入国検査
ガランが住む町に行く道中、その人物についてマリーの知っている範囲で話を聞きました。
ガランはシャルドネの実の父親にして、この大陸では一番強い人間と言われています。
手に持つ大きな剣を一度振れば、全てが二つになるとか。
そして、シャルドネが生まれる前に家を出て、極稀に出会い、会話もせずに終えるというのが普通だったそうです。
稀に会うというのも、ガランが村に訪問して目を合わせるだけで会話も無いとか。それって会うって言うのでしょうか。
「最強の……人間ですか」
「ええ、ワタクシも一度会ったことがあるけど、絶対に戦いたくない相手の一人ね」
「でも、やはり不自然ですね。傭兵として来ているフーリエが、ガランと全く関わりが無い事に違和感しかありません」
雪の地から派遣された傭兵という存在。これについてはそれほど深く考えていませんでしたが、大陸全ての情報を網羅するという意味では雪の地から派遣の傭兵という制度は賢いと思いました。
魔術が使える。実力もある。村に何かがあっても多少の事なら守る事が出来るという表向きの理由から、実はその地方の情報を仕入れるための行動という裏向きまで。考案者はマリーでしょうか? だとしたらさすがはマリーですね。
「そんなに褒めなくて良いわよ」
「やっぱり心を読んでいたのですね……」
「前も言いましたが、ワタチとガラン様の間には中継を挟む決まりがあるのです」
「決まり?」
「はい、黒い服の人。名前をレイジ様と言うのですが、その人を通していつもガラン様に報告していました」
レイジ、一体どんな役職の人でしょう。
「レイジ様に伝えた後、数分待って答えが返ってくる。それを派遣されてからずっと繰り返していました」
「では、本人から直接会話をしたことはないのですね」
「そう言われてみれば……そうですね」
名前も出てきたところで、目標の人物は定まりましたね。とにかくその黒服男のレイジに質問するしかありません。
「見えてきたわ。あれが私の父……いえ、ガランの住む家よ」
「……いつみても大きいわ」
「まるでお城ですね」
「遠い地の言葉ですか? ゴルド様」
お城という単語が無いのも仕方がありません。国という概念がないのですから。
「そうですね。遠い地の言葉です。それよりもあの大きな町にはどれくらいの人が住んでいるのですか?」
「そうですね。商人や建築に携わる人も含めると、数万はいると思います」
「やはり、一つの国……そういったところですね」
草の地で一つの国が出来上がろうとしています。これは決して悪いことではありません。
しかし、あのレイジの対応やエルフの集落を焼き払った事例を考えるとこの大陸を支配する様にも思えます。
「本当は魔術について知識を深める事が目的ですが、正義の味方も悪くは無いかもしれませんね」
そう言って、ボク達は町……いえ、城下町へと入っていきました。
☆
「雪の地の傭兵フーリエです」
「うむ、御苦労。後ろの人たちは?」
「ここまでの護衛です!」
「護衛? でもフーリエ殿は傭兵では……」
「あ……いや、それは」
まさか『入国検査』があるとは思いませんでした。
これもレイジという男が作り出した制度でしょうか。というかそうとしか思えません。
何やら国旗とも思える旗までありますし、もう国ですよこれは。
「身分を証明できないのであれば通行料を払ってもらう。一人につき千シルバだ」
「せ、千ですか!」
おお、通貨まで存在しました。今まで現物交換だったのがここで文明が進みました。しかしこれはこれで便利にはなりますが、相場がわかりません。
「えっと、千は……」
「ならば退去だ。あ、フーリエ殿は正式な傭兵なので入れます。他の人は退去だ」
仕方ありません。ここは一つ錬金術師として頑張るとしましょう。
「門番さん」
「なんだ?」
「この場所は初めてなので、相場がわからないのですが、これだとどれくらいになりますか?」
「これは……」
ボクの手には少し黒みがかった石があります。
「ゴルド……そんな石……」
「そ、それはあああ! どこでそれを!」
「「「……え?」」」
三人は驚いて口が空いています。
無理もありません。
これはボクがこの短時間で丹精込めて作成した天然銀……そっくりに加工した人工的、いえ、精霊工的銀の原石そっくりな形の銀です。とくにこのぼつぼつした感触を出すために砂を一度埋め込み、そして砂を一つ一つ丁寧に除去してできたまさしく職人の技がそこに詰め込めてあります。極め付けはそのうっすら見える銀色の光沢。これを再現するために砂金を少々合わせることにより、角度によっては金色にも見える工夫がほどこされてあります。
「……長い解説ありがとう。頭がパンクしそうよ」
マリーの特技である心を読む能力『心情読破』が来る事は予想済です。
「この国の相場がわかりません。もしここで換金できるのであれば、お願いしたいのですが?」
「わ、わかった。今すぐ鑑定士を回そう」
え。出来れば魔力が無くなる前に終わらせたいのですが、維持大変なのですよこれ!
「鑑定士のバイザーじゃ。どれ……ふむ! これほど完璧な銀の原石は初めてじゃ! しかもうっすらと金も交じっている! これは」
「あの……結果はまだですか?」
「ちょっと待つのじゃ若い者よ。これは……十万シルバくらいの値打ちになるな」
「十万!」
「なに!」
もうおつりはいりませんから早くしてください! 消える! 消えてしまいます!
「……はあ、貸し一つにしてあげる」
ボクの肩にマリーの手が置かれました。これは……。
「ふむ、鑑定終了じゃ。十三万シルバじゃな。ほれ、これが釣りじゃ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って、入国料三千を差し引いたお金を受け取り、さっさとその場を後にしました。
「「ぜーはーぜーはー」」
「二人とも、なんでいきなり走り出したと思ったら、そんなに息を切らしているのよ」
「何故って、そこの錬金術師カッコワライが無駄に完成度の高い偽物を作ったからに決まっているでしょ」
「偽物とは聞き捨てなりませんね! あれはボクが作った完全な本物ですよ!」
「だったら魔力の調整くらい予想しなさいよね!」
「ま、まあまあ、ゴルド様。マリー様。周囲の視線もありますし」
「「『認識阻害』」」
これにより思う存分言い合えます! よしかかってくるのですマリー!
「だからあれは!」
「でもそれは!」
「あわわ、急に二人が消えました!」
「……」
ボクとマリーが言いあっている中、一人は冷静でした
右手をグーに。左手をグーに。
その両手でボクとマリーの脇腹を強めに打ちこみ、言い争いはあっさりと終止符が打たれました。




