腰痛治療
「ここら辺かしら? てい」
「あー、そこです」
「この辺は……どう?」
「そこもいいですね」
コンコンと扉の音が鳴り響き、ボクは軽く返事をしました。
「入るぞ。明日なんだが……あー、邪魔したな」
まあ、確かにボクは上半身裸でうつ伏せになっていてシャルドネが背中に乗っていたら不自然ですよね。
「マッサージ受けてただけですよ。変な音はしてないでしょう」
「まあな。知ってて言っただけだ」
「何のこと?」
「シャルドネは気にしなくて良いのですよ」
さて、何故ボクがシャルドネのマッサージを受けているかというと、ダガーから乗り移った悪魔がボクの体にいたずらをするのです。
立て続けに手合わせがあった所為で魔力が少なく、さらに草の地という魔力の薄い環境の中、この悪魔の魔力を消すのに時間がかかっていました。
「まさかこれほど微少な悪魔の魔力に、ここまで苦しめられるとは思わなかったです」
「にしてもなんでダガーに? 悪魔の本体は倒したのでしょ?」
「……そのはずですが」
死神グリムの言葉では、この世界には冥界がありません。なので魂はこの世界で消滅します。
「考えられるのは、同じ悪魔がどこかで召喚されたとしか言えません。しかも消滅しかけたタイミングで」
「同じ悪魔……」
ミッドの母親を依り代に取り憑いていた悪魔。言葉こそ発することは無かったですが、それがどこかで召喚されたとなると、心配事が一つ増えました。というより、戻ったというべきでしょう。
「悪魔の薬に関してはまだ油断できませんね」
「そうね。それに関してはフーリエにお願いしてミリアムとマリーに手紙を送って貰いましょう」
「ええ。というわけで現在腰痛に悩まされているわけですが明日についてですよね」
「ああ。魔獣についてだが、親玉が一つ。その周囲に小物が数匹ってところだ。足は速いが俺の足くらいだったら逃げれる」
テツヤの足の速さがどれくらいかはわかりませんが、シャルドネ以上でしたら確実にボクは逃げ遅れますね。
「今失礼な事考えなかった?」
「失礼な事は考えていません。シャルドネを持ち上げていましたよ」
「……むう」
しかし、魔獣ですか。
悪魔のペットとも言うべき存在です。もちろん精霊とは相性が最悪なので、ボクとしては関わりたくないのが本音ですが受けた仕事です。やるしかありません。
と、そこでコンコンとまたドアから音が聞こえてきました。
「失礼します。ゴルド様、マリー様から手紙が……し、失礼しました!」
いやまあ、十も満たない女の子が男の上半身を見て顔を赤くするのは少しおませさんじゃありませんか。
と言うよりボクは実年齢数千ですよ。
☆
「言ってくれればワタチがなんとかしましたのに」
「闇魔術専門家だったことを忘れていました。ちなみになんとかできますか?」
「はい。聖術を使えば腰痛は治ります」
「ではお願いします」
そしてボクは再度うつ伏せになって治療を受けます。
「ふむ……『聖なる光よ、その優しき光で闇を切り裂き、悪しき魔力の源を打ち消したまえ』!」
「あー、その辺です」
「『悪の魔力よ、その禍々しき輝きを静め、清き魔力へと生まれ変わりたまえ』!」
「もうちょっと左ですね」
「ねえ、師匠」
「なんだ」
「あれ、腰痛の治療ですよね?」
「ああ、すげー神々しいのに、腰痛の治療なんだぜ」
ボクは悪くありません。だって、フーリエがその言葉を口に出さないと聖術が使えないそうなんですもの。
キリの良い六十にしてサブタイトルが「腰痛治療」って泣けてきますね……
皆様のお陰で楽しく書き続けて来ました!
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