老獪な立ち回り
わたしは、思わず歩みを止め、
「アース騎士団長、今、確か『帝国宰相』と?」
すると、アース騎士団長も、同様に立ち止まり、
「そうです、帝国宰相です。ウェルシー伯は御存知ではなかったですか? 話し出すと長いのですが、結論的に申し上げますと、ドラゴニアでの戦争が回避できるかもしれないということです」
「戦争を回避ですか。それは、例えば、ドラゴニア騎士団としての総意で、そう決めたということですか?」
「騎士団としての正式な決定はまだですが、まあ、そのように受け取ってもらっても構いませんな。我々ドラゴニア騎士団は、義のためであれば、いかなる戦いも、また、どのような形の最期も恐れません。しかし、戦争となれば、領民にも大きな被害が及ぶことは必定。そこで、ここは一つ、帝国宰相の提案に乗っかって、和平の道を模索してみるのも、騎士の道ではないかと、こういうわけです」
「そういうものですか……」
わたしは、「う~ん」と首をひねった。帝国宰相は、自分の息のかかったローレンス・ダン・ランドル・グローリアスなる背の低い坊ちゃんを新たなドラゴニア侯とするため、ツンドラ侯の騎士団を中核とする諸侯有志連合軍の派遣の実現に向けて動いていたはずだ。しかし、その一方で、アース騎士団長に対し、戦争とは真逆の和平の話を持ちかけていたとは……
プチドラは、わたしの腕の中で顔を上げ、
「帝国宰相もさすがだね。マスターに勝るとも劣らない、実に効果的な二枚舌」
「二枚舌…… そういう言い方もできるわね」
わたし的には、少し……、いや、かなり引っかかる言い方だけど、そのことはさておき、今回の帝国宰相は、わたしの前では冴えない顔をしつつ、わたしの知らないところで相当に老獪な立ち回りを演じているようだ。ドラゴニアに連合軍を派遣しつつ、その裏でドラゴニア騎士団とこっそりと和睦してしまえば、戦闘行為によるドラゴニアの荒廃を避けることができるだろう。ただ、こうなると、気になるのが、その和睦の内容で……
「アース騎士団長、『和平の道』ということですが、具体的には、どういうことでしょうか」
「『どういう』とは、つまり、帝国宰相がどのようなことを提案してきたのかということですか。この度の一件、ウェルシー伯にも関わっていただきました関係上、お話ししないわけにはいきません。しかし……」
アース騎士団長は、不自然なくらいに、周囲をくるくると見回した。
ところが、その時……
「はーっはっはっはっはっ!!!」
不意に、わたしたちが進んでいく廊下の先の方から、中年と思しき(複数の)男たちの、非常にやかましい(しかも、品がなさそうな)笑い声が響いた。
その瞬間、アース騎士団長は「チッ」と舌打ちして、見る見る顔を紅潮させた。そして、声をかけるのも怖いくらいの表情になって、
「ウェルシー伯、申し訳ないが、今の話は、また……」




