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錬金術師ゴルド達 対 黒服男レイジ

「残念です! せっかく『姫』として迎える部屋まで準備しましたが、墓場になりそうですね!」

「させないわよ!」


 シャルドネがレイジに向かって走り出し、攻撃を仕掛けた瞬間、マリーが両手を前に出しシャルドネに向けて何かを唱えました。


「『プル・グラビティ』!」

「わわ!」


 マリーの方へ引き寄せられたシャルドネは、一瞬何が起きたのか理解できなかった様子でした。しかし、その後すぐに理解した様子です。

 目の前の地面は大きく削り取られ、その中心には剣を振り下ろしたガランが立っていたのです。


「くっ! 容赦ないわね!」

「ちっ。あの魔術師、邪魔だな」


 ガランはマリーの方向へ振り向き、大きな剣を強く振りました。そこには凄まじい衝撃波が生まれ、マリーに向かっていきます。


「マリー様、危ない! 『魔力反…」

「ダメです! 『鉄壁』!」


 手段は選べません。フーリエを右手で掴んで強く引っ張り倒し、ボクは目の前に『鉄壁』を生成。衝撃波を防ぎました。


「あれは魔術ではありません。ただの衝撃波ですよ!」

「あ、ありがとうございます」


 引っ張って起き上がらせると再度構えるフーリエ。心は折れていないようで良かったです。


「『火球』!」

「ふん!」

「『認識阻害』、そして解除!」

「むう、目障りな!」


 マリーも隙を見てガランとレイジに攻撃を仕掛けますが、避けるか防がれるかのどちらかです。


「それでいいのよ……シャルドネが射程圏内にさえ入れば!」


 隙を突いてシャルドネはレイジの背後に立っていました。そして拳を構えています。あとは殴るだけです!


「何! いつの間に!」


 当然です。こちらはあくまでオトリです。先程から『認識阻害』を使用、解除を繰り返して気をこちらに……あれは!


「シャルドネ! 避けるのです!」

「はっ!」


 殴りかかる瞬間、シャルドネは全力で後ろに下がりました。

 先程同様、ガランが大剣を振り下ろしていました。


「さっきから邪魔ね!」

「娘、貴様こそ邪魔をするな」


 忘れていました。あのガランの精神もシャルドネと同じでした。つまり『認識阻害』を使った戦術はガランに通用しません!


「では、この場で倒れてくれれば良いのです。そうすれば私達の望む世界が……国が待っているのですから!」


 レイジが声高らかに宣言する中、フーリエがボクに話しかけました。


「ゴルド様! 闇の魔力が来ます!」

「雰囲気でわかりました! 準備をします!」


 聖術を組み込んだ『土壁』を生成、これで一時的に攻撃は……。


「ふふ。私は悪魔召喚者ですよ? 侮らないでいただきたい!」


 ぼおうっと黒い霧がレイジから出てきて、それらが左右に倒れている兵士たちへと向かっていきます。まさか。


「憑依ですか」


 悪魔を契約させるのでは無く、悪魔を憑依させるだけ。それはつまり、ただ『魔獣』を呼び寄せたのと同様です。


「兵士が起き上がってきたわ! ゴルド! どうすれば良い?」

「シャルドネ、腕!」

「わ、わかった!」


 いつも通りシャルドネの腕に鉱石のグローブを生成します。


「もうあれは兵士では無く悪魔、もしくは魔獣です! 殴ってください!」

「わ、わかった! てええい!」


 襲い掛かる兵士へ殴りかかり、兵士はその場で黒い霧を吹き出して倒れこみます。憑依したばかりなら、まだ間に合うはずです。

 そう思っていましたが、霧は一度噴出された後、再度同じ体へと戻っていきます。


「な、何故!」

「何故? 答えは簡単で単純です。そういう『闇魔術』なのですから!」

「くっ! このおお!」


 シャルドネが一人、また一人と兵士を殴るも、兵士は黒い霧を出しては戻り、出しては戻りを繰り返しています。


「隙だらけだ、娘」

「はっ!」


 そして、いつの間にかシャルドネの前にはガランが大剣を構えて待ち構えていました。これはまずいです。


「シャムロエに、よろしくな」

「くっ!」


 たったったった。


「させないわよ、『鉄壁』!」


 間一髪のところで、マリーがシャルドネの正面に立ち、『鉄壁』を生成し、ガランの攻撃を防ぎました。え、今度は鉱石精霊の精霊術ですよ?


