ドラゴニアのことはドラゴニアで
話を先に進めよう。ドラゴニアに関する諸問題については、御曹司がどういうわけか生存していたことにより、それに関する動きが一気に加速することとなった。
実のところ、これには背景事情があり、それは、宮殿の内外において、次のような噂がまことしやかに語られるようになったからだという。その噂とは、具体的には、「新ドラゴニア侯(公には、ローレンス・ダン・ランドル・グローリアス)が行方不明になってしまったことは仕方がない。帝都でいた時も、大地の精霊に地中深く引きずり込まれ、人が変わってしまったという話になっていたから。ただ、そうであれば、今度は、風の精霊にどこかに連れ去られてしまったとしても、不思議なことではなかろう」というものだとか。誰が言い出したのか知らないが、よくもまあ……、なんとも批評も論評も評価もしようのない話ではある。
そして、帝国宰相が、その噂を真に受けたのかどうか知らないが(まさか、本当に真に受けたとは思えないが)、「新ドラゴニア侯のグローリアスが行方不明になったとしても、前ドラゴニア侯の御曹司が生存しているなら、もう一度、彼にドラゴニア侯を務めてもらってもよいのではないか」と言い出したため、その結果、話がそちらの方向に向かって進み出すことになったという。
「帝国宰相がそうおっしゃってくれたおかげで、私は命を取り戻しましたよ。いやぁ、よかった。これでもう、あの新ドラゴニア侯のことが話題に上ることもなくなるでしょう。本当に、よかったです。地獄の針の山、炎の海から拾い上げられた思いですよ」
そう言ったニューバーグ男爵の表情には、天国的な安堵感みたいなものがあった。
こうして、あの御曹司が……、わたし的にはあろうことかだけど、再びドラゴニア侯に返り咲くこととなった。そして、更にあろうことか、ドラゴニアに関する諸問題は、帝都においては言わば完全に解決することになった。
「本当にそれでいいのですか!?」
これは、そうした話を聞いたときのわたしの反応。漫画的に目が点とは、こういう時のことを言うのだろう。
しかし、なぜ御曹司がドラゴニア侯になれば諸問題が解決するのか。それは、結論的に言えば、ドラゴニアのことはドラゴニアで解決すべしという方向で、帝都での関係者の同意が得られたからだという。そう言われてみれば、しばらく前、帝国宰相から、「ドラゴニアにおけるウェルシー伯の権益はこれまでと同じ。よろしいな」との趣旨のことが書かれ(パターソンの「解読」による)、署名欄が設けられている手紙を受け取ったことがあった。ということは、わたしも「関係者」に含まれるのだろう(なお、その手紙は、なんだかよく分からないが「これまでと同じ」ならよいだろうという判断で、即日、署名して返信した)。
そして、その「ドラゴニアのことはドラゴニアで」という意味は、ニューバーグ男爵の解説によれば、言葉のとおり、「帝国政府は関与しないから、ドラゴニアの自助努力でよろしく」ということらしい。つまり、最終的には問題点は積み残しのまま、帝国政府としては「知らないよ」ということ。なんともひどい話だけど、わたし的にはどうでもいいこと……




