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錬金術師ゴルド達 対 人類最強ガラン

「な……一体何をしたのよレイジ!」


 シャルドネは叫びました。

 これほど感情的なシャルドネは初めてです。


 シャルドネの目の前に立つ大男は、先ほどまで殺気を放っていました。しかし今はその殺気が無く、ただの綺麗な目をした男性です。


「ふふふ、簡単なことです。『姫』が死んでから今日までの記憶を消したのです。こう……『右手をぱっちん』するだけですけどね」


 右手をぱっちん。似たような言葉をどこかで聞いた気がします。どこでしたっけ……。


「ありえない。そんな簡単な動作で『記憶を消す』なんて!」


 消す……そうです! あの頂点の神が似た言葉を言っていました!

 確か右手から何かを出せば、存在すべてを消すとかなんとか。つまりそれと似たことをあのレイジはできるのですか!


「それが本当なら……ガラン……貴方は……」


 まるで力が抜けたかのように、ボトッと鉱石のグローブが地に落ちました。

 そしてシャルドネは動揺しているのか、足が少し震えています。


「あ、ああ『シャルドネ』。お前、大きくなったな」

「ガラン……」

「途中までの記憶が無いが、俺は一体……おい、その腰のダガーは何だ?」

「え、こ、これは」

「危ない! 女の子がそんなものを持ってはいけない! 早く父さんに渡すんだ!」

「え、ああ」


 そう言って、腰のダガーを半ば強引に奪われました。今のシャルドネは抵抗ができないただの人形と同じです。


「おい、シャルドネ、そんな傷だらけでどうした! 誰にやられた! まさか俺……なのか?」

「それは……」

「そうか、俺なのか、ちょっと背中を見せてみろ」


 そしてガランはシャルドネの背中に回り込みました。怪我を見るため……表向きはそう見えます。

 そして、ここでボクは気が付き、大声で叫びました。



「シャルドネ! 貴女が死んだと思われる時は、まだ母親のお腹の中です! シャルドネの姿なんて見たことありませんよ!」

「なっ!」



「少し考えればわかることだろ……やはり人間は馬鹿だよな」



 ザクッ!


 ダガーが体に刺さる音が聞こえました。


「あ、ああ」

「お前たちには少し前に借りがあるからな。お返ししないと失礼だろ?」

「借りですか?」

「ああ、ちょっと前に憑依した肉体は悪魔の抵抗が強すぎた所為でロクに喋れなかったが、今回は簡単だったぜ。だって精神が崩壊していたからな!」


「くっ!」


 ガラン……と言うより、ガランに憑依した悪魔が憎いです。そしてレイジが憎いです。


「シャルドネ! 無事ですか!」


 シャルドネの足元には血だまりが出来ています。あの量は危険です!



「……え、どうしてダガーが宙に浮いているんですか?」



 シャルドネに刺さった『と思っていた』ダガーは、ボクが見る限り宙に浮いていました。

 そこから血があふれ出てきています。一体何が。


「ようやく悪魔が表面に出てきましたね。ここからは『ワタチ』の専門分野です」


 そして、徐々に霧が晴れるようにフーリエが姿を見せました。

 腹部にはダガーが刺さっていて、ガランはシャルドネではなくフーリエにダガーを刺していたのです。


「ふ、フーリエ!」

「大丈夫です。シャルドネ様。これも計算内です」


 と言いつつも辛そうな声を出すフーリエ。一体何が計算内なのですか!


「時に闇の魔術は大量の血液が必要になります。しかしそれを自分で出す事はとても怖いし痛いです。ですが……」


 一拍、無音の時間の後言いました。


「刺されるならワタチの意思は関係ありませんからね」


 言った瞬間、フーリエの地面から黒い陣が描かれまれました。あれは完全に悪魔召喚の陣。これは絶対触りたくありません。


「錬金術師さん! フーリエの様子が危ないわ!」

「知ってます! 早く止血を!」

「そうじゃないの! 『心情読破』で心が読めない!」

「それって……」


 自分の意思は関係ない。


 つまり、フーリエは。


 自分の精神を壊してまで、あの闇の魔術を使ったということですか!


