研究の進捗状況
パターソンは、ここで、抱えていた資料を机の上に置き、
「ところで、カトリーナ様、先ほど、私を『呼ぼうとしていた』とは、いかなる用件で?」
「ええ、そのことね。実は、とても、くさい…… いえ、そうじゃなく、でも、やっぱり、とてつもなく、くさい話には違いないんだけどね……」
すると、パターソンは「ははは」と苦笑しつつ、
「分かりにくい表現ですが、意味はおおよそ分かります。以前、重武装人造人型兵器の研究・開発を依頼したスヴォールは、その後、どうなっているのか、あるいは、研究が進んでいるのかということでしょうか」
「よく、今の言い方で分かったわね。『くさい』以外に何も言ってないけど、さすが。で、どう? 少しは研究もはかどっているのかしら」
すると、パターソンは、何やら言いにくそうに口をモゴモゴとさせ、数秒後、踏ん切りがついたかのように、
「申し訳ありません、カトリーナ様。実は、スヴォールとは、あのとき以来、接触していないのです。え~、この際、なんともはやですが……」
と、パターソンは顔を伏せ、本当に面目なさげ。でも、気持ちは分かる。あんな「くさい」ところに、自らの主体的意志で出向こうという人は、実際問題、いないだろう。日頃はソツのないパターソンだけど、スヴォールの研究の進捗状況を確認せねばと思いながら、ついつい後回しになってしまったということも、十分にあり得る話だと思う。
わたしは、特に表情を変えることもパターソンを見上げ、
「分かったわ。あなたを責めてるわけじゃない。ただ、スヴォールに研究を依頼してから、結構、日も経ってるから、この辺りで、ひとつ、研究の進み具合を見てきてくれる?」
「承知しました。で、カトリーナ様は、どうされます? 御自分の目で確認されますか」
「わたし? わたしは、当然……、いえ、遠慮しておくわ」
と、深い意味も浅い意味もあるわけではないが、とりあえずはニッコリ。
パターソンは一礼すると、クルリと向きを変え、これからすぐにスヴォールの住居兼研究所に向かうのだろう、やや駆け足で応接室を出た。
プチドラは、ジ~ッと、わたしを見上げ、
「マスター、通常一般人の社会道徳的な観点から言えば、今みたいに、彼一人に全部をというのは、その、なんというか……」
「分かってるわ。誰もが嫌がるような汚くてくさい仕事を、上司としての権限を活用して部下に押しつけるのは、いかがなものか、ということでしょ」
プチドラはコクリとうなずいた。わたしにも、多少、後ろめたい思いはあるし、自らスヴォールの研究の進捗状況を確かめたい気もする。でも、あんな、筆舌に尽くしがたいようなところ……、思い出すだけでも、オェ~。
「それじゃ、プチドラ、あなただけでも、パターソンと一緒に行く?」
プチドラは、左に右にブルンブルンと首を大きく回した。やはり、プチドラも、イヤなものはイヤということらしい。




