりました。
記憶喪失のフリもだいぶ板についてきた。
一番のメリットといえば、僕を良く思ってない人達を気にする必要がないこと。
大原さんを助けて多少はイメージアップに繋がったけど、それはほんの一部に過ぎない。
「なんで被害者のキロ坊が悪者扱いされなきゃいけねーんだよ?」
「仕方ないよ。見栄えのいい美少女2人と平凡なボッチ、どっちの言い分を聞くか結果は目に見えてるから」
「チッ!ふざけやがって」
僕のことでここまで怒ってくれるだけで充分だ。
「にしてもよー?やっぱキロ坊の遺伝子はすげーな」
い、遺伝子?
大原さんは医学的な分野に興味でもあるのか?
「だってよー、幼い顔してサラッと女性がドキッとすることを平然と言うからな。やっぱりメモリー先生の血統を受け継いでるよ。うん」
「大原さんこそ父さんのこと好きすぎでしょ?」
子供の僕より尊敬してるんじゃないか?
尊敬より崇拝に近いか。
「ああ、あれは神だな」
……この人洗脳されてないか心配になってきた。
* * *
「見つかんねーのかよ!」
「う、うん。でもわたし預かってない気が……」
「ああ?俺達が無くしたって言いたいのか?人のせいにしやがって。ほんと使えねーマネージャーだぜ。先輩に怒られるのは俺達なんだぞ!」
「ご、ごめん……」
男子バスケ部員数人とマネージャーの蛯原さんがなにやら揉めている。
「他のマネージャーに渡したとか……星野さんとか」
「今度は俺の彼女に責任を押しつける気かー?俺は昼休みにたしかにお前へ渡した筈だ!」
「なんだありゃ?」
「男子バスケ部の部室の鍵が無くなったみたい」
「地味子がどうせ無くしたんだろ」
地味子って蛯原さんのことか?
クラスメイト数人も犯人は蛯原さんだと言い出す始末。
するとそこへ走ってやって来た1人の女性生徒。
たしかあれはもう1人のマネージャー星野さんだ。
「ねー見つかった?早くしないと先輩達が部室に来ちゃうよ」
焦った素振りを見せ……ん?
いま……
星野さんの口角が上がるのを記憶した。
「どうするの?蛯原のせいで練習出来ないじゃん」
「いつもいつもドジふみやがって正直迷惑なんだけど?そもそもなんでお前なんかがマネージャーやってるんだよ」
「役立たずは辞めちまえよ」
……最初から仕組まれていたのか。
僕には関係ない話だけど……ああ、もう!
僕は急いで完全記憶能力で保存された記憶を呼びさます。
もちろん場面は昼休みだ。
だいぶこの能力にも慣れてきたから余裕だな。
「ちょっといい?」
「なんだお前?関係ないやつは引っ込んでろ」
「いや、それが関係あるんだよ。さっき君は昼休みに鍵を渡したって言ってたよね?」
「そうだよ。それがなんだよ?」
「あり得ないんだよそんなこと」
「あり得なくねーだろ!」
普通の人ならすんなり諦めただろう。
でも僕には完全記憶能力があるんだ。
「お昼休みが始まる前に蛯原さんは実験道具を返すため化学室に行っていた」
「戻ってきてから渡したんだよ!」
「それはない。君たちバスケ部員達が出ていった後に彼女が迎えにきてたじゃないか」
そう、彼らはすぐに食堂へ行った。
しかもご丁寧に彼女へ鍵を渡していた場面まで記憶に残ってる。
「星野さんに鍵を渡してる場面を目撃したよ(記憶でね)」
「……ああ思い出した。わたしが職員室へ返したんだった」
白々しく語る星野さんの顔はとても醜くて記憶したくない。
「あるなら早く行かないとな」
「先輩にどやされるぞ急ぐぞ」
マネージャーに引き続き猿芝居を続ける男子部員達。
僕は我慢出来ずに声を上げる。
「おい、それは……」
「ざっけんなてめーら!人を疑っておいて謝りもしねーなんてうちは許さねーぞ!」
「あ、あんたも関係ない…」
「関係あるかどうかじゃねーんだよ!悪いことを見て見過ごせるわけねーだろが!」
僕がキレる前に……大原さんがキレた。
不良少女と噂の彼女がここまでキレれば、男子バスケ部員といえど何も言い返せなくなっていた。
「あやまれ。ちゃんと彼女に……あやまれ!!!」
大原さん……どうしたんだ?
教室内は氷河期と思うくらい空気が冷えきっていた。
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