「何をバカな事をやっているんですか! フーリエ!」

「ゴルド様、大丈夫です。一時的な物なので……それよりも絶対に近寄らないでください。これがワタチにとって全力の闇の魔術ですから! 『深海の邪神』!」


 陣からは大きな触手が八本出てきました。まるで海の底に住む怪物の触手です。

 フーリエとシャルドネを中心に八本がうねる触手は、地面を叩き、叩かれた地面は大きなくぼみが生まれます。


「は、はは、俺よりも高位な悪魔か? バカな、俺は最強の人間に憑依した悪魔だ。こんな奴に負けるわけがない!」


 ガラン……いえ、ガランに憑依した悪魔は触手に向かって大剣を振りました。しかしその攻撃はまるで歯が立たず、はじかれてます。


「なあ! くう! この!」


 一本が攻撃して、それを防ぐも後ろから一本が攻撃。その様な攻撃が続き、ついにガランに憑依した悪魔は大剣から手を離してしまいました。


「まずい! はっがあああ!」


 強く触手に殴られ、壁に突っ込むガラン。それをただ茫然と見るしかボク達はできません。


「つ、強い……」

「はあ、はあ」

「ふ、フーリエ!」

「だ、大丈夫です。まだ、意識は、保ててます」


 顔が明らかに青いです。そして足元は……血だまりが無くなっている?


「当然よ! あのタコ……触手の悪魔にフーリエの血を持っていかれたのよ! 早く治癒術を使わないと死ぬわ!」

「治癒術なんて使わせませんよ!」


 レイジが起き上がって先程ガランが落とした大剣をつかみ取り、シャルドネの方へ向かっていきました。

 まずいです、触手の動きも鈍く、シャルドネも動揺しています。


「は、早く移動する方法はっ!」


 風を使った魔術。しかし今魔術を唱えるには時間がかかります。鉱石の精霊術で『風爪』の様な術があれば間に合いますが、あれは森の精霊の精霊術です。ボクが使えるわけではありません!


「いいえ、使えるわよ! 触れなさい!」


 マリーが『ネクロノミコン』をボクに見せて来ました。


「……マリーの『心情読破』に感謝です。『風爪』!」


 魔術書『ネクロノミコン』は黒い光を放ち、ボクに何かが流れ込んできました。恐らく魔力です。

 そしてボクの足元には緑色の陣が描かれ、風が生成されます。


 ボウッ!