「『ネクロノミコン』はまだ全て解明できていないけど、これくらいの簡単な術ならできるの。錬金術師さん、参考になったかしら?」

「お、恐れ入りましたよ」

「邪魔だ小娘!」

「はっ! 危ない!」


 マリーを抱えてシャルドネはガランの攻撃を回避しました。


「逃げてばかりではつまらんぞ。娘!」

「うるさいわね! 後で相手してあげるからおとなしくしてなさいよガラン!」


 なるほど、今はレイジを優先しているから先程からガランの相手はしていないのですね。賢明な判断だと思いました。


「でも、私を相手にするも、悪魔に憑依した兵士に手も足も出せないのでは体力を消費するだけでは? はっはっはっは!」


 高笑いをするレイジ。確かにこのままではジリ貧と言ったところでしょう。

 少し焦っていた時でした、ボクの近くから黒い魔力の反応がありました。え、一体誰が。


「……術式、できました。ゴルド様」


「ふ、フーリエ?」

「鉱石精霊のゴルド様は、絶対ワタチの陣に入らないでください! ワタチの呼び声に答えてください! 『空腹の小悪魔』!」


 フーリエの周囲には複数の黒い陣が現れました。これは絶対にボクは触れたくない属性の陣です。まさかフーリエ……。


「悪魔に対抗するには聖術と闇魔術……つまり悪魔です。ワタチもレイジ様……いえ、レイジの事は許しません!」


 黒い陣に手を振りかざすフーリエ。何やら液体のようなものが飛んだ気がしますが、まさか血ですか!


「フーリエ、君は」

「ゴルド様、言ったはずです。闇魔術は正しい使い方さえすれば安全なのです。血液一滴と『空腹の小悪魔』は……すでに実績がある安心な戦術です!」


 ここまでフーリエが闇魔術に携わっていたとは思いませんでしたが、手段を選ぶ暇もありません。


 黒い陣からは小さな槍を持った小さな小悪魔が合計五体が出てきました。


『カカカ、チ、タリナイ!』

『ハラヘッタ』

『ナニカ、クワセロ』


 それぞれが聞き取りにくい声を出しつつも、ボクの知っている言語で話しています。


「『空腹の小悪魔』よ、同族ですが今回のエサはあの霧です!」

『ケケ! ウマソウ!』

『アクマノマリョク!』

『ハラヘッタ! ハラヘッタ!』


 兵士達に飛び込み、黒い霧だけを吸い取る『空腹の小悪魔』に、レイジはただ見る事しかできていません。


「まさか悪魔を使役しているだと……ふ、フーリエ! 貴様、何者なんだ!」

「ワタチはただの傭兵兼研究者です! レイジのただ私利私欲の闇魔術には負けません!」


 熱意を感じました。ただ姉ミリアムがきっかけで研究することになったとはいえ、本気で闇魔術の研究をして何かを掴もうと努力をしていたのですね。


 ミリアムが何回も魔術を放つことで強くなれると信じていた時と同じで、フーリエは闇魔術について研究することで何かの役に立てると信じた結果です。これは少し人間という存在を見直さないといけません。


「小賢しいですね! 王よ! あの魔術師を始末してください!」

「ぐむ!」


 返事をしたガランは、現在シャルドネとマリーの二人と交戦中でした。ガランはずっとシャルドネとマリーの邪魔をすることで手が離せなかったのです。

 仮にガランがここでフーリエを狙った所で、ボクが全力で守ります。その間にレイジはシャルドネとマリーに始末されるでしょう。


 つまり、レイジは詰みなのです!


「いい加減にしなさい! ガラン!」

「騒がしい娘が!」


 大剣の大振りも徐々に勢いが減ってきました。やはり肉体は人間、悪魔が憑依していても体力は人間の体に依存ですね。


「はあ、はあ、てえええい!」


 と言ってもシャルドネの限界も近いです。レイジに攻撃を仕掛けようにも、降りかかる大剣を避けるのに精一杯です。ギリギリマリーの補助で助かっている部分も多々見受けられます。


「兵士から出ていた霧は無くなりました! レイジ、覚悟してください!」

『ニンゲン! タベテイイノカ!』

『ウマソウ!』

『マダクエル!』


 フーリエの召喚した『空腹の小悪魔』が目を光らせて、レイジを見ました。その目は完全に獲物を喰らう目です。


「ふふふ、奥の手はまだあるのですよ。『光球』!」

『ギャ! ニャアアア!』


 小悪魔が一体、消滅しました。


「なっ! レイジは聖術が使えるのですか!」

「身を守る術くらい、いくらでも持ってますよ! 『光球』!」


 一体。また一体と『空腹の小悪魔』は消滅していきました。残り二体です。


「一体どこからそんな知識を……」

「そんなの、もう知っていると思っていたのですがねえ!」


 高笑いをして、レイジは自身の頭に指をさしました。頭?


「今そこの小娘が持っている魔術書は私が丸暗記したんですよ? つまり、私の頭には、そこに書いてある術が全て書いてあるのですよ!」


 そうでした!

 ミッドの父に渡したということは、その前の所持者はレイジです。そして腰痛をもたらす悪魔を再召喚したということは、知識はあるはずです!


