雪の地の傭兵の労働基準
最初に大ノームと出会った部屋にて、小屋にあった書物を開きました。
ふむ……何が書いてあるか、ところどころ読めません。
「この部分は神……と書いてあると思うのですが、しかし個々の文法は……光でもありますね。うーん」
「鉱石精霊殿ー。まさか、『あれほどの被害』を出して、成果が少しとは言わないんじぇ?」
「あははー、これはいわゆる『つらら石』のごとく。時間をかけて答えを導き、その先に得られる力は膨大なのですよ」
「難しい言葉を言っても説得力に欠けるんじぇ。少なくてもそちらの『悪魔の娘』に関しては枯渇している魔力を極力吸わないで欲しいんじぇ」
「えっと、その、フーリエさん?」
「仕方が無いじゃないですか! 夜の森って怖いんですよ! お化けが出たらどうするんですぎゃあああ! 何か木の上に居ます! あれはお化けです!」
あー。ボクから魔力がグングン吸われています。
現在フーリエ(本物)は草の地に帰っている途中です。ボクの目の前にはドッペルゲンガーのフーリエがいます。
記憶が共有されているので、本物が森の中を歩いている場合、こっちにいるフーリエにも感覚が伝わるのです。
「夜に小さな女の子を一人森を歩かせる。ゴルドって意外と酷いわね」
「仕方ないです。フーリエは昼間、傭兵として仕事をしている以上夜しか自由時間は無いのですから」
「傭兵って、ずっと働いているの?」
「いえ、五日活動したら、二日休みが認められています」
「……それを先に言いましょう?」
知っていたら休日に呼びますよ。
「でも、休日でも盗賊は来るので、実質休みが無いのでぎゃあああ!」
だからその声が凄く驚くのですよ。とりあえず頭を撫でて落ち着かせます。
多分また暗闇に何か動いたのでしょう。
「うう……ん? はっ!」
何やら怪しい動きをしています。どうしたのでしょう。
「……フーリエ?」
「今、ワタチ……本物のワタチは『認識阻害』を使って身を隠しました」
「なぜ?」
「……ワタチの見間違いでなければですが、今このノームの集落に、あの人が向かってます!」
フーリエが額に汗を垂らして、答えました。
「レイジ様……いえ、レイジがここへ向かってます!」
「レイジが? 何故!」
「わかりません! ですが、沢山の人を連れてここへ向かっています。本物のワタチは急いでエルフの集落に戻るとして、ここも警戒した方が良いです!」
何やら嫌な予感というやつですね。レイジは以前倒そうとして逃げられてしまった人です。
魔術書『ネクロノミコン』を完全に暗記しているので、敵に回すと厄介なのです。
「大ノーム、ここに悪魔的存在がやってくるそうです。警戒した方が良いですよ」
「んぼ。悪魔的存在ということは悪魔ではないんじぇ。だったら心配いらないんじぇ」
「油断しないでください! 彼は……」
その時でした。
ばああああん! と大きな音が天井から鳴り響き、普段は地上の風景が見えない地底に星の光が降り注いでいます。
「んじぇ! な、何事んぼ!」
「禍々しい光……見続けるのも嫌ね」
黒く輝く球体が、天井からゆっくりと降りてきます。フーリエの報告が無ければ、完全に先手を取られていたでしょう。
「ふふふ、お久しぶりですね。『姫』」
黒い服をまとった男。レイジがそこに立っていました。
「のこのこと逃げた割に、態度が大きいわね」
「あれは貴方たちの力量を見ただけです。とはいえ予想外でした。まさか私……ワタシ? ワタクシ? ええい、ワタクシに『心情偽装』を使って自爆させるとは思いませんでした」
レイジは先日の戦闘でマリーから『心情偽装』を使われ、体内を炸裂する魔術を使われました。
神術の『心情偽装』は自分の心を偽装する他、相手の心も捻じ曲げる精神攻撃にもなります。
影響が大きかったのか、一人称がマリーと同じになったのはその名残でしょうか。
「一度敗れた相手に、もう一度挑むつもり? 止めておいた方が良いと思うけどね?」
「ワタクシがそんな負ける戦いをわざわざ仕掛けると?」
レイジの後ろには人間が数人います。また何かやったのでしょう……ん? 一人だけ背の高い人がいますが……あれは!
「誰が来ようと関係は……うそ、なんでそこに……」
ボクも驚きました。
まさか貴方ほどの人がレイジの後ろに立つとは思いませんでしたから。
「し、師匠!」
レイジの後ろにはシャルドネの師匠のテツヤがいました。
マリーと同じく別の世界から来たというテツヤですが、大変な生活を強いられながらも今はセイラという人生の相方を見つけたはずです。どうして。
「簡単ですよ? 寝ているところに悪魔と契約させれば、人間の一人や二人、簡単です。あ、近くに居たエルフには逃げられましたが」
「くっ! レイジいいい!」
シャルドネが勢いだけでレイジに突っ込みました。気持ちはわかります。
ぱあああああん!
拳が何かにぶつかる音。それが反響して『音叉』にも響きました。
「……なん、で!」
「悪い、シャルドネ。今はもうお前に何かをしてあげたいとか、助けてやりたいとか思わない」
そして、テツヤの目が赤く光りました。
「ただ、お前をこの場で消し去りたいと思っている」
ゾッと響く声にボクは圧倒されました。なんですかこの圧は!
「さあ、その書物を渡すのですよ! それはもともとワタクシのものですよ!」
神術の書物がレイジの物ですか? しかしこれは。
「ん? 神術の書物? なんのことかわかりませんが、ワタクシの言っているのは魔術書ですよ? ですが、何やら面白そうな本を手に入れたそうですね!」
「ゴルド様! 何情報を漏らしているのですか!」
「レイジが『心情読破』を使うから悪いのです! それよりもこの本は渡しませんよ!」
神術の書物をカバンに入れ、体制を整えます。レイジ、テツヤ、そして見ず知らずの人間が五人ですか。
「シャルドネ! テツヤの相手はボクがします!」
「何馬鹿な事をいているのかしら」
え、だって、絶対に今のシャルドネには勝てないと思うのですが。
「ゴルド、私に『しんじょうぎそう』をかけて頂戴」