 まるで押し出されるように下から吹く風に乗って、ボクはレイジの方へ飛びました。

 これが森の精霊の精霊術なのですね、思ったより複雑では無いことに感謝です。


「なっ! バカな!」

「せめてその場で寝てください!」


 普段はシャルドネに装備させる金色のグローブを、ボクの右手に生成し、風の勢いだけを使って、レイジの顔を殴りました。


「ぶっあああ!」


 吹っ飛んだ勢いもあり何度も地面に叩きつけられて、そのまま奥の壁に突っ込みました。

 なかなかの手ごたえに少しすっきりです。


「でも、グローブを付けてても、殴ると痛いですね。それと……この悪魔は頭痛と口内炎ですか」


 黒い陣に触れたボクに強烈な頭痛と口内炎が襲ってきました。これはもう、そういうものだと諦めるしかないですね。


「ゴルド……」

「シャルドネ、心をしっかり持ってください! 悪魔に惑わされてはいけません!」

「でも、ガランは……」


 確かに、ガランはシャルドネを失った事で心を失い、そして悪魔が取りつき今のようになってしまいました。その前まではとても優しい男性だったかもしれません。


 ですが。


「悪魔が憑依した時点で、ガランは死んでます! あれはもうガランではありません!」


「なかなか良い事を言うじゃねえか。小僧。その通りだ。俺はガランの体を喰った悪魔だ!」


 いつの間にか接近していたガランは、気が付けば凄まじい勢いの足蹴りをしていました。

 その標的は。


「がぁぁっ!」

「ふ、フーリエ!」


 フーリエは強く蹴られ、黒い陣が消え、同時に周囲で暴れていた触手も消えました。

 幸いにも蹴られて飛んだ先にはマリーがいました。


「へへ、この触手は厄介だった。だがお前ら二人だけなら余裕だろ。だって、最強の人間の肉体だからなあ!」


 続けて力強い拳が飛んできます。しかしこれ以上は好き勝手にさせるわけにもいきません。

 早急にアメジストを生成して拳を防ぎます。


「ほう、小僧、お前何者だ?」

「ボクはただの……いえ、鉱石精霊です」

「精霊だと? 人間じゃねえのかっよ!」


 何度も殴りかかって来ますが、アメジストを生成して防ぎます。


「ふん! いつまでその守りも持つかわからないのに、よく続けれるなあ!」

「貴方は一つ失敗をしました。フーリエを蹴ったお陰で黒い陣は無くなり、先程まで痛かった頭痛と口内炎が治ってきました。つまり精霊術に集中できるようになったのです!」

「へっ! 仲間が蹴られて有利になるとか、何を考えてやがる!」

「何とでも言ってください! ボクは人間の心なんて持っていません! 『投石』!」


 拳を防ぎつつ『投石』で攻撃をするも、いまいち決定打に欠けます。


「ちまちまと……だが、これならどうだ!」


 気が付けば少し動き過ぎていました。シャルドネの位置が少し遠いです。

 ガランが半回転して、シャルドネに向かって殴りにかかります!

 魔術書『ネクロノミコン』が手元にあれば近くに行けますが、マリーも遠いです。これでは……。


「しねえええ! 娘ええええ!」



 ぱああああん!



 大きな音が響きました。


 そしてガランを見ると。


 しっかりと拳を片手で抑えられていました。


「しゃ、シャルドネ!」

「そうよね、ガランは……いつものガランよね」

「バカな! ……バカなあ! 娘、心がある中でどうしてそんな力が出せる!」

「勝手に心を読まないでくれるかしら? マリーの仲間って呼ぶわよ」


『ちょっと、どういうことー!』


 離れた場所でマリーが何か叫んでいますが、一旦無視しましょう。


「大丈夫、確かに久しぶりに頭の中がごちゃごちゃして、正直手に今までの力が入らないの。けどね、師匠に教えてもらった技があれば、この場くらいは乗り越えられるわ!」


 そして、シャルドネはガランを両手で掴み、その巨体を投げました。

 まるで相手の体重を利用した体術で、シャルドネが力を出した様には見えず、流れるような動きでガランは宙に浮きました。


「ゴルド! お願い!」

「で、ですが!」



「あれは悪魔よ! ガランじゃないって教えてくれたのは……ゴルドよ!」



 後半、若干声が震えながら放たれた言葉は、しっかりボクの耳に届きました。

 空中で身動きが取れないガラン。もし地面に着けば、また体制を立て直して、もしかしたら好機はもう訪れないかもしれない状態です。


 だから、ボクは。



「っ! 『光球』!」



 全力の聖術。

 ガランに憑依する名無しの悪魔一体なら十分な聖術を、放ちました。


「がああああ! あつい! あつううあああああ!」


 地に落ちて、大きな悲鳴を出すガランに、シャルドネは鉱石のグローブを両手で持ち上げて、苦しむガランへ近づきました。


「もう苦しまないで、ゆっくり眠りなさい。ガラン」


 その言葉は、苦しむ悪魔にでは無く、心を失った憑代に向かって放った、最初で最後の娘からの優しい別れの挨拶に思えました。

 比較的長い二話となりました。活動日誌だと不都合が出るので、この場で少し補足解説です。シャルドネの身体能力については、現時点で徐々に弱まっています。これもゴルドとの旅のお陰とも言えるのでしょう。

 この二話以外は「楽しく書く」から少し離れて、「頑張って書く」を意識しました。ゲームで例えるなら、ストーリーや世界観を楽しむのではなく、アイテムコンプリートやコンボの研究に近い感覚ですね。好きなことだからこそ、極めたい気持ちです。

 あとがきが長くなりましたが、このへんで。楽しんでいただけたら幸いです!

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