事件発生
パターソンを送り出した後、わたしは特に何をするともなしに、応接室で寝そべっていた。そうしているうちに、日は西に傾き、そして……、グ~、グ~……
わたしとしたことが、つい、うたた寝していたらしい。
やがて、うっすらと目を開けたわたしは、寝ぼけ眼をこすりながら、
「あら、もう、こんな時間だったの……」
と、起き上がり、腕と腰の筋肉を伸ばした。見ると、プチドラも丸くなって、ソファの上で静かな寝息を立てている。
わたしはプチドラの尻尾をグイと持ち上げ(逆さ吊りにして)、
「起きなさい。いつまで寝てるの?」
「あい~? 世界の銘酒付き480時間耐久法廷闘争模擬大戦に出場してるんじょ……」
どうやら、プチドラはまだ夢の続きらしい。わたしはプチドラを逆さに持ち上げた姿勢のまま、プチドラのほっぺたを軽くつねり、
「しっかりしなさい。いつまでも寝ていると、晩御飯にありつけなくなるわよ」
すると、プチドラは「えっ」と驚いて、隻眼をむき、
「それは困るよ。おなかの虫が大暴れしては、この帝都が危ない!」
帝都が危ないくらいのおなかの虫って…… 一体、どんな虫???
ともあれ、プチドラは(意識がハッキリしてきたのか)、頭を下にした体勢のまま、クルクル回転して器用に周囲を見回し、
「う~ん、マスター、なんだか、いつになく屋敷が静かな気がするんだけど……」
「そう? まあ、言われてみれば、そうかも」
確かに、プチドラの言うように、アメリアとアンジェラが天然ボケ・ツッコミの漫才あるいはコントを繰り広げている気配はなく、屋敷内はひっそり静まりかえっている。のみならず、いつのパターンなら、わたしが目を覚ました時には、パターソンがソツなく(しかも都合よく)、「お目覚めですか」と姿を見せるはずだけど、彼の姿もない。
「どうしたのかしら?」
わたしは、独り言のように言った。アメリアとクレアは、慌ただしくお使いに出かけたはずで、パターソンは、とにかくくさいスヴォールのところに赴き、研究の進み具合を確認しているはず。ただ、出かけた時間を考えると、常識的には、夕方のこの時間になれば、三人とも屋敷に戻っているはずだ。
わたしはプチドラを膝の上に乗せ、薄暗くなった応接室でアメリアとクレアとパターソンを待った。しかし、いつまで待っても……完全に日が暮れても、まったく、なんの便りもなかった。わたしのおなかの虫がグゥ~と機嫌の悪そうな声を上げている。一体、どうなっているのだろう。
その時、不意に、廊下からドタバタと大人数が行ったり来たりする足音が聞こえた。同時に、蒼い顔をしたパターソンが、応接室に駆け込み、
「カトリーナ様、事件です。アメリアが、いなくなってしまいました!」




