神カンパネ
フーリエとの勝負は負けが決まっていたのです。
今のフーリエはドッペルゲンガーで、言い換えれば悪魔です。聖術を使えば勝てますが消滅してしまいます。
精霊術は相性が悪いので使っても効果が薄いです。
魔術や神術は発動が遅いので間に合いません。これに関してはボクが苦手というだけですが。
と言うことで、抵抗できず攻撃を受けるしかありませんでした。
とりあえず何が起こっても対処が行える様にシャルドネを避難させました。どうやら正解だったそうですね。
「悪夢を見せる闇の魔術ですか。精霊が夢を見るなんて不思議ですね」
そういえばエルフは夢を見るのでしょうか。神々が住む世界の精霊や神達は基本的に寝ないので、『夢』は知識でしか知りません。
これが夢だというなら、なかなか不思議な感覚ですね。
周囲は真っ白。
何も無い空間にボクが立っています。
そして、後ろに気配。
「……できれば怖い系の仕掛けは遠慮したいのですが」
「安心してください。そういうのは全部僕が消しました」
「……名前を聞いても?」
振り返るとそこに一人、人間が立っていました。いや、人間の姿をした何かでしょうか。
霧がかかっている感じ……もしくはボクの目の調子が悪いのか、よく見えません。
「こんにちは。鉱石の精霊」
「ボクの事を知っているのですか?」
「ええ、ずっと『カミノセカイ』から見ていましたから。僕は『カンパネ』です。名前くらいは聞いたことがあるのでは?」
声だけははっきりと聞こえます。カンパネって確かこの世界の神的存在ですよね。
「まさかこの世界の神に会うとは思わなかったですよ」
「本当は早めに会いたかったんですよ。会う手段が限られていて、簡単な方法が夢の中でした。でも精霊って基本的に寝ないので」
「そうですね。それで何故会いたかったのですか? わざわざフーリエに憑依して」
途中からフーリエがやたら魔力を吸ったり、やたら好戦的だったりと、様子は変でした。
決め手は『治癒術』です。悪魔が治癒術なんて少し変です。
最初はフーリエだからかと思いましたが、『治癒術』を使い始めてから疑い続けていました。
だからこそ、シャルドネを吹っ飛ばしました。怪我をしていないと良いのですが。
「君ならあの狂った女神様を何とかできると思ってね。そのご挨拶さ」
「それだけですか?」
「それだけです」
……え、本当にそれだけなんですか!
「そう。本当にそれだけです」
「し、『心情読破』を使わないでください」
「使いますよ。だって僕は神的存在ですから」
「ではせめて、神と言うならボクの親である鉱石の神の生存状態か、今後についての助言が欲しいですね」
「わかりました。では次に会う土の精霊について教えます」
本命は前者でした。鉱石の神が存命なら安心できたのですが。
「土の精霊と鉱石の精霊は、親戚のような存在。鉱石の神アルカンケイムが土の精霊を生み出したのは相当昔ですね。僕がお願いしたのです」
「お願いですか?」
つまり、カンパネと鉱石の神は知り合いですか?
それに、この世界にボクの神が生み出した精霊が?
「そうです。神術についての書物は土の精霊に預けていますので読んでください。それが今できる最大の助言です」
「そうですか。ノームに会って最初に何をするか、はっきりしたので良かったです」
「良かった。では僕はもう『カミノセカイ』に帰りますね。あの狂った女神様を怒らせると大変なので」
もともと見えにくい姿が、更に薄くなり消えました。
「……はあ、もう少し素顔を見せても良かったと思うのですが。というか怒らせるとって、どういう意味でしょうか」
煮え切らないまま、ボクは目を覚ましました。
☆
目を覚ますと、泣いたフーリエと心配そうに眺めているシャルドネが立っていました。
「やっと起きたわね」
「よ、よがっだでず!」
「ただいまです」
いや、あれはフーリエが『ぺち』悪いわけでは『ぺち』ないのですが『ぺち』とりあえず『ぺち』……この、さっきからボクの顔にぶつかる木の板はなんですか?
「今後、フーリエには教育が必要だと思うの。それで、第一弾としてこの木の板を首から下げてもらうことにしたわ」
木の看板にはこう書かれてました。
『ワタチ、フーリエは、尊敬するゴルド様に対し、多大なご迷惑をおかけしました』
何の羞恥ですかこれは。てい。
「ああ! 頑張って二人で考えて作ったのに!」
「思ったより心配して無さそうですねえ! フーリエのさっきの涙は嘘ですか!」
「うぞじゃありまぜん! わあああ!」
まったく、この二人は。
これが楽しいっていう感情なのですかね。
内心ようやくカンパネさんを出せたと思いました。補足としてカンパネは『女神』と言ってたり、『カミノセカイ』と言っていますが、ゴルドの『頂点の神』と『神々が住む世界』と同じで言葉が違うだけです。分けている理由もあるのですが、それを組み込むと説明だらけの物語になるので、切り取ってます。




