岩の地襲撃
いずれは来ると思っていたこの事態ですが、そもそもの目的がわかりません。
悪魔の薬を周囲にばらまき、軍勢を作るメリットと言えば……単純な戦力の強化でしょうか。
となると、頭に立っている人はその軍勢を率いてどこかを侵略でも考えているのでしょうか。
「シャルドネさん! あそこです!」
「見張りお疲れ様。怪我は無い?」
「ええ、あちらもこっちをじっと見ているだけです」
「そう……」
住民がボクの修理した装備を着込んで、数十名ほど警戒していました。
装備だけは一級品。しかし装備車は一般人というなんとも言えない状況ですが、相手への威嚇くらいにはなるでしょう。
もっとも、相手に感情が残っていればの話ですが。
「ゴルド、大体何人いるかわかる?」
「魔力量が大きいので、特定はできませんが……ちょっと待ってくださいね」
地面に手をつき、砂と少しばかりの砂金を収集し、それを一つに固めます。
本では望遠鏡と書いてありましたが、それを簡易的に制作しました。
「あ、少し見えます。えっと、三十人が前衛。後衛に魔術師が……五十くらいです」
「便利ね、その錬金術」
「ボクもそう思います」
さて、魔術師が後ろにいる……。
いやいや、まずいですよこれは!
「大きめの精霊……錬金術を展開します! ボクの後ろに隠れてください!」
ボクの声と同時に、後から走って追いついたミリアムが叫びました。
「大きな魔力反応があります! 何ですかこれは!」
「早速『魔力探知』を使いましたね。良い心がけです。とにかくボクの後ろに!」
やっと生活する分には困らないほどの魔力になったのに、もう使うことになるとは思いませんでした。
「『アメジスト』!」
とてつもなく大きなアメジストを生成。
効果は氷の針から身を守ったときと同様で魔力を散らす役割を持っています。
そして、予想通りといいますか、外れて欲しい出来事が起きました。
「放てええええ!」
その声と共に、真っ黒な何かがこちらに向かって飛んできました。
おそらく闇属性の魔術か何かでしょう。もしくは悪魔特有の魔術か。そにかく今はアメジストに耐えて貰うしかありません!
「っぐああ!」
アメジストが砕けないように生成を繰り返します。
「ゴルド! 大丈夫なの!」
「なんとか、この黒い砲撃が収まったら、なんとか出来ますか?」
「……やってみる」
そして、徐々に弱まる黒い砲撃。それを目で知らせ、シャルドネは頷きました。
「行くわ!」
まるで疾風のごとくとも言えるでしょう。
頼もしい魔力反応が二つ、軍勢に向かって走って行きました。
……ん? 二つ?
「シャルドネ姉ちゃん! 僕だって戦うよ!」
「ば、馬鹿! 避難してなさい!」
まずいです。ミッドも一緒に突撃していきました。
相手はおそらく悪魔の薬を服用している人間達。そんな人たちに一度でも殴られれば、確実に致命傷です。
「がああああ!」
「くそっ!」
シャルドネはなんとかミッドを守りながら応戦するも、苦戦しています。
一方ミッドは攻撃手段が無いため、相手の攻撃をかわすだけです。
「早く! 早く戻ってなさい!」
「嫌だ! シャルドネ姉ちゃんの助けになるんだ!」
「なってないから言ってるのよ! てえええい!」
数人吹っ飛ばし、戦意を喪失させました。なんとか行けそうですが、後方の魔術師が気になります。
「『投石』!」
「『アイス・ニードル』!」
ボクとミリアムはギリギリの範囲で後方の魔術師に攻撃するも、防がれてしまいます。
このままでは二人とも危ないです。
「ぬあああ! ゴルド! ダガーを引き寄せなさい!」
シャルドネが叫び、腰につけていたダガーをミッドの服に刺しつけました。
「わあ! ちょ、シャルドネ姉ちゃん! 刺さったらどうするんだよ!」
「うるさい! ゴルド! 早く!」
「了解です!」
両手から磁力を発生させ、ゴルドの服に刺さったダガーを引き寄せます。
「わ、わああああ!」
「よっと、ミッド。大丈夫ですか?」
「は、離せ! 僕はシャルドネ姉ちゃんと一緒に!」
「それが……ミッドを引き寄せている間に……」
目の前は凄まじい光景と化していた。
魔術師は全員その場で倒れ。
前衛の残りの軍勢も全員倒れていました。
つまり、ミッドがいなくなった途端、本気を出したのです。
「ミッドがいなくなった瞬間、全員を倒してしまったのです」




