[手合わせ] 冒険者シャルドネ 対 エルフエヴァ……
「では、この石が地に落ちた瞬間開始とする」
エルヴィンが中央に立ち石を持ちました。手合せを行うのはシャルドネとエヴァです。
「では!」
そう言って、エルヴィンは石を上に投げました。
同時にボクは、フーリエに言いました。
「フーリエ、耳を塞いでください」
「え、どうしてですか?」
「ここからは子供が見てはいけません」
「へ? わかりました」
耳をギュッと両手で塞ぎ、ボクはフーリエの目に手を被せました。
ポトッと石が落ちた瞬間、今までに聞いたことの無い音と悲鳴に、立会人達は何を思ったでしょう。想像ができませんね。
「では行きま『ボコッ』っが!、やりま『バン』すがあ! ま『ダンッ』ってく『ベシ』だっは、ちょ『ダダダ』っとが『ダダダダダダダ』ギャー!『パーーーン!』」
エルフの集落では後にこう文書に残されました。
ガランの血を受け継ぐ者に、求婚を申し込むなら相当な覚悟を……と。
「今日のシャルドネはいつもより強く感じました」
☆
今までで一番短い手合せでしたねー。いやー、本当に……。
……治癒術ってかなり魔力を使うので、大変なのですよ?
そう思いながら、ボクはボロボロのエヴァの治療を行ってました。さすがに致命傷を避けた攻撃でしたが、それでも重症ですよ。少しは手加減をしてほしいです。
「す、すまない。ゴルド殿」
「声を出さないでくださいね。今左足の治療をしているので」
「もう一つ言うと、話を聞いてくれますか?」
「なんですか……」
無駄に美声なので、なぜかイラつきを感じつつも、相手は負傷者です。別に危険人物ではないですし、話だけなら聞いても良いでしょう。
「ゴルド殿は、死について考えたことはありますか?」
「死ですか?」
消滅くらいは一回考えたことはありますが、どうしてそれを?
「私はいつ訪れるかわからない『死』というものに、少し焦りを覚えたのかもしれない。シャルドネ殿には悪い事をしました」
エルフが死について考えるなんて随分遠い未来の話だと思いますが。
「というか、どうしてシャルドネなんですか。エルフの集落には美しい女性はいるでしょう」
ボクに美的感情は無いので、今の言葉はお世辞です。
「はは、そうだな。いや、そうだったな」
「……誰か好みのエルフがいたのですか?」
「ああ、幼馴染がな」
「もしかして亡くなったのですか?」
「いや、今は元気さ」
今は。その言葉に少し違和感を感じます。
「ゴルド殿は、セイラ殿を知っていますか?」
「……ま、まさか」
セイラはまだ生まれてもいないのに殺されたシャルドネを蘇生魔術で生き返らせ、代わりに自分へ避けられない死の呪いが付与されました。
「私は……幼馴染と同じ生活が送れなくなりました。あのガランの襲撃によって」
「それは……」
ボクは反射的に『心情読破』を使ってしまいました。
襲い掛かるガランとレイジ。
多くのエルフが苦しみ、命を落としました。
そして、その中には幼馴染と思える人物も含まれていました。
その子に向かって、エヴァは……。
「はは、ゴルド殿も性格が悪い。心を読むなんて」
「すみません……ですが」
「私は正直、今日の手合せで命を絶つつもりでした。それくらいの覚悟で挑んだ手合せでした。あの人間最強の娘なら、この命を絶てるはずだと思いました。しかし、今日絶てなかったということは……」
「それよりも恐ろしい恐怖が待っているということです」
フーリエの声が横から聞こえてきました。
タオルを持ってトコトコと歩いてくるフーリエは、悲しげの表情をしています。
「蘇生魔術の欠点はその呪いにあります。例え今ここでゴルド様がエヴァ様をダガーで刺しても、死ぬことはありません」
「どういうことですか?」
「呪いを受けた人が一生で一番の苦痛を浴び、死ぬことが約束された呪いです。なので、今ここで『ダガーごとき』で死ぬことは絶対にありません」
フーリエが強い口調でエヴァに言い放ちました。
「そういう運命の同族が居る事は知っていた。だが、それ以上に今ここで大切な人を失いたくは無かったのです」
感情が比較的人間に近い精霊エルフ。やはりボクには理解できない部分が多いです。ですが、少なくともこのエヴァは思った以上に悪い人では無いそうですね。
「……はあ、おまけで探してあげます」
「何をですか?」
「ボクはこの世の全てを支配する神を倒すため、その方法を探しています。もしその呪いを消す方法が見つかったら教えてあげます」
精霊が闇の魔術について調べるなんて、本来ありえない状況です。ですが、もしそう言った書物があったら教える程度の事はしますよ。
「ありがとう。ゴルド殿」
「その無駄な美声は気に入りませんがね!」
その光景に、フーリエは微笑みました。
あ、ちなみにシャルドネ本人は超機嫌が悪く、エルヴィン家でエルヴィンが超機嫌取りを行っていました。




