それぞれが歩む道
地下にある簡易的な医療場にて、フーリエが綺麗なタオルを持って話しかけてきました。
「何かつかめましたか?」
「正直なところ、何かつかめたとは思っていません」
「そうでしたか。ワタチはゴルド様の戦い方は嫌いではありません。なので、ワタチはその戦い方を学ばさせて貰います」
「ボクのですか?」
一体ボクが何をフーリエに影響を及ぼす戦法をしたのでしょうか。
「『砂壁』は盾のように使って相手の攻撃や視線を防ぐ。それなのに相手を埋もれさせて中でくすぐることで相手の戦意を喪失。これほど平和的な戦術はワタチには見つかりません」
だって、人間って命を絶ってもそこに残りますよね。精霊は消えるので良いのですが……。
「まあ、フーリエがそう思うならそうしておきましょう。平和主義の鉱石精霊ゴルドの伝説として書物にでも残してください」
「はい」
……冗談ですよ?
「負けました。まさかあの『大旋風』から逃れる人……いや、精霊がいるとは」
「経験不足はお互い様というのがわかったので、これで両成敗にしましょう」
「そうですね。ありがとうございます。ゴルドさん」
さて、エヴァとの会話も終わり、エルヴィンとシャルドネは別室で話し合いをしていました。
本題はもちろん、大男と黒服の男の話です。
ボクは無関係……と言いたいのですが、本題である魔術についての聞き込みを先に終わらせてからこっちの事情聴取をしていこうかと思ってました。
そんなことを思っていたら、医療場にシャルドネが戻ってきました。
「そっちの話は終わったよですか?」
「ええ、やっぱりここに来たのはガランね。なぜこの集落を焼き払ったかは不明だけど、エルヴィンの話だとガランが現れて剣を振りまくったそうよ」
「でもこの森には『認識阻害』の結界があるので、本来は見えないはずなのですが……」
シャルドネと同じ特殊な例が無い限りは、この地は見えません。
……シャルドネと同じ特殊な例ですか。
「質問ですが、シャルドネの父のガランは最初からあんな感じでしたか?」
「どうかしら……物心がつく前からあまり会わなかったし」
「フーリエ」
「はい?」
「フーリエはガランとも繋がりがあるのですよね?」
「派遣されているので、一応管轄内です。ですが……」
少し困った顔をしていました。
「ガラン様? には会ったことが無かったのです。いつも中継としてあの黒い服の人と話してました」
「どんな話をですか?」
「現状の報告や受けた依頼などですね」
中継という怪しい立場もそうですが、悪魔という存在もちらつくこの状況。
「決定ではありませんが、あの黒い服の人からは、なにやらきな臭い雰囲気があふれ出てますね」
☆
また来てください。そのときは森も戻っているでしょう。
そう言われて見送られて、ボク達はタプルのいる村へ戻ってきました。
最初に出会ったのは紫髪のマリーです。
「お帰りなさい。何か収穫はあったのかしら?」
「マリーと愉快な仲間達と戯れました」
「どういう意味よ……」
だって、うっかりしていると『心情読破』を使われるのですもの。
「仕方が無いじゃない。ワタクシの癖なんだから」
「ほら、今も使ったじゃないですか」
「むむむ」
苦い顔をしつつ、とりあえずその時の事情を簡単に説明し、ガランの場所へ行くことにすることを話しました。
「シャルドネは行くの?」
「ええ、一応血の繋がった人間だからね」
「そう。じゃあ今回はワタクシも行くわ」
「マリーが?」
「そう。そしてフーリエ。貴女も来て頂戴」
「わ、ワタチもですか!」
何故でしょう。戦力が増えるのは別に良いのですが、かといって多すぎるのも問題かと思います。
そして、その疑問はやはり読まれていたのか、ボクを見てニコッと笑って答えました。
「それが最後の仕事。そしてワタクシは自分の世界に帰るからよ」
☆
「ま、マリー様が帰る?」
大声を出して驚いたフーリエ。当然です。この世界の雪の地にある魔術研究所の管理人を務めているマリーがいなくなれば、混乱は生まれます。
「ミリアムから魔術書の連絡を受けてからすぐ引き継ぎをしたわ。もう次の代表も決めてあるしね」
「そんな……急すぎます」
「ええ、ワタクシもそうだとは思っているけど、許して欲しいの。だって、ここはワタクシの生まれた世界では無いのですもの」
マリーは『ネクロノミコン』の所為でこの世界に来たと言ってました。
その『ネクロノミコン』が手元にあれば、そりゃ戻りますよね。
「あっちには家族がいるのよ」
「そう……ですか」
フーリエが落ち込む中、少し気になった事がありました。
「テツヤは帰らないのですか?」
「ええ、テツヤは元々別の世界で死んだ人間らしいの」
「転生者……ということですか?」
「そうみたいね。シャルドネはその辺について聞いたことはあるのかしら?」
「言葉が話せない時点で普通の人では無いくらいにしか思ってなかったわ。今では何を聞いてもそれほど驚かないわよ」
苦笑するシャルドネ。実際心が欠けている状態では喜怒哀楽もそれほど表現できないので、例え凄いことでも大きく驚けないのは寂しいですね。
「ということで、テツヤはこの世界に残るそうよ。伝言くらいは預かったけどね」
「伝言ですか?」
「ええ、どうやら妹がいたらしいの。カグヤっていう妹にもし会ったらよろしく言ってくれってね」
「そうなんですか。テツヤは家族よりもセイラを選んだのですね」
「今はテツヤの家族はセイラよ。まあ本人にはその言葉を言ってあげない方が良いわね」
それぞれの行く道に首を突っ込むつもりはありません。しかし、こうしてみると一本道しかない運命というのはなかなか残酷な物です。
「さて、しんみりした話はこの辺で、明日は四人でガランの所に行くわ。いいわね?」
「はい」
「ええ」
「は、はい!」
そして、今度こそ、あの忌々しい『腰痛の悪魔』を討伐するグループが誕生しました。
……前衛がシャルドネだけって、なかなかバランス悪いですね。
七十ということで、気がつけばという感じです。今後も楽しんでいただけたらと思います!




