戦いたくない相手
赤い目をしたミッドと、その後ろにはミッドにどこか似ている二人の男女が立っていました。
ミッドの両親というやつですね。
「傭兵さんでしたか。お久しぶりです」
「久しぶりじゃないわよ! 囚われたんじゃないの? それに今のミッドに違和感は無いの?」
「ええ、これは私がやった事であり、ミッドの望みでもあります」
「ミッドの?」
男性がミッドの頭を撫でて、不気味な笑みで話を続けました。
「町に何かがあれば、僕が守る。そう言い続けて傭兵さんから武術を学びました。ですが、それを超える力を『私は』得たのです」
私は……?
つまり、悪魔と契約したのは……。
「シャルドネ! 気をつけてください! あの男は悪魔と契約した人です!」
「分かってるわよ!」
急いで地面に土壁を……え、生成できません!
「ふむ、そこの少年は人間じゃ無いのですか?」
「この地面の血……悪魔の血でしたか!」
精霊と悪魔の相性は最悪です。そして新発見です。悪魔の血の所為で、陣が描かれている場所に土壁の生成ができません。
「ゴルド! 鉄の武器!」
「は、はい!」
急いでボクの手から鉄でできた短剣を生成して渡します。
気がつけば体力や魔力が通常よりも消費が激しいです。この空間だけは魔力が薄い。というより、ボクの相性が悪すぎます。
「てええい!」
「がああああ!」
シャルドネの攻撃に対して、ミッドの両親は一歩も動きません。代わりにミッドがダガーを使ってシャルドネの攻撃を防ぎました。
「ダガー……ゴルド! あのダガーをなんとか出来ないかしら!」
話しかける余裕はあるのでしょうか、ですがその提案は難しいです。
「今精霊術でそのダガーを奪ったら、悪魔も憑いてくるかも知れません! そして何より……」
ボクは忘れていました。
ここまでずっと。
腰が凄く痛かった事に!
「腰痛が凄いです!」
「今その話持ってこないでよ!」
いや、冗談では無く、ここに来てからさらに悪化したのです。もはや吐き気までするほどの痛みに、ボクは辛いのですよ。
「何をするかと思ったら、傭兵さんのお仲間さんはそれほど強くないのですか?」
「五月蠅いわね! 普段は強いわよ!」
「まあいいです。妻よ、あちらでティータイムと行きましょう」
「……」
妻と呼ばれた女性は全身に傷を負い、その目は輝きを失っていて、まるで人形でした。
女性は一言も話さずに、振り返って奥に進もうとしました。
……ん?
腰痛が少し減りました……?
「『光球』!」
ボクは数少ない可能性を信じて、女性に向けて『光球』を放ちました。
シャルドネはミッドと交戦しているため出来た行動です。
その光球はまっすぐと女性に飛び。
「!!!!!!」
女性に当たりました。
女性は声というよりも超音波を発した感じです。これも悲鳴なのでしょうか。
「き、貴様! 一体何を!」
「シャルドネ! 腰痛が激減しました! あの女性に悪魔の本体が入っています!」
「そう言われても……ね!」
変わらずミッドの猛攻撃に耐えているシャルドネ。
本当は使いたく無いのですが、少しの時間だけ耐えて貰いましょう。
「『心情偽装』!」
「なっ、ゴルド……何を……?」
「シャルドネの心を操作しています。一時的に無感情のはずです! 今のうちに早く!」
「……てええええい!」
「があああああ!」
シャルドネの日頃からの鍛錬を信じて、肉体的に耐える事を前提に使った作戦です。
心情偽装は自分以外にも使えます。ただしリスクは大きいです。相手の心をねじ曲げるのですから。
勢いよく吹っ飛ぶミッド。そして壁に埋まり、少し動きが封印されました。
「解除……。ごめんなさいシャルドネ」
「謝らないで。私の精神が弱いだけだから。むしろ助かった」
シャルドネもギリギリの戦闘なのでしょう。そして今後も徐々に精神が回復することに力には加減が加わり、いつも以上の力は出せなくなるのでしょう。
「妻よ! ふう、なんとか悪魔の依代としての役割は継続していますね」
ミッドの父親は女性を揺さぶり、一人の人間を心配とは程遠い行動をしていました。
「妻というのは人間の言うところの愛している人ですよね。ですがそれは悪魔です。人とは言いがたいですね」
「貴様には何も分からないだろう! 低迷する商売を救うには、悪魔の力を借りなければいけないのだよ!」
まるで本意ではない。そう言いたいような言葉にも聞こえた言葉に、少しだけ耳を傾けてしまいました。




