勘違いとバチ
「『ネクロノミコン』ね……まさかここで再会するとは思わなかったけど」
ミッドの父が消滅した後に拾った本をマリーに見せると、苦い顔をしてぶつぶつと話し始めました。
「何か知っているのですね」
「ええ、簡単に言うと別世界の魔術書よ。そして、ワタクシがこの世界に来た原因でもあるわね」
「この本がですか?」
「ええ。まあ今はその話を一旦置きましょう。久々の再会ですもの。ねえ? フーリエ」
「ひゃい!」
……なぜフーリエはこれほど怯えているのでしょうか。何か弱みでも握られているのでしょうか。
「弱味なんて無いわよ。ただワタクシがフーリエの上司なだけよ」
「またボクに対して『心情読破』を使わないでくださいよ」
「ふふ、癖みたいなものよ」
以前会った時と同じで逆にほっとしました。逆にフーリエはいつもより緊張している様子です。
「ちなみにテツヤ、この本があれば元の世界に帰れるけど、どうするの?」
魔術書『ネクロノミコン』をテツヤへ向けると、ちょうどおかわりのお茶が入ったティーポットを持ったセイラが入ってきて、ティーポットを落としました。
床にはお茶が広がり、ティーポットは割れて粉々です。
「て、テツヤさんが、帰る?」
ショックが大きかったのか、それだけを口にして部屋を出ていきました。
「……あー、悪い事をしたわね」
「いや、良いんだ。ちょっと席を外して良いか?」
「ええ、遅れたけど、おめでとう」
「ああ。ありがとう」
そう言ってテツヤはセイラを追いかけました。
「同郷……というには遠いけれど、それでも少しさびしいわね」
「テツヤが結婚したことがですか?」
「ええ、同じ境遇の中、ワタクシはただひたすらに自分の能力を利用し、今の地位まで上った。一方でテツヤは周りに助けてもらい、そして助け合って生きていき、幸せを掴んだ。何か負けた気がするわね」
「そうですか……」
……あ、真剣な話をしているように見えますけど、今ボクはティーポットの修復をしていて、フーリエは風属性の魔術と火属性の魔術を使って床を乾かしています。
「……真剣な話をしているのに、なんかしっくり来ないわね」
「この湿った空気を晴らすには良いと思いました(カチャカチャ)」
「です!(ブオオ)」
フーリエも一緒にボクに参戦です。これで負けなしですね。
「へえ、フーリエにずいぶんと懐かれているわね」
「ゴルド様はすごいのです! 魔力量が!」
「まあ当然よね……うん、当然よね」
何か言いかけましたね。精霊という単語はここでは厳禁でお願いしますよ。
「こほん、さて、そろそろ本題に入ろうかしら。錬金術師さん、シャルドネの父ガランについてはどれくらい詳しいのかしら?」
「全く。シャルドネは一言も父の存在を出さなかったので」
「言う必要が無いと思ったからよ」
ようやくシャルドネの口が開きました。
「まあそうよね。シャルドネにとっては血縁上は父親でも、実際は育てられた記憶なんてないものね」
「ええ、ガランは時々会う程度。殆どは母さんに育てられたし、父とは思ってないわ」
「で、ガランについてだけど、簡単に言えばこの大陸で一番強い『人間』ね」
一番強い人間ですか?
「そうよ。肉体的に強く、その拳はどんな壁も破り、その足は誰よりも速い。一言でいえば最強の男ね」
最強の男。そんなのがシャルドネの父親なんですね。
「そう、そして気になるのは」
「あの、『心情読破』でボクと会話をしないで欲しいのですけど」
「ふふ、その方が早いのですもの」
「……そのうち仕返ししてあげます」
「楽しみにしているわ。それでさっきの話を聞く限り、ガランの隣にいた男が『王』という単語を言ったのね?」
「そうです。この世界では国と言う概念が無いと思うのですが、最近変わったのですか?」
「少なくともそんな話は聞いたことが無いわね。強いて言えばミッドの父親が怪しい動きをしていたくらいかしら」
禍々しく光る魔術書『ネクロノミコン』を解読し、国という組織を作ろうとしていたミッドの父。今ここに魔術書があるのにシャルドネの父ガランの隣の男は『王』という単語を使いました。
どう考えても国という概念を知っているように思えます。
「心当たりはないかしら? 例えば岩の地と草の地で貴方たち以外に共通の何かがあったとか」
「共通の……ですか」
記憶を遡り、心当たり探りました。
一番印象に大きいのは腰痛関係ですね。悪魔の魔力の所為でボクの腰は重傷を負いました。
二番目にテツヤが女体化したことですね。
そういえば腰痛と言う意味で共通点がありますね……。
まさか!
「わかりました! 腰痛です!」
「待ちなさいよ! テツヤ女体化ってどういう事よ!」
また『心情読破』を使っていたのですか。でもこっちも真剣です。とりあえず本題から話させて欲しいです。
「シャルドネのダガーに触れた時に腰痛が」
「まずはテツヤ女体化について話しなさい! 全然頭に入ってこないから!」
「後にしてください。まずは本題ですよ。良いですか? もしかしたらこの草の地の危機なんですよ!」
「ほんの数分話すだけで、あとは数時間聞くから! まずは女体化について話してよ!」
勝手に『心情読破』を使った罪は大きいのです。
サブタイトルで罰にしようかと思いましたが、バチにあえてしました。




