ミッドという少年
「せい! はっ!」
朝起きて、廃墟に近いこの町の様子を見ようと一回りしていたところ、町の隅っこで何やら声が聞こえたので近づいてみました。
どうやらミッドが一人で稽古をしているそうですね。
シャルドネもですが、人間はこうして日々鍛えることで強くなるらしいのですが、精霊であるボクにはまだ理解できません。
魔力をため込み、それを自身で操れるようになれば強くなれますが、それに近い感じでしょうか。
「はあ! てえい!」
シャルドネと動きが似ているようにも見えます。
というより、あの動きはシャルドネと同じですね。
「……なに「にんしきそがい」? を使ってこそこそしているのよ」
「……いるなら言ってください。複雑な事情がありつつも、やはり『認識阻害』が効かないシャルドネはズルいです」
「まあ、一部の魔術師には有効そうね。今のところはだけど」
「わあ! シャルドネ姉ちゃんにゴルド……さん? どうしたのですか?」
あ、うっかり認識阻害を消してしまいました。
そして少し話し方が丁寧です。もしかして昨日のボクのささやかな気遣いから敬意を持ってくれたのでしょうか。
「ふふふー、ミッド。実はさっきまでこのゴルドはずっと見ていたのよ? 気がつかなかったのかしら?」
「なっ! やりますね……」
「そういえば一つ気になることが」
ミッドは誰がどう見ても少年です。
周りの住人とは親と子くらいの年齢が離れているように見えます。
雪の地出身のミリアムという少女も、ミッドより少し年上。シャルドネと同じくらいの年でしょうか。
「……シャルドネって何歳ですか?」
シュッ!(シャルドネが拳を突き出しました)
パシッ!(ボクは受け止めました)
ササッ!(シャルドネが横に見えない速さで移動しました)
ザッ!(何とか目では追えたので対応を……)
ばあん!(……痛いです)
「……シャルドネ。手加減を覚えてください。ボクの体が持ちません」
「女の子に年齢を簡単に聞かないの。と言っても十六はそれほど気にする年齢では無いけど」
「じゃあボクもこれからその年齢で名乗ります」
いやいや、それを聞きたかったわけではありません。と言うかシャルドネって予想より上なんですね。見た感じは十だと思ってました。やはり精霊としての感覚で人間を見るのは正確ではありませんね。
「どうしてこの町ではミッドが一番魔力が高いのでしょう」
「……それは……」
チラチラとシャルドネを見るミッドに、シャルドネがため息をついて答えます。
「この町には傭兵がいたんだけど、出身地は何処も雪の地や草の地だったのよ。それで、子供ながら自分の地域は自分で守るって言って、私に武術を教わったのよ」
「やはりシャルドネから教えて貰ったのですね。それとなくシャルドネに動きが近かったです」
「あくまで身を守る術しか教えてないけどね」
「でも、だとしても大人の魔力が少ないのは何故でしょう」
「あのー、あくまで研究所の報告なんですが……」
ミリアムが少し離れた場所から話しかけてきました。タオルを持っているところを見ると、毎朝鍛錬をして、その終わりを告げに来ているのでしょうか。
「人間の持つ魔力は、肉体や精神に比例して強くなります。ミッドの魔力が強いのは、日々の鍛錬の結果です」
なるほど。そして一番強いため、大人達も言うことを聞くのですね。子供なのに。
「凄い町ですね。せいれ……他の町から来た身としては、大人の人が子供を守るのが普通と思っていました」
「この町の人間は……多彩な物資で人を雇って身を守ってました。だから、雇えない今は誰にでもかまわず自分より強い人にすがるのです」
「じゃあ実際ボクが悪者だったら、あの時の奇襲はどうしていたのですか?」
「僕が戦ってました」
なるほど。アレはあくまで脅し。実際戦うのはミッドなのですね。
この町の秩序についてはわかりました。
あとは、悪魔の薬についての情報も聞きたいところですが……。
「ねえ、ミッド。あなた、どれくらい強くなったか、見せてくれない?」
「ええ!」
突然のシャルドネの提案に、ミッドは驚きました。
「だって、ミッドがどれくらい強いのかを調べないと、今後どう動いて良いか分からないわ」
「わ、わかったよシャルドネ姉ちゃん」
そう言って、ボク達は少し広い場所へ案内され、手合わせを見ることになりました。




