「こんな秘密なら・・・」【番外編】(3)
車内に、不穏な沈黙が生まれる。
ほとんど無意識のうちに訊いてしまったわたしは、沈黙にも煽られて、不安がますます濃くなっていくのが分かった。
「アオイさん?」
今里さんは、誰それ?という感じに訊き返してきた。
・・・とぼけるつもり?
そんな苛立ちが、思わず芽生えてしまう。
「・・・今、お話にあがってたアオイさんです」
さっきより語気を硬くした私に、隣の今里さんが微かに動じた気配があった。
「ああ、あのアオイさんね。仕事関係の人だよ」
そう言った今里さんは、いたって冷静にも感じたけれど、いつもより早口だった。
その反応に、”なにかを誤魔化した” という印象が、どうしても先行して届く。
わたしはクッ、と唾を飲み、再度、今里さんに尋ねた。
「どのお仕事の関係の方ですか?海外展開?それとも新しいプラン関係の方ですか?」
今里さんにつられるように、私も早口になってしまう。
すると何を思ったのか、今里さんがフッ、と吐息で笑ったのだ。
「・・・なにがおかしいんですか?」
ちょっと不機嫌な響きになってしまうのはやむを得ないだろう。
なのに、
「いや、ごめん。そんな饒舌な幸をはじめて見たから。・・・・もしかして、なにか勘違いしてる?」
クスクス笑いをとめない今里さん。
私は瞬間的に頭に感情が昇ったのを感じた。
「でもさっきも何度も電話があったのに、今里さん、かけ直さなかったじゃないですか?!仕事関係の方なら、どうしてかけ直さないんですか?!」
そう大声で言い放ったあと、しまった・・と、即座に後悔に包まれる。
・・・これじゃ、私が今里さんの携帯にかかってきた電話をいちいち確認していたのがバレバレじゃない。
バツが悪くなった私は、今里さんから顔を背けた。
けれどそんな私を見ても、今里さんは笑いをとめるどころか、さらに声をあげて笑った。
「もしかして、疑ってるの?・・・・それとも――――――」
今里さんは、私が電話の相手をチェックしていたことには触れもしなかったけれど、その代わりに、意味深な眼差しを向けてきた。
「――――嫉妬?」
彼がそう訊いた刹那、カアッと体の中を熱が走り抜けた。
熱くて、焼けるような炎が一瞬で私自身を貫いていったのだ。
視界に映る今里さんは、こちらを試すような瞳で、どこか色香すら含んでいて。
・・・・はじめて会ったときを思い出してしまう。
あの、扇情的な今里さんを・・・・
「――――っ!」
私は運転席を直視できず、うつむいた。
そして、膝の上の両手に、平常心を閉じ込めていたことを思い出す。
「・・・もう、いいです。・・・・今日は、もう、ここで結構です。すみません、車を停めてください」
体はまだ熱を保っているのに、私の言葉はなけなしの平常心によって冷まされていた。
・・・・だって結局、私は今里さんが好きなんだもの。
たとえ ”アオイさん” の正体を知ったとしても、その事実は揺るがないのだから。
それに、もし、今里さんと ”アオイさん” が特別な間柄だったとしたら、きっと彼からなにか告げているはず。
なにより、こんなに私を大切にしてくれている人が、私を傷つけるようなことをするわけない。
平常心を意識した私は、自分にそう言い聞かせた。
けれど、やっぱり一度昇りきってしまった気持ちのクールダウンは必要で、
今日は、一旦、今里さんから離れた方がいいと思ったのだ。
私の勝手なお願いに、今里さんは車を路肩に停めてくれた。
カチ、カチと鳴るハザードが少しだけ寂しかったけれど、
私は降りるためにシートベルトに手をかけた。
そのとき、
「はじめて嫉妬してくれた幸を、オレがみすみす帰すと思う?」
最大級の色香を放ちながら、
今里さんが深いキスで私を引きとめたのだった。




