再びドラゴニアン・ハート城
隻眼の黒龍は徐々にスピードを落とし、原色でコテコテ塗り固めたような(言い換えればラブホテルのような)ドラゴニアン・ハート城の中庭にフワリと舞い降りた。間髪を入れず、甲冑に身を固めたドラゴニアの騎士たちが、手に手に武器を持って飛び出してくる。なお、若干の心配事としては、わたしと帝国宰相とマーチャント商会との間の密約(わたしが、ドラゴニアのワイン産地に関するマーチャント商会の権益を譲り受けること)がドラゴニアに漏れているということがあるが……
「おお、これは、ウェルシー伯! 突然の御来訪ですが、いかがなされましたか!?」
騎士たちの最後にゆっくりと歩いてきたのは、アース騎士団長だった。
わたしは隻眼の黒龍の背中から降り(アンジェラもわたしのすぐ後に続く)、ニッコリと愛想笑いをして、
「しばらくぶりです。用事というほどのことはないのですが、つまり、そういうことです」
すると、アース騎士団長は、「はあ?」と怪訝な表情をして、
「よく分かりませんが、『そういうこと』でしたら…… ただ、今はいろいろと忙しいことがありまして、あまりおもてなしはできないのですが」
「ええ、どうぞ、お構いなく」
わたしは思わず苦笑しつつ、アンジェラと顔を見合わせた。「おもてなし」は不要だけど、食事には、とりあえず食べても害がないものを願いたいものだ。なお、アース騎士団長の態度を見る限りは、ワイン産地に関する密約がドラゴニアに漏れたという可能性は考慮に入れなくてもよさそうな気配。
「とにかく、こんなところで立ち話もなんですな」
アース騎士団長は少々難しい顔をして、「持ち場に戻れ」という意味だろう、騎士たちに手で合図を送った。すると、騎士たちは、きびきびとした動作で場内に戻っていく。
「では、こちらへ。ウェルシー伯の好みに合うかどうか……合わなければ申し訳ないのですが、前回宿泊していただいた部屋に案内しましょう」
アース騎士団長は、そう言うと、城内に向かって歩き出した。わたしは子犬サイズに体を縮めた隻眼の黒龍すなわちプチドラを抱き上げると、アンジェラを伴って、アース騎士団長に続く。
「このごろは、何かと忙しくなりましてね」
アース騎士団長は、わたしたちを案内する道中、少し疲れたように言った。
わたしも適当に騎士団長に話を合わせ、
「御子息から聞きましたが、アート公、ウェストゲート公、サムストック公がドラゴニアに騎士団を派遣して、それはそれで大迷惑だそうで……」
「あのクソッタレどもですか。本当に、ヤツらさえいなければ、面倒はないのですよ! 今も、せっかく帝国宰相から、手打ちの話が来てるのに!!」
「えっ!?」
意外にも、アース騎士団長から「帝国宰相」のフレーズが。しかも「手打ち」とは!? 帝国宰相が裏で手を回しているのだろうが、一体……




