人間最強と呼ばれている男
「『火球』!」
「『投石』!」
ボクとマリーがガランに向けて魔術と精霊術を放つと、兵士が盾を持ってそれらを防ぎました。
伊達に立派な鎧を着ていないということですね。
「ゴルド様、ワタチの治療は終わりました」
腰痛に襲われたフーリエも復帰です。これでシャルドネは……。
シャルドネ?
「ガラン、あんたはどこまで屑なのよ」
「ふ、娘が親に向かって何を。教育が必要だな」
シャルドネは構え、ガランを見ています。途中の兵士が邪魔ですが、何とかできないでしょうか。
「錬金術師さん。大量の砂お願い!」
「了解です」
マリーから急な要望です。しかし何か考えがあるに違いありません。
「『砂壁』!」
いたるところに砂壁を出して「固い! 壁じゃなくて砂よ!」要望に応じてえええええ?
「固いってなんですか!」
「砂って言ったのよ!」
マリーの人使いの荒さを垣間見ました。
とりあえずその要望に応えるために指を鳴らして砂を崩します。
「えらい! 後は任せなさい! 『大旋風』!」
え、それってエルフの精霊術じゃ!
マリーが唱えた瞬間、大きな風が吹き始め、砂を巻き込み兵士に襲い掛かりました。
「ぬああああ」
「いてええええ!」
「鎧の隙間かああああ!」
なるほど、砂はそういう事に使うのですか。というかマリーはエルフだったのですか?
「エルフじゃないわよ。これが『ネクロノミコン』の力よ」
「さらっと『心情読破』を使っての返事ありがとうございます」
魔術書を使ったマリーにをレイジが睨みました。
「やはりその魔術書は危険ですね。国宝として預からせてもらいます!」
「させません! 『光球』!」
復帰したフーリエの『光球』がレイジに向かって放たれました。しかしそれは薙ぎ払われ、むなしくも粒子になって消えました。
「『光球』に触れた……?」
マリーが何か疑問を覚えました。
「レイジ、あなた『悪魔召喚者』ね」
「何?」
マリーが大声でレイジに訪ねました。何をそんな突拍子な質問を。
「……正解ね」
「くう! またしても『心情読破』おおお!」
と思いましたけど、こういう戦法でマリーは相手の思想を聞くことができるのですか。さすがです。
悪魔と契約をするには悪魔を召喚できる人が必要となります。ガランに悪魔が取りついていることはフーリエが証明したとして、問題は召喚者となります。
ミッドの父は『ネクロノミコン』を使って死神グリムを召喚し、グリムから悪魔を召喚させました。
レイジは悪魔召喚の素質が元々あったということでしょう。
「兵士達、あの者たちを捕え……いや、この場で始末しなさい!」
その声に、倒れていた兵士達が起き上がりました。
「ゴルド様、魔力の急上昇を確認しました! 例の薬です!」
「鎧の中に仕組んでいたということですか」
大体三十。一人八人を相手にすれば問題ないでしょうか。
「邪魔だ」
その低い声に誰もが足を止めました。
その低い声が響いた瞬間、道が出来ました。
その声が響き終えた頃に、玉座の間の左右の壁は、兵士の血によって染められました。
「俺が、始末すれば良い」
☆
「『土壁』! 何なんですかあの規格外の剣は!」
「『火球』! 知らないわよ! 娘に聞きなさい!」
「『光球』! ダメです! 聖術も効果が薄いです!」
「「「……はい、次」」」
「冗談言ってる場合じゃないでしょうが! てええええい!」
流れって大事だと思うのですよね。せめて『火球』くらいはシャルドネに覚えさせようかなと思っちゃいました。
「王よ! いけません、兵が!」
「黙れ!」
完全にガランの理性が飛んでいます。やはり悪魔の影響でしょうか。
「仕方が無い、『心情偽装』!」
「!」
レイジはガランに心情偽装を使いました。信じられません、いや、ボクもシャルドネやフーリエに使いましたが、普通は禁じ手です。
場合によっては精神崩壊すら起こす危険な……危険な……。
「そん……な、事って許されるのですか!」
ボクは気が付いてしまいました。
エルフの集落をどうやって見つけたのか。
どうしてガランが『人間最強』と呼ばれるほど強いのか。
「親子そろって、そんな運命を歩む必要があるのですか!」
「ご、ゴルド?」
「レイジ! 貴方はいつからガランの隣に居座っているのですか!」
「そうですね……」
そして、不気味な笑みとともに答えが出てきました。
「腹に眠る娘が目の前で殺された直後……ですかね」
「腹に眠る娘が……殺された直後って?」
シャルドネが疑問を抱き、レイジがそれに答えました。
「あら、『姫』はお母様から聞いていないのですね。もしくはあのエルフから聞いていないのですね?」
「どういうこと?」
「『姫』は一度死んだのですよ。まだ胎児だった時、腹部にナイフが刺さってね!」
「でも、でも私は生きているわ!」
確かに、シャルドネは生きています。それも凄まじい力を持って。
「闇魔術の蘇生術をご存じですか?」
そのレイジの言葉に最初に驚いたのはフーリエでした。
「そんな! 蘇生術は……」
「フーリエ! 何か知ってるの?」
「は、はい。蘇生術は簡単に言うと死んだ人間を蘇生できる。その代わり術者は寿命を大幅に失うのです!」
「寿命ですか? でもエルフはほぼ精霊と言っても過言では無いので寿命を取っても……」
エルフは千年から万年。精霊の中でも珍しく死という概念があるものの、人間に寿命を分け与えるくらい少ない時間とも思えますが。
「一分一秒同じ時間を与える訳ではないのです。運命的に死が確定するのです。それも、悲劇的にです!」
「そんな……セイラが……?」
「そしてその闇魔術を使った人と夫婦になった場合、同種族は伝染すると言われています!」
だからセイラはエルフの村にいなかったのですか。これでようやく繋がったというべきでしょう。
「まさかあのとき、エルフが身を犠牲にして『姫』を助けるとは思わなかったですが……まあ、欲しいものは手に入ったので」
そう言ってレイジはガランの肩に手を置きました。
「『王』よ。建国は近いです。邪魔者は排除に限りませんか?」
そして、凄まじい圧と共に、ボク達に向かって吠えてくるガランがいました。
「心折れないでよ! 皆!」
次回が戦闘となります。かなり慎重に書いているので、期待通りか、期待以上の迫力を出せればと思います! 今まで「楽しく」を考えていましたが、次話だけ「頑張って」書きたいと思います!