「へ、へえ、それは随分と勉強家なこと」


 そこにマリーがぼやきました。そしてマリーはボクに言いました。


「錬金術師さん! 場所交代よ!」


 超嫌です! だってガラン相手じゃないですか!


「文句言わないで! 足止めだけでいいから!」


 知ってはいましたけど、マリーとの会話にボクは言葉を発する意味は無いのですね。だって心を読むのですもの。


「分かりました。シャルドネ、そっちに行きます!」


 シャルドネの方を見ると、鉱石のグローブと大剣がぶつかりあって、大きな音が何度も鳴り響いていました。

 若干魔力も足りなくなって、鉱石のグローブが欠けてました。


「娘よ、その武器は何だ! 切れぬ!」

「そっちの剣こそ、全然刃こぼれしないわね! てえい!」

「シャルドネ! 修復します!」

「お願い!」


 なんとかサポートに入る隙がありました。


「小僧、邪魔をするな!」

「そちらはおとなしくしてください! 『土壁』!」


 周囲に土壁を複数生成します。足場を不安定にして、行動範囲を制限しました。


「小癪な!」

「良いわよゴルド! てえい!」

「ぐう!」

「『投石』」

「があ、こやつっ!」


 初めてシャルドネの打撃が腹部に命中しました。鈍くなった今が好機でしょう。


「『アイスマット』!」


 氷の床をガランの足元に生成します。その氷は時間が経つことにガランの足に絡み、身動き取れなくなります。


「この、またも姑息な!」

「足止めをしましたよ、マリー!」

「うおおお!」

「くう、マリー! 足止めしましたよ! 聞こえますか!」


 マリーを見ると、少し息が荒いです。何をしているのでしょう。

 何度か声をかけても返事をしません。


「マリー様! もう小悪魔の体力が持ちません!」

『グアア、キラレター!』

『ニンゲン! ユルサナイ!』


 フーリエの『空腹の小悪魔』も残り一体となってしまいました。全然有利には見えませんよ!


「……」


 マリーは目を閉じたまま返事をしません。いつもなら「大丈夫」の一言を心を読んだ後に返してきそうですが……。


 ……え、まさか心を読んでない?


「……慎重に、じゃないとね、禁書『ネクロノミコン』は暴走するの。だからね……」


 ブツブツとつぶやくマリー、そして右手を前に突き出し、目を開き、レイジを睨みつけました。


「があ?」


 ぱあん!


 鳴り響き、ある場所で炸裂音が鳴り響きました。


 その出所の付近からは、大きな叫びが発せられ、周囲がその声で揺れた気がします。


「ぎゃあああああ! 腹ガアアアアア! な、何をしたああああ!」


『ニンゲンノ、チ! モッタイナイ!』


 フーリエの『空腹の小悪魔』が、レイジの腹部に飛びかかりました。


「邪魔だあああ! どけえええ!」

『ギャアアアア』


 腹部に深い傷を負いながらも『光球』で『空腹の悪魔』を消しました。同時にフーリエはその場で膝をつきました。


「紫髪の小娘ええ! 何をしたあああ!」


 まだ生きていることに驚きを隠せません。だって、腹部から凄まじい量の血が出ていますよ!


「何って、貴方の頭を覗いたのよ。丸暗記した『ネクロノミコン』をね」

「なあああにいいいい!」

「そして唱えただけよ、腹部が炸裂する呪文を『心情偽装』でね」

「一瞬……一瞬頭が回らなくなったのは小娘のせいかああ!」

「当たり前じゃない。『ネクロノミコン』の魔術なんて、ちゃんと解読をしていない物は怖くて自分からなんて出せないわよ」


 なかなか賢い選択ですが、それを他人にやらせて、あまつさえ唱えた本人に打ち込むって、えげつないですね。


「なかなかの情報量だったわ。おかげで、吐き気もするわね」


 つまり、ずっと『心情読破』で心を読んで、レイジを倒す方法を模索していたのですね。


「ぬうううおおお!」


 っと、感心しているうちにガランが氷から出てきました。足止めとしての役目は十分果たせましたかね?


「ええ、十分よ」

「いつものマリーに戻って良かったです。さて、レイジも動けません! シャルドネ、あとはそちらを方付けるだけですよ!」

「ええ!」


「そう簡単に……行くと思いますか?」


 レイジから、弱々しい声が聞こえてきました。


「ふふ、こうしたら、どうなるでしょうね……」


 レイジは右手からパッチンと音を出しました。

 その音を聞いたガランは、まるで頭に『投石』を受けたように、少し怯みます。

 そしてその後の第一声は、


「……シャルドネ……?」


 大男から殺気は消え、瞳は輝き、ただの力の強い人間がそこに立っていました。

